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 アヴィ教

 その日、教会は上を下への大騒ぎだった。


 最近は、新しい魔王の誕生や、それに伴う様々な嘆願や調査報告などに忙殺されていたが、今日はその比ではない。




 第11魔王の死亡が、星球院から報せられたのだ。




 それだけならまだ良かった。第11魔王の死亡報告など20年に1度はある、言わば慣例行事のようなものだったからだ。これが、第2魔王や、まして第1魔王の死亡報告だったとすれば、今の比ではないパニックが予想されるが、それがあのコションであれば、取り立てて騒ぐ程ではないのだ。




 その報告が、その日の内に2度入らなければ。




 星球院は、世界の魔力と同調できる巫女が治める小さな機関であるが、我がアヴィ教とは違う宗派に属する。にも関わらず、今だ存続しているのは、こうして魔王の生誕や、死亡を正確に読み取れるからである。

 これから、真大陸全土にある社に連絡が入り、各国に情報が伝わるだろう。そうなれば、魔大陸侵攻の嘆願は、今の3倍は集まろう。




 問題は、なぜ魔王コションが死んだのかである。


 病や、飢えで死なぬ魔王の死ぬ理由。


 単純に討たれたか、仲間の裏切りにでもあったのか。


 いや、コションは確か魔大陸の北に居を構えていたはずである。そして先日生まれた第13魔王が、『魔王の血涙』に生まれ落ちたはずだ。だとすれば、あんな場所に拠点を置く理由など無いのだから、第13魔王が南下し、そこでコションとぶつかったと見るべきであろう。


 とかく魔王というものは傲慢で、利己的である。魔王同士で殺し合うのも、ままあることだ。

 しかし、そうなると問題は、第13魔王である。


 生まれてから1月と経たず、200年も生き、幾度の争いを生き残った魔王を討つとなれば、そうとうな実力が予想される。

 魔大陸侵攻も、いよいよ持って現実味を持ちはじめた。




 これは教会の悲願である。




 30年ほど前の侵攻は、見るも無惨な体たらくではあったが、今回はそうはいかない。

 きちんとした防寒装備、兵站、兵器と、我々教会はこの日の為の準備に抜かりはない。


 これ等を扱う数十万の兵士達は、必ずや彼の魔王を討ち取り、魔大陸の魔族どもを根絶やしにしてくれるだろう。


 だが、1つだけ気がかりな事も無いではない。




 勇者のことだ。


 前回の魔大陸侵攻では、何故か侵攻に参加せず、アムハムラ王国で漁をしていたらしい。コションが侵攻してきた時は、我々が何も言わずとも、真っ先にアムハムラ王国に救援に向かったというのに、魔大陸侵攻が決まり、進軍が開始されても、我々の再三に渡る要請を無下にし、魚捕りなんぞにうつつを抜かしおってたのだ。


 本当にあれが、世界に平和をもたらすために遣わされた使徒なのだろうか。


 人間ではあり得ぬほどの力を有していても、教義を蔑ろにし、信仰の薄い様は、どう見ても背教者なのだが。

 光の神も、なぜあのような、やる気のない、身勝手で野放図な者を遣いに寄越されたのやら。


 いや、所詮は星球院の言い分。異教徒の戯言と言うことか。あれが勇者だという保証などないのだ。


 とにかく、今回はなんとしても魔大陸侵攻に、あの勇者も参加させねばなるまい。率先して前線に立ち、魔族どもを駆逐することこそ、平和の礎を築くべき、勇者の仕事なのだから。それをもって、自らが勇者であることを証明するべきである。




 「ユヒタリット枢機卿、会議の準備が整いました」


 信徒が私の部屋を訪れ、そう告げた。顔には少々緊張が見られる。緊急の会議だ。こやつもこの会議で何が決まるのか、興味があるのだろう。


 「わかった。すぐに行く」


 儂は、直ぐ様立ち上がり、卸し立ての法衣を着込む。うむ。なかなかの仕立てだ。高い金をふんだくるだけはある。


 扉の外で待っていた信徒を連れ、儂は会議室へと向かう。




 さて、今度こそ穏健派の者共を黙らせ、魔大陸侵攻の上奏を教皇猊下に届けられるとよいが。





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