第二回、勇者と魔王の交流会っ!?
「こいつはアレだ、僕の配下の一人で、そこそこ腕の立つ人間だよ」
僕はオールに、シュタールについておざなりに説明した。
「ほう、人間を配下に加えるか。それも戦力としてとな。キアスはときに、我の理解の及ばぬ事をするの」
「なんだ、知らなかったのか?今、僕の代理を任せてるのは、人間の、しかも子供だぞ?」
フォルネゥスは、さっき言った一握りの天才だ。彼女に任せておけば、基本的には僕はなにもしなくていい。後でちょっと怒られれば済む話だ。
逆に、もう僕の縄張りは、フォルネゥスなしには回らないと言っていい。僕が把握していない部分とかも結構多いし、書類にフォルネゥスのサインがあると、ほとんど確認もせずに判を捺してたりもするからな。
いや、良くない事だとはわかってんだけどね……。
「否否。事務仕事ならまだしも、槍働きとなれば、人間よりも魔族の方が長けておるのではないのか?」
「うーん、結局それって、種族的適正の話でしかないから、例外は往々にしてあるさ」
「むぅ……? ちょっとよくわからんの。どういう意味じゃ?」
「つまり、魔族はたしかに戦闘面で人間よりも長ける傾向にあるけど、必ずしも人間より強いってわけでもないって事さ。
種族的に魔族は、人間よりも魔法適正が高く、力も強い傾向はある。ただしそれは、あくまで種族的平均値を比べた結果でしかない。人間の中でも、魔法に長けたエルフは、大方の魔族と同等かそれ以上の魔法適正を有する。基本的には戦闘に向かないドワーフという種族も、その力は魔族に比肩しうるだろう。
ああ、逆の例をだした方がわかりやすいのか。レライエは凡百の人間より頭がいいけど、彼女は魔族だろ? 他にも頭のいい魔族なら、オールの配下にだっているだろ?」
僕の配下の大部分は、元はオールのところで働いていた者だ。勿論、そこそこのおつむのできは確認してから雇っているので、学のない真大陸の一般庶民と比べれば、学力という面では、僕の配下は人間を凌駕しているといっても、あながち過言ではない。
「なるほど。それに、今更ではあるが、真大陸にも魔大陸にも、巨人族という種が根付いておるものな。あれ等は基本、体が大きいから他種族よりも戦闘に長け、力も強い」
「ああ、そういえばそうだな」
魔大陸では、巨人族というのは戦闘のプロフェッショナルというイメージが強いな。巨人にも各種族があり、それ以上に個体差はあるとはいえ、やはり魔大陸で巨人といえば、一目置かれる存在だ。
「真大陸の巨人って、僕は会った事ないけどね」
ドワーフの山脈国家、ノーム連邦で林業や牧畜を生業としているって聞いた事はあるけど、彼等巨人族が住んでいる柱森州って、富士の樹海がちょっとしたジオラマ程度に見えるくらいの魔境だからなぁ。僕も、転移の指輪なしには、絶対に足を踏み入れたくない場所だ。
そんな事を考えていたら、ボケっとした顔で魔族たちを観察していたシュタールが話に割り込んできた。
「あ、俺、巨人族会った事あるぞ」
「へぇ、珍しいな」
「オンディーヌ連れ歩いてる奴に言われてもな……」
オンディーヌつっても、あれフルフルだから。
「どんなだった? 何m級?」
「きゅう? いや、よくわかんねーけど、遭難してるときにバッタリ出会したんだ。めっちゃデカかったぜ。たぶん十五、六mくらいか? 特徴的な民族衣装だったし、そっちに目がいっちまって、あまり詳しくは観察してねーんだけど」
「使えねー」
「ヒデぇ!!」
しかし、巨人族が服を着ているというのは、ちょっと意外だな。
いや、ただの偏見でしかないし、僕の配下の巨人はきちんと服を着ているのだが、なんとなく腰ミノ一枚で棍棒でも持っているイメージだった。魔大陸の巨人に関しては、そのイメージでもほぼほぼ合っている。裸族多いし。技術ないし。
それにしても、巨人族の民族衣装って、それはそれで、大変そうではあるよな……。布の量的に。
「すぐ逃げられたしな」
「逃げられた?」
「巨人族ってのは気が弱いんだよ」
「ああ、そういえば聞いた事があるよ」
「そうなのか?」
今度は、新大陸の情報に疎いオールが、僕とシュタールの会話に割り込み、訊ねてきた。
「なんでも、子供に見つかれば泣いて逃げ、女性に見つかれば赤面して逃げ、屈強な男に見つかると、逃げる前に気絶するんだって」
「はぁっ!?」
僕が、真大陸の巨人について、噂話程度の特徴を聞かせると、オールがその大きな口をガバッと開いて驚嘆の声を上げる。声というか、もうほとんど雄叫びだが。
「いや、流石にそれは誇張なんだけどな。でも、他種族に見つかると泣いて逃げるってのは合ってる。俺のときもそんな感じだった」
「ほぼ合っとるではないかっ!! なんじゃ、その巨大もやしはっ!?」
「巨大もやしって……」
「違いなかろ? にしても、そんな軟弱な連中、戦の役には全く立たんな。種としても興味が持てん」
「あ、でも巨人に滅ぼされた国って、真大陸の歴史の中ではそこそこの数あるぜ」
「なにがあったのじゃ、巨人連中にっ!? あれ? なぜか我、ちょっと真大陸の巨人族に興味が沸いてきたぞ。種はいらんが」
なんだかんだで、いつの間にかシュタールとオールが仲良くなっていた。というかこの場合、当然のように八十mのオリハルコン製の龍と話してる、シュタールの図太さが際立つんだけど。どれだけ無神経なんだ。勇者なんだろ、お前?
「オール様、そろそろ…………」
そんな、第二の勇者と魔王の交流を遮ったのは、オールの侍従だった。
「むぅ、時間か……」
「はっ」
少々名残惜しそうにそう言うと、オールが僕とシュタールに向き直る。
「キアス、それに人間の男、我は配下たちを鼓舞してこなければならん。後ろ髪を引かれる事山の如しではあるが、一旦別れようぞ」
「ん、りょーかい」
「おう、楽しかったぜ、金の龍!」
そういえば、こいつ等って自己紹介すらしてないんだな。まぁ、別にいいし、仲介するつもりもないけど。悠然と空を飛び、自陣へと向かうオールを見送ると、僕等は少々時間を持て余す。さて、なにをしようか?
「っていうか、お前はしなくていいのか?」
「ん? なにを?」
「いや、だから鼓舞っていうか、『えいえいおー』みてーな? 魔王なんだろ?」
…………。……なるほど。
「無論、忘れてたわけじゃないさ。アリタ、そろそろ時間かい?」
「へ……? あっ! は、ハイっす! そろそろかもしれないかもしれないっす!」
「そうか、じゃあ僕らも行こう」
「ん、ココ、なにも言わずに着いてく」
「うす、お供するっす」
僕等三人が歩を進める中、シュタールの声が背後から聞こえてきた。
「……俺も大概だけど、キアスも全く、魔王らしくはねーよなぁ……」
失敬な。僕はこれでも、魔大陸北部一帯という大領の主、魔大陸経済の支配者、殺戮王と名高き第十三魔王だぞ? いちいち言葉にすると自慢っぽく聞こえるから、ここではあえて反論はしないが。しかし、配下の二人は僕を慕い、僕に絶対の忠誠を誓ってくれているので、ここで僕がなにを言わなくても、わかってくれているのだ。
「「…………」」
え? なに、その苦笑?