戦場の魔王さまっ!?
基本的に魔大陸という場所は、自然が過剰に豊かな場所である。過剰すぎて、場所によっては動物よりも植物の方が、食物連鎖では上位に位置していたりする。これはこれで自然破壊だと思うのは、僕が地球の常識に囚われているせいだろうか?
ともあれ、そんなわけで、結論としては、魔大陸で戦争をしようと思ったら、下手な場所でおっ始めるわけにはいかないという事だ。
食人植物の群生地帯に足を踏み入れるのは最大限忌避したい事態だし、流砂、流土、流岩地帯も、軍隊で通過すれば甚大な被害をうける事になるだろう。溶岩が噴き出したり、間欠泉が噴き出したり、最悪の場合、鉄鉱床が隆起して、文字通りの剣山ができあがるのが、ここ魔大陸なのだ。
そんなの防げるの、あの変態龍くらいのものだからね、マジで。
おまけに、そういった自然が文字通りの猛威を振るっている地域には、たいていの場合、高位の精霊が存在する。そう、フルフルみたいな奴だ。精霊っていうのは、真大陸の人間が神聖視しているような、そんな上等な生き物ではない。フルフルを見ていれば明白だが、アレは基本的に思考ではなく感情のみで生きている。思考するという機能が、あの魔力生命体に備わっているのかどうかすら、やや疑問だ。
さて、そんな感情のみで生きているうえに、馬鹿げた魔法適正を持った精霊の住処に足を踏み入れればどうなるか、それも軍隊で足を踏み入れればどうなるか、想像のできない御仁はいない事と思う。
付け加えておくと、精霊の怒りを買うというのは、街中で配られる使い捨てのティッシュを手に入れるくらい、安価で容易なミッションなのである。
大安売りどころか、タダだからね、アレ。
そんなわけで草原である。青々とした背の低い草が茂る、草原である。
いやぁ、素晴らしい! 平野は平野でも、下手に岩石地帯や荒野を戦場に選んじゃうと、その下になにがあるか、わかったもんじゃないからね。その点、既に草が生えてるならだいぶ安心だ。その草に毒とか攻撃性とかがないなら、もう心置きなく戦争に専念できる。最低限草が生えてたら、地面が抜ける事もないだろうからな。
僕等から少し離れた場所には、火と硫黄の雨もなんのそのでお馴染み、変態龍こと第四魔王オール・ザハブ・フリソスの軍が犇いており、その数はざっと見ただけで十万を下らない。しかも種族や体型ごとにそれぞれ分かれ、きっちりと隊伍を成しているのだから壮観ここに極まれりだ。
いやはや、これで全軍じゃないってんだから、すごいよね。
さらに数キロ離れた場所には、リアルム◯キング、魔王にも通じる毒使いで有名、第五魔王アベイユ・ファラス・アルナビ・エラフォカンタロスの軍が既に勢揃いしていた。こちらもすごい数だが、こうして俯瞰で見た感じでは、オールの軍よりアベイユさんの軍の方が、やや規模が小さい。やはり、最古参の一角で、強大な三大魔王の威光というのは、力の理論で生きる魔族にとって、強いカリスマであるようだ。本人はアレだが。
「なんぞ、失礼な事を考えておらんか?」
「いや、厳然たる事実のみを考察していた。にしても、やっぱり僕の軍は小さいったらないな」
余計な鋭さを発揮するオールを軽く受け流し、僕はオールの軍の横にちょこんと居座る集団に目を向けた。あれが第十三魔王軍、つまりは僕の軍隊だ。オノマトペでも瞭然だが、オールやアベイユさんの軍とは、比べるのも失礼になるくらいの小勢である。
今回の戦争で、僕に任された役割は補給部隊だ。大人数でチャンバラするのは他の魔王連中に任せ、僕等は別の事に注力したいのだ。ただ、総輜重隊とはいっても、僕の軍全員が非戦闘員な訳でもない。というか、そんな補給部隊、どこ探したってないだろう。
基本的には補給部隊の護衛要員として、こうして僕が戦場にいる内は、万一に備えて戦列に参加するのが、戦闘部隊の任務である。ちなみに、あの部隊の指揮はロロイがとっている。バルムやアルルは他の戦闘部隊の指揮についているし、人が足りないので、普段は近衛のドドゼドも戦闘部隊の指揮官として派遣しているくらいだ。
そうして、なんとかかんとか腕に覚えのある者を集めた事で、戦争に参加したのに戦闘要員すら参加させなかったという事態にはならず、僕も魔王としての体面を保てたと言える。言えるのだが……。数が少なすぎて、逆に僕の不名誉となっている気がしないでもない。
しかし、僕の懸念に対し、オールは軽く返す。
「なんぞ、そんな事を気にしておったのか。無理もなかろ? 貴様は生まれて一年にもならぬ、赤子がごとき年齢ぞ。むしろ、そんな時分に、曲がりなりにも縄張りと軍を維持し、こうして戦争に参加しているだけでも驚嘆じゃ。普通なら、配下も三桁に届かん頃合いじゃて」
「魔大陸のおバカさん連中と比べたら、まぁそうだろうね」
「いや、真大陸でも驚愕じゃろ、こんなの。貴様は人間の知力を、やや過信しすぎではないか? 結構馬鹿じゃぞ、奴等」
「む」
オールのくせに、的確な指摘じゃないか。オールのくせに。
いや、人間のごく一部は、本当にすごいんだよ。その中でも一握りの天才たちは、歴史を動かすような発明や政治の才を発揮し、人類を牽引してきたと言っても過言ではない。文字通りの偉人なのだ。
ただまぁ、大多数の人間は普通だし、その中でも一部の連中は、おバカさんの魔族にすら劣る、本当の馬鹿だ。そういう連中ばかりが目についてしまうのは、洋服についたシミが目立ってしまうようなものなので、オールの指摘も誇張をだいぶん含む。
僕とオールの意見、どちらが正しいかというのは、結局のところジャンケンで一番強い手を論じ合うようなものだ。
「その辺、真大陸代表としてはどう思う?」
僕は、僕の隣に立つ男を見上げ、そう尋ねる。
「いや、まずどうして俺がここにいるのか、聞いてもいいか?」
たらりと冷や汗を流しながら、光の勇者シュタールは、巨大な金の龍、オールを見上げて尋ねてきたのだった。
「そりゃ、お前が戦争に参加させろとか言い出したからだろ」
僕はため息を吐いた。




