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 湯煙慕情っ!?

 しゃぁわせだぁ〜。


 今僕の目の前には、一糸纏わぬ2人の美女がいる。


 もうこれだけで言う事はないほどだ。


 背が高く、やや筋肉質ながらも、スラリとしたモデル体型なパイモン。

 黒に近い灰色の肌と、白に近い灰色の髪。そのモノトーンの中に、金色の瞳がアクセントとして目を惹き付ける。勿論、角を忘れてはならない。彼女のコンプレックスにして、しかし中々のチャームポイントである角。額から、天を衝くように伸びた1本の角は、普段なら無骨だとか、雄々しさの象徴だろう。しかし考えてもみて欲しい。そんな立派な角を生やした彼女は、今は生まれたままの姿で、たおやかな体のラインも丸見えであるのだ。


 これをギャップと言わずしてなんと言おう!?


 もう、アレな。

 ふっくらと柔らかそうなおっぱいとの違和感とか、ぷりっぷりのおしりとの合わせ技とか、どうしてくれようか、とすら思える。




 あ、大丈夫。手とか出してないから。顔よし。スタイルよし。性格よし。なパイモンに手を出したら、それってパワハラじゃん?魔王ハラスメントじゃん?




 もう1人の美女、トリシャもまた、絶景である。

 こちらもやや背は高いものの、170cmそこそこの身長に、金髪碧眼。ショートカットが凛々しくクールビューティーな雰囲気を漂わせ、切れ長の目と、やや無表情な端正な顔が、それを助長する。目の下にある、小さな泣きボクロが、なんとも言えずセクシーである。そんな、クールビューティーさんが裸でいるのだ。これもまたギャップであろう。

 リンスを使い、艶を増した金髪が、頬に張り付いているのに、言葉に出来ない色気が醸し出されている。

 胸は………。




 スレンダーな体のラインと、綺麗な白磁の肌が見事に調和して、こちらもモデルのようなプロポーションである。




 はぁぁぁ………。しゃぁわせだぁ………。




 僕が2人を眺めながら、湯船で寛いでいると、突然ひんやりとしたものが、お腹の辺りに触れた。

 一瞬、ビクッ!となったものの、これももう慣れっこである。


 「フルフル、そのスライム形態で風呂の中を漂うの、やめろよ。ビックリするんだよ」


 僕は、お腹周りの水を掬い上げるようにして、フルフルを取り出す。

 無色透明の、水の塊が僕の両手の上に鎮座していた。

 お風呂の中にいたというのに、その体は相変わらずひんやりぷるぷるで、火照った体にとても気持ちいい。


 「むぅ。フルフルをスライムと一緒にしちゃダメなの!」


 フルフルがぷるぷると抗議をするが、なんかもうその愛らしさに、どうでもよくなる。


 僕は、フルフルを抱えたまま、もう1度湯船に背を付け、大きく息を吐いた。


 あぁあ〜………。



 いいのだろうか?こんなに幸せでいいのだろうか?こんなに僕だけが幸せでいいのだろうか?


 暴虐の限りを尽くし、人間達から有らん限りの畏怖を集め、しかしあっさりと殺された魔王。その魔王に付き従い、志半ばに死んでいった魔族達。今現在、男だらけで夜営を続ける兵士達。




 ホント、僕だけがこんなに幸せでいいのだろうか?

 僕が第3者だったら、爆発しろと叫んで、実際火魔法で爆破するだろう。いや、使えないけどね。


 そういえば、僕って今日初めて実戦を経験したんだよな。

 倒したのはパイモンだし、斧を1度降り下ろされ、その後あの豚を丸焼きにしただけなんだけど、それでもあれは立派に戦闘だった。立派な戦闘ではなかったかもしれないけど、立派に戦闘だった。


 勇者が、最初は平原でスライム狩るのに、僕は最初に魔王と戦わなくてはならないとは、なんたる理不尽だろう。


 まぁいいや。今はお風呂タイム。りらっくす〜。




 「キアス様」


 ゆっくりと湯船に浸かる僕に、トリシャが声をかけてきた。


 「なぜ、ずっとフルフルを抱えておられるのですか?」


 険しい表情、というほどでもないのだが、不機嫌そうにトリシャがフルフルを見ている。

 あ、いや、無色透明なフルフルを通り越して、僕のを見てるのかも。

 仕方ないじゃないかっ!男の子だものっ!


 「いや、だってひんやりしてて気持ちいいし」


 気まずくて、視線を逸らしながら僕が答えると、トリシャは尚も言い募った。


 「フルフルばかりズルいです!」


 ん?

 アレ?


 「ここは折衷案として、私がキアス様を抱っこしますので、キアス様はフルフルを抱えてください」


 言うなり、ザバッとトリシャが立ち上がる。色々見えてるけど、やっぱり羞恥心は薄いのだろうか。そして、フルフルは『抱える』なのに、それが僕になると『抱っこに』進化するのはなぜだろう?


 「待ちなさいトリシャ」


 トリシャの無茶苦茶な折衷案を止めたのは、僕らの良心、パイモンだ。

 いや、期待してないよ?トリシャのおっぱい、タイル並みだし。


 「それは、新参の貴女には荷が勝ちすぎています。ここは私がキアス様を抱っこするのが妥当でしょう」


 んん?

 アレレ?


 なんだか、やっぱりおかしな方向に話が進んでないかい?どうしたい、僕らの良心?


 「フッ。何を仰っているのかわかりませんよ、先輩」


 「引っ込んでいろ、と言っているのですよ、後輩」


 おいおいおい。

 なんだこの険悪ムード。僕の大切なお風呂タイムに似つかわしくない火花が、パイモンとトリシャの間でバチバチと迸っている。


 「どうやら、ここで序列というものをハッキリさせておいた方が良さそうですね?」


 パイモンが不敵に微笑むと、トリシャも腰に手を当て、悩ましいポーズで言ってのける。


 「望むところです。ただ、完膚無きまでにあなたの居場所を奪ってしまっても、申し訳ありません。あなたには、私とキアス様の浸かった後にお風呂に入ることを許してあげます」


 「おいおい、それはちょっと許可できんよ。2人共落ち着け」


 皆で入らなきゃ、僕が楽しくない。


 「そんな悲しいお風呂には、あなた1人で入ってください」


 「お断りします」


 聞いてねぇし!


 薄々感じてたけど、こいつ等って凄い似た者同士なんじゃねぇ?キャラも被ってるし!


 「ちょっ、お前等―――」


 「行きますよ?」


 僕を無視して、パイモンが腰を落とし、突撃の体制に入る。


 「いつでもどうぞ?」


 迎え撃つトリシャも、カウンター狙いか、片手を前に出して、もう片方で拳を握る。


 っていうか、2人共全裸で何やってんのっ!?




 『2人共、お風呂禁止にしますよ?』




 アンドレが専用の机から、低く、しかしよく通る声で、そう言った。


 「ごめんなさい………」


 「すみません、取り乱しました………」


 どうやら序列は、アンドレが頂点に君臨しているようだ。


 僕の注意も聞かなかったくせに、2人はすごすごと湯船に浸かり直した。


 『マスター、もっとしっかりしてください』


 「はい………」


 どうやらこのダンジョンにおいても、アンドレが頂点に君臨しているようだ。




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