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 無月革命・6っ!?

「まぁ、片っ端から王公貴族を殺しちまったんだから、国家運営が滞るのは当然だな。

 膨大な国民、信徒。広大な領土、領地。莫大な予算、国家予算。

 ただの人間が、一般人が、そんなものをポンと手に入れてしまったら、どうするんだろうねぇ?

 まして、人心は荒み、国土は荒れ、怒りの捌け口をなくした民衆は疲れている。いくら税収があろうと、豊かな土地だろうと、それを管理し、統治するというのは、治めるというのは、とても難しい。そう、『大変』なんじゃない『難しい』んだ。

 大変な事は、頑張ればなんとかなる。だが、難しい事はどうにもならない。頑張った程度では、どうにもならない。頑張って難問がどうにかなるなら、難問は難問足り得ない。軟問だ。


 閑話休題。


 ともかく、とにかく、とりあえず、勃興後初めて困窮を余儀なくされた宗教は、苦境に立たされた。周辺国は、疲労した新興国に容赦なく襲いかかった。

 後ろ楯のない新興国家。周辺国からしたら、そりゃあもう、美味しそうなご馳走だ。いや、政府ガタガタ、軍はボロボロ、民の愛国心はできたてホヤホヤとくれば、ご馳走どころか、前菜、デザート、食前酒がついたフルコースで、おみやまでゴチになるってレベルだ。赤子の手を捻るように、切り取り放題のバイキングさ。食いたい放題、やり放題――とまでは言わないが、まぁ、戦争は容易く起こされた。


 だが、結果としてはアドルヴェルド聖教国は存続した。存続し、その後も勢力を拡大し続けた。

 民も纏め、周辺国も併呑し、宗教はやがて、真大陸全土を席巻する事となる。


 では、なぜそうなったのか?


 簡単だ。政治の専門家、王公貴族を外部から補充したんだ。


 どこから?


 決まっている。生き残った優秀な国家。メルヴィン王国だ。


 周辺国に攻め入られ、四面楚歌どころか八方塞がりみたいな状況で、アドルヴェルドはさらにメルヴィン王国へ侵攻した。

 どうやったかって? 簡単さ。国土を捨てたのさ。見捨てたのさ。

 兵を引き上げさせ、侵略者に侵略させ、略奪者に略奪させた。そして引き上げた兵力を、そのままメルヴィン王国侵攻に充てた。小国群の一国家だったメルヴィン王国と、小国群のほぼ全てを手に入れたアドルヴェルド。どちらが強いかなんて、比べるまでもない。程なく、メルヴィン王国は降伏する。王公貴族、民の安寧を約束されていたのが、この場合は大きかったんだろうねぇ。

 反乱が起き続け、王公貴族が処刑され続ける恐怖は、メルヴィン王国の貴族だって抱いていた。むしろ、傍観していたからこそ、かもな。

 淘汰される側に回った貴族には、最も恐ろしい光景。まるで国を飲み込むように、黒い波となって押し寄せる民衆――宗教への恐怖。

 それまで、民衆とは税を納めるシステムくらいにしか考えていなかった者たちにとって、そんな民衆に淘汰され、次々と処刑される王公貴族の姿は、恐怖以外のなにものでもなかっただろう。

 メルヴィン王国では、降伏派が大多数の貴族により組織され、王もそれを無視できなかった。戦力が拮抗していたら、大粛清でもして徹底抗戦したんだろうな。だが、ただでさえ大国対小国の図式で、追い詰められた大国の全力だ。抗戦が愚の骨頂だったのは確かだろうな。文字通り、死に物狂いに攻めてきたんだしね。

 アドルヴェルド聖教国は、約束通り王にも貴族にも危害を加えなかった。それどころか、貴族は積極的に徴用し、メルヴィン王家の系譜から初代アドルヴェルド王も戴冠させた。当然、王の係累であるメルヴィン王家だって、粗略に扱われたりはしなかった。

 旧メルヴィン王国領の三分の一以上を与えられた大領主、メルヴィン地方の統治者として、下に置かない対応でアドルヴェルド聖教国へと招かれた。


 それがボルバトス侯爵家。それが、ロードメルヴィンという、役職だ。


 普通は、こんな事をすれば、国を乗っ取られかねないだろう。政治の中枢に、滅ぼした敵対国の人間ばかりを徴用し、重用するなんて、他の国ならあり得ない。だが、アドルヴェルドは宗教国家だ。宗教が全てを支配し、宗教が法だった。そして、その宗教は基本的に、王公貴族に敵対的だった。まぁ、別にアヴィ教は、反貴族、反王家ではないんだが、このときはまだ、そういう気運があった。機運があった。

 当然、王家は傀儡で、貴族だって身分が保証されてるだけの、政治の歯車でしかなかった。

 このとき、アドルヴェルドの独特な、宗教家>貴族という図式ができた。


 とはいえ、元メルヴィン王国の貴族たちは優秀だった。


 直ぐ様国を建て直し、失地回復を目指した。二十年も経つ頃には、アドルヴェルドは真大陸で二番目に大きな国となった。


 これが、アドルヴェルドの建国史の概要だな」


 僕がそう締めると、エヘクトルはつまらなそうに頷く。


「付け加えるなら、アドルヴェルド聖教国初代の王、カルロス陛下が即位されたからこそ、国は保たれたと言っていい。

 メルヴィン王家の系譜に連なる初代国王、カルロス陛下は、傀儡なれど優秀だった。優秀すぎた。


 カルロス陛下が即位されたのは、24歳という若さでだが、崩御されたのも38歳という若さである。国が安定し、失った領土も取り戻し、あと一息で戦争も終わるという時期に、唐突に病死した。これを暗殺だという歴史家は多い。無論、我が国の歴史家にはいないが、他国ではそう考えられている」


 まぁ、アドルヴェルドってか、アヴィ教としては、優秀な王に人気が集まっては困るわけだ。暗殺されても、別に驚くような事ではない。


「だが、真実はそうではない」


 僕の予想に反して、エヘクトルはそこで首を振る。


「暗殺の可能性を誰よりも感じていたのは、カルロス陛下自身だ。

 そして、その毒牙が妻へ、子へと向けられる、恐怖。さらに、そんな弱い立場に、王家を据えておかねばならぬという、苦悩。そんな立場で、これからも王家が続いていくという、絶望。それを自らの手で行わなければならない、屈辱。


 カルロス陛下は、心労から、病を併発して瞬く間に死に至った。これが、アドルヴェルド聖教国初代国王の、死の真相だ」

「まぁ、その人の心労は、察してあまりあるよねぇ。僕は割と、血も涙もないクソ野郎である自負があるけど、そんな僕でも思わず同情してしまうよ。

 民衆に疎まれ、アヴィ教からは常に監視され、(まつりごと)だけを行う装置として生き、また、子孫もそうであるように、国を作り直していく毎日。早世するのも頷ける。いっそ哀れみさえ誘う程に。

 だがエヘクトル、お前はどうしてそこまで知っているんだ? その話、一般的な歴史書には載ってないだろ?」

「これは、我が家に伝わるカルロス陛下の日記に記されていたものだ。第一、暗殺されたなら、我がデプレダドル家が知らぬわけがない」


 ん? どゆこと?


「デプレダドルは(まじな)い師の家系だ。呪術を用いて教皇を守り、古くはメルヴィン王家にも仕えていた由緒正しい呪い師の血統だ。まぁ、私は勇者になってしまったから、デプレダドル家からは離れているがな」


 呪い師ってのはあれか? 平安時代の陰陽師的存在なのか?


「で? 結局のところ、アドルヴェルドの歴史を僕に語らせて、お前はなにがしたかったんだ?」

「貴様とロードメルヴィン枢機卿が、この先をどう考えているかは知らぬが、革命だの変革だのには、相応の混乱と困難がつきまとう。特に、血が流れれば流れるだけ、その混乱は大きくなる」

「だ・か・らッ!?」

「貴様が、今回の件で民衆を巻き込んで、事態を大きくしたのは、ロードメルヴィン枢機卿の為ではないのか?」


 はッ!? なんじゃそらッ!?


「ボルバトス侯爵なら、王になっても不思議ではない血統だし、ロードメルヴィン枢機卿ならば騎士、聖騎士も纏めあげられるだろう。自身も有能だし、どうやら有能な官僚にも宛がありそうだ。王家とも一応遠縁だしな。

 だが、事を内々で済ませた場合、それはあり得ない。最悪の場合、いくら由緒正しいボルバトス家だろうと、お取り潰しもあり得ただろう。


 だからこそ、貴様はこの革命の旗頭に彼を据えた。そうなれば、事が成った場合はロードメルヴィン枢機卿の排斥は不可能だ」

「そんなんじゃねーし!」


 僕は別に、そんな難しい事は考えてねーしッ!! ってか、エヘクトル! お前、なんで僕に馴れ馴れしく話しかけてんだ、あぁん!?


「どうかしましたか、魔王陛下?」

「なんでもねーですッ!! ってか、さっさと民衆を先導してくださいコラァ!!」


 なんつータイミングで話しかけてきてんだ、この年齢不詳な枢機卿!?


「お前バカこら!」

「どー考えても、あら照れ隠しやろ!」

「火の、空気を読まないのも程々にしろ」

「貴様にだけは言われたくないぞ、アオ!」


 勇者は勇者で、なんか漫才始めてるし……。







 ダンジョンの魔王は最弱っ!? 2巻本日12月11日発売。

お手に取っていただければ幸いです。




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