無月革命・2っ!?
「さて、じゃあ状況を整理してみようか」
場所は空。真大陸の上空を飛ぶ、僕の飛行機。その中には今、シュタール、サージュさん、フミさん、アニーさん、レイラ、ミレ、イルちゃんさん、ラトルゥールさん、ゴンちゃん、大治郎さんが乗り合わせていた。大人数だが、それでもあまり狭くはない。飛行機には、そもそも九十人程が乗り込める大きさなのだ。
そして内装も、それなりに豪奢に、しかし下品にならないように気を配った機内。
高級材木、マホガニスミルの大きな円卓に、同じく高級木材、ポールウィロウの長机。床にはギャガルデア都市国家の名物、毛足の長いギャガル絨毯が敷かれ、シャシュール・エボン・ルルの絵画が壁にかけられている。あとは嫌味にならない程度の貴金属の品々。数は少なくとも、どれも超という言葉が陳腐に思えてくる超ド級の高級品。王家の秘宝揃い。
そう、全部偽金騒動のときにかっぱらってきた品々だ。見る人が見ればこの機内の内装は、目玉がショットガンのように、同時に飛びだしてしまうような値段なのだ。それこそ、天帝金貨が何枚も必要な部屋なのである。
そんな機内で、僕は全員に向けて繰り返す。
「状況を整理する――君たちは、今アドルヴェルド聖教国に向かっている。長期的計画にはしない予定らしいが、それでもロードメルヴィン枢機卿たちと合流するには数日かかるだろう。つまり、その間君たちは聖教国に潜伏するわけだ」
僕は円卓につき、他にも円卓にはシュタール、アニーさん、サージュさん、フミさんが座っていた。長机の方にあるソファには、他の面々が座っていた。
「まぁ、せやな。ウチ等は、他の連中が来るまでは大人しくしとかなならん」
「だな。やるにしたって、俺たちだけじゃなにすりゃいいのかわかんねーからな」
サージュさんとシュタールが僕の言葉に頷くと、他の面々も首肯する。
「だが、しかぁし!!」
僕はそこで一度、テーブルに両手を叩きつける。
「僕は、明日にでも魔大陸に戻らなきゃならない。オールとアベイユさんがぶつかる前に、パイモンたちと合流しなければならないからだ」
「そうだな。今、貴殿が忙しいというのは、何度も聞いている。こうして我々を送り届けている暇すらないはず。……と言うか、なぜ我々はわざわざ貴殿に送られているのだ?」
フミさんは、相も変わらずのマイペースさで、今さらな事を聞いてくる。
僕が勇者たちを運ぶ理由、そんなの目立たないために決まっているだろう!?
ただでさえ勇者ってだけで目立つのに、それが×3だ。それだけ目立ちながら、王国空運に乗りこんだりしたら、注目はアドルヴェルド聖教国に嫌でも集まる。良くも悪くも、王国空運を一番利用するのは商人であり、商人とは情報に聡くなくてはいけない。
それから革命が起きたなんて情報が真大陸中に広がれば、今度こそアドルヴェルド聖教国は再起不能に陥るだろう。革命が成功しようが失敗しようが、国の趨勢は右肩下がり。誰も来ない陸の孤島と化すかもしれない。
これは、そういう配慮なのだ。これは、ロードメルヴィン枢機卿にも手紙で頼まれた事であり、アヴィ教と距離を置くであろう新生アドルヴェルド聖教国は、僕の為にも順調に出発して欲しい。
だからこそ、今回は事が起こるまでは、できるだけ目立たないようにしなくてはならない。
フミさんにそれを説明してから、今一度全員に向けて僕は言う。
「目立たない為には、まず僕と数人がアドルヴェルドの聖都アラトに潜入し、そこからセーフハウスを探し、全員をそこに送るという方法をとりたい」
「なるほど」
相槌を打ったのはアニーさんだった。
「なぜこのメンバーに私がいるのかと思っていたが、転移が使えるのは私と師匠だけだからだな。そのセーフハウスとやらを探し、こことそこを行き来して皆を移送するのが役目か」
いえ、あなたはただ、このメンバーが暴走したときの為のストッパーです。それに―――
「いえ、アニーさんは留守番組です」
「………なぜだ?」
首を傾げるアニーさん。だが、彼女はいくつかの要素を忘れている。
「第一に、アニーさんはあの国では一応指名手配犯です。前回の脱獄騒動を忘れたんですか?
第二に、こんな言い方はアレですが、アニーさんは亜人種のエルフです」
向かう先はアドルヴェルドであり、亜人排斥を謳っているアヴィ教の総本山である。
今まで目溢されていたのは、アニーさんがシュタールの仲間だからであり、そのシュタール共々犯罪者となってしまった現状、一緒に動けば悪目立ちは必須である。
「移動は転移の指輪でと考えてますが、僕の持つ転移の指輪でマーキングしているのはアラトの広場の物のみです。そこから人混みに紛れて隠れますので、アニーさんが一緒では目立ちすぎます」
「ウチの転移のマーキングは教会や。今回は使えんな」
「私も使えるのは、教会か広場のものだ。元拠点にもあるのだが、あそこは教会に接収されているだろうから、今回は絶対使えないだろう」
教会所属の勇者が聖都アラトに用があるとすれば、それは教会にしかないだろう。やはり、この人たちのマーキング先は被っていたようだ。
「というわけで、アニーさんは連れてけない」
「なるほど、では仕方ないな……」
本当、アニーさんは聞き分けが良くて助かるなぁ。それに比べて……―――
「つー訳で、同じ理由でシュタールも来んなよ?」
「は? 行くし。決まってんだろ?」
懇切丁寧に説明してやったのに、当たり前のようについてくる気でいたシュタール。
「護衛は必要だろ? 適当に地味な服着てれば、俺だってあまり目立たないはずだ」
「顔が目立つ。お前、光の勇者だろうが」
「じゃあローブでも被る」
「逆に目立つっつの。普通に帽子でいいだろ」
「じゃあ帽子で。つっても俺、帽子持ってねぇや」
「じゃあ僕の貸してやる。ホレ」
「おう、ありがとよ。……って、何で女物なんだよっ!?」
「他にもあるぞ。お洒落なセーラーハットにクローシェ」
「全部女物じゃねえかっ!?」
「テンガロンもあるぞ」
「おおっ!」
「ピンクだが」
「なんでだよっ!?」
「仕方ねえだろ、帽子をかぶる機会は多いが、その場合、僕はほとんど変装してるんだから」
「前々から思ってたが、なんだってお前はそんなに女装が好きなんだ?」
「好きなわけねーだろうが!! 商業組合で登録する為に仕方なく女装してんだよ!! あそこの人相官はすげーんだぞ!? 真大陸中の指名手配犯、ギルド追放者、素行不良者だけでもすごいってのに、一度登録した商人の人相まで憶えてるんだ! 下手な変装したら一発でバレる上に、商人としても終わりなんだよ!!」
「ああ……、そういや有名だな。商業組合の人相官は」
「そうだよ! 写真も無いくせに、真大陸どこでも僕の顔を一発で見抜く。肌の色、髪の色、目の色を変えただけじゃ、すぐにバレちまうんだよ! 好きで女装してるわけじゃないんだ!!」
「わかったわかった。悪かったよ」
「はい、じゃあお前はこのブリムな」
「おい!!」
「既に傾いた格好してんだから、女物着てても問題ねーだろ。カッコいいって!!」
「どこがだよ!!」
「ふむ。そういえば、戦国の武将で女物の着物を着ていた傾奇者なんかもいたと聞いた事がある」
「アオ、お前は黙ってろ!」
「ぷくくく……。ええやん、やっとけやシュタール」
「嫌なら我慢しろ。私も我慢するのだからな」
「なんで全員が敵なんだよっ!?」
そんなわけで、僕、シュタール、サージュさん、フミさんという四人でアラトの広場に出る事になった。ちなみに、シュタールに女物の帽子を被せたら、本当に傾奇者っぽい格好良さになってムカついたので、帽子無しで行く事にした。
あれ、本末転倒?