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 手遅れな2人っ!?

 『世の中ってのは、何がどう繋がるかわらない。

 だからこそ出会いは尊く、繋がりという名の絆は偉大だ。

 どこで何が何に繋がるかわからないからこそ、俺達は日々出会い、別れ、そして再会するんだ』


 セン君の父、リン・ザチャーミン氏から聞いた事のある話を思い出した。


 もっとも、彼は続けてこう言ったのだ。


 『そんなわけで再会したんだ、また上手い儲け話ってヤツに噛ませてくれよ! 知ってるぜ? お前さんが今、真大陸全土を舞台に何かとんでもねぇ事企んでるって事ぁな!』


 彼の強かな物言いと、さらにはその情報力に、背中に冷や汗を流したのは記憶に新しかった。


 そして僕は、今目の前で繰り広げられている光景に、そのリンさんの言葉を重ねている。


 アルトリア・ロードメルヴィン・ボルバトス。

 エドワルド・ロードメルヴィン・ボルバトス。


 アルトリアさんのフルネームを思い出してみれば、その2人の血縁には簡単に思い当たりそうなものだったのだ。初対面で名乗られたきり、一度も聞かなかったせいで忘れていた、というのが一切の言い訳を排した状況説明。

 だが、それでもアルトリアさんとの邂逅の状況やら、その後台頭してきたロードメルヴィン枢機卿という存在、冒険者として生きる侯爵家令嬢という、あり得ない組み合わせも加味すれば、少しは言い訳にも説得力が持たせられるだろう。まぁ、しないけど。確かに迂闊だったわけだし。


 「離れてくださいお兄様っ!!」


 「いーや、もう離さない! 離すものか! 愛しい我が妹よ!」


 というわけで、アルトリアさんはロードメルヴィン枢機卿の妹でした。

 ………って、妹ってアレだよなぁ!? さっきシリアスに復讐だなんだって言ってたヤツ! 生きてんじゃん!! どういう事だよっ!?


 「嗚呼、可愛いリア。こんなに可愛い君を、教会のクソ爺共は奴隷にしようとしたんだね? 怖かったね?

 大丈夫だよ、お兄ちゃんが全部ぶっ殺すから」


 ああ………。成る程………。

 もういいや。この人の事も諦めよう。手遅れだ。重度の―――いや、末期のシスコンだ。


 「もう、本当にやめてくださいお兄様! 私は久しぶりに、キアス様のご尊顔を拝す機会を得たのですよ!? 妹の至福の時間を邪魔しないでください!」


 「魔王なんぞに君を近付けさせるものか! 私は、あいつと言葉を交わして確信した! あいつは言葉の魔王だ! こんなにあいつが嫌いな私ですら、いつの間にかあいつと言葉を交わすのが楽しくなってきてしまっている! とんでもない人たらしの魔王だ!」


 「それの何がいけないというのですか!?」


 「君を奴の毒牙にかけさせたくないのだ、マイスイートシスター。あいつはヤバイ。第一魔王とは別の、世界最強の魔王だ」


 「それでこそ私のキアス様です!」


 「リア、帰っておいで。まだ間に合う!」


 「いいえ! 自他ともに認める手遅れです!!」


 なんだか兄妹喧嘩を始めてしまったアルトリアさんとロードメルヴィン枢機卿に呆れていると、アニーさん達もようやくこちらに着いたようだ。目は兄妹喧嘩に釘付けだけど。


 「っていうか、お前はアルトリアさんの兄が枢機卿だって、知らなかったのかよ?」


 僕は、隣で僕と同じように驚いたり呆れたりしているシュタールに問いかけた。


 「いや、一応そういうの詮索するのは冒険者のタブーつーか、そうでなくてもあんま好きじゃねえんだよ。アルトリアと会ったのは、アドルヴェルドじゃなかったしな」


 ふーん。まぁ、わからなくもない。僕だって、基本的に他人の過去を根掘り葉掘り聞くのは、趣味じゃない。誰だって、気分のいいものじゃないだろうしな。

 それにロードメルヴィン枢機卿は、最近枢機卿になったばかりだし、知らないのも無理はないか。

 そういえば、ロードメルヴィン枢機卿はさっき、『ここで1人、出来れば2人に会わなきゃならない』見たいな事を言っていたが、それはこの様子を見るに、シュタールとアルトリアさんを指しての事だったんだな。


 「………なんか疲れた………。僕もうマジで帰るから、後は勇者さん達でよろしく〜」


 やる事もやったし、もう帰ろう。偽勇者を1人取り残したのは痛いが、かといってドゥー1人ではどうする事も出来ないだろう。

 なんだかすごく眠いし………。


 「なんだよ、キアスさん帰っちまうのか? せっかく久しぶりに会えたってのに」


 「悪いなレイラ。ちょっと疲れてんだ」


 「まぁ、そう言うなら無理に引き留めねぇけどよ」


 唇を尖らせるレイラに、苦笑して返す僕。その癖っ毛を軽く撫でて、パイモン達と一歩踏み出そうとしたとき―――


 ぐらり。


 世界が揺れて、体の感覚が遠くなる。自分が今立っているのかどうかさえわからなくなり、酷い目眩と意識の混濁が僕を苛む。


 やっぱ、あの量の出血はまずかったみたいだな………。傷は治っても、血が戻らないのは回復魔法と同じらしい。

 意外と神様の加護ってやつも、万能ではなかったらしい。


 何度かパイモンやレイラの顔が視界を掠めた気もしたが、僕は意識を保つ事が出来ずに、深い暗闇へと沈んでいった。




 ○●○




 「あぐぅ………」


 『全く。やはり勇者やマスターは、少し甘いところがありますね』


 私の目の前で、勇者の1人、ドゥーと名乗った少女が血に染まる。


 『なんだかんだと、女の子を見逃してしまうんですから、まだまだ魔王にはなりきれていない、という事でしょうか』


 その背後にいるのは、漆黒の翼を持つ新たなる魔人。魔物から進化した、謂わば魔王未満の生命。


 『さぁ、さっさと殺してあげなさい。それからあなたも、マスターに名前をもらいに行きましょう』


 「御意」


 マスターが迷宮用に造っていたナイフ―――とても変わったナイフを三本握り、その新しい魔人は再びドゥーへと斬りかかった。


 「もう! 何なのよ、あの子も、勇者も、あんた達も!」


 必死に魔法を駆使して反撃する少女だが、それには明らかに疲労の色が濃かった。

 時空間魔法を使って逃げなかった事からも決定的だったが、彼女には最早戦えるだけの魔力が残っていない。ここで叩いてしまえば、労さず打倒出来るというわけだ。


 『あなた達が、全員回復魔法を使える事はわかっています。

 恐らく『覚醒』とは、電気ショックで無理矢理心臓を動かすように、死の間際に意識だけを覚醒させるものではないかと推察します。体は自分で、あるいは他者から回復してもらわないといけない。でないと、生き返ってもすぐにもう一度死んでしまいますから』


 「………」


 無言は雄弁である。どうやら、私の推理はある程度的を射ていたようだ。

 強くなる云々は実証のしようがないが、それとてステータスを確認できないマスター以外の者には、確かな事は言えないのである。


 『故に、回復不能な部位欠損による死亡―――つまり、首を切り落とせばあなた達も死ぬという事ですね。よい事を伺いました。




 さぁ、最期の舞いを、存分に踊ってください』





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