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 火の勇者の奇剣っ!?

 「革命?」


 「めんどい」


 「………ふむ」


 「教会の腐敗を正しましょう!」


 シュタール、サージュさん、フミさん、エヘクトルの順で、それぞれがそれぞれの反応を返す。


 「教会は既に、真大陸にとって害悪と成り果てています。

 サージュ殿、エヘクトル君は命まで狙われていました。アオ殿やシュタール殿の所在が割れていれば、そちらにも刺客が差し向けられた事でしょう」


 僕はロードメルヴィン枢機卿の話に、ちょっと引っ掛かるものを覚えて、隣のフミさんにすぐさま聞いてみた。


 「シュタールはともかく、フミさんの拠点まで教会は知らなかったの?」


 「ああ、私の拠点はノーム連邦だからな。教会との軋轢の深いかの地に、無用な火種を撒くわけにはいかなかったのだ」


 「ふーん」


 まぁ、勇者って一応教会の管理下だったらしいから、ノーム連邦としてはズカズカ領内に入られちゃ困るわけか。


 「因みに、何でノーム連邦に拠点を置いたの?」


 「ああ、それは、ノーム連邦の草花州、ホビット達の州はな、姓、名の順で名乗るのが法律だからだ」


 「は?」


 「だから、草花州以外では私の名はフミ・青木だが、草花州ではちゃんと青木フミと名乗れる。ノーム連邦では、真大陸の人間達とは少し違う文化、というものが多いからな」


 「ああ………、成る程………」


 僕としてはあまり気にしていなかったが、この世界では基本、名・姓の順で名乗る。間にミドルネームがあったり、役職名が付いたり、尻に親の名が入ったりと色々な名前の付け方はあるが、流石に姓・名の順で名乗るのは珍しい。

 だが日本人のフミさんとしては、そっちの方が馴染みがあったわけだ。


 「因みに聞きたいんですが、何で他の人達ってフミさんの事をアオって呼ぶんです?」


 「ああ………」


 ちょっと苦い顔をするフミさん。だがすぐに取り澄まして、話を続ける。


 「この地に来てすぐの事、教会の連中が私を見つけ出してな。しかし、中々言葉が通じず、なんとか意思疏通は図れたものの、奴等は私の名をアオ・キ・フミだと思ったらしい。

 それに気付いたのは、私がようやく、真大陸共通言語を理解してからだ。それまでにすっかり定着してしまったので、今さらいちいち訂正して回るにも一苦労だ。

 そもそも、口下手な私にそんな事は不可能とも言える………」


 あちゃー………。フミさんは僕とは違って、この世界の言語の翻訳能力を持たされなかったのか………。それは大変だったろう。


 「大変だったね………」


 そうとしか言えない。


 「ああ………」


 遠い目をするフミさんからそっと目をそらし、なおも勇者達を説得しようとしているロードメルヴィン枢機卿に向き直る。


 「このまま教会を―――正確には教会上層部をのさばらせておけば、いつか民衆は大爆発します。暴動や反乱、それ等はアドルヴェルド聖教国のみならず、真大陸全土に混乱を呼ぶ事でしょう。

 ですから、燃え上がる前に燃やしてしまいたいのです。一度燃してしまった灰は、二度と燃えないですから」


 ここで、真大陸を混乱させた元凶である教会を、勇者が倒す。

 それはなんだか絵になる光景で、絵になりすぎる光景で、実に収まりがいい話だ。劇場型というか、本当に劇場で演目にされるような、そんな単純な英雄物語。民衆もまた、その物語に酔ってしまうだろう。実害は僕が、最低限に抑えるのだから、不必要にまで燃え上がったりはしないだろう。いや、するかもしれないが、これが一番犠牲のでない回答だと思う。

 だが、このままでは若干見窄らしいキャストが1人いるよな。


 「おい、変態勇者」


 「クッ! また貴様はッ!」


 「あー、いいから。僕はそういう、いつも通りのお決まりのやり取りがしたいんじゃない。

 今回は確かに、お前の登場には助けられた。助けなんか要らなかったけど、それでも手助けされたのは事実だ。僕はお前ほど狭量じゃないからね、お前が勇者だろうと礼はする。僕は恩知らずでも、礼儀知らずでも、身の程知らずでもない。

 うむ、大義である、なぁんて、大上段に構えたりもしないさ。ありがとう、と普通に礼を言って、普通に礼をする。

 さぁ、受け取れ。礼の品だ」


 僕は鎖袋から剣を抜く。

 全体的にはミスリルの白銀の輝きだが、その刃にはオリハルコンの赤みを帯びた金の輝き。

 最も原初的な造りの剣であり、ヒヒイロカネを造る前の、ミスリルとオリハルコン同時活用試作品の唯一の成功例。


 マクアフティル。


 本来は木製の刀身に、黒曜石の刃を並べて嵌め込んだ、かなり原始的な刀剣である。その構造から自然と、ノコギリのようにジグザグの山型になる刃が特徴で、南アメリカのアステカ人が用いた刀剣だ。

 同じような刀剣に、金属を一切使わない奇剣テブテジュがあるが、あれに使われているのは鮫の歯だ。こちらはオリハルコン。


 しかも、差し込むのではなく組み込んだ。プラモのように、オリハルコンの刀身に、オリハルコンの刃を組み込み、その上からミスリルを外装として被せた代物だ。


 全長80㎝強。片手でも両手でも扱えるように柄は長く、柄尻の円環にはお洒落な飾り紐。


 「な、んという、凶悪な………」


 剣というより、ノコギリをそのまま武器にしたような剣に、エヘクトルが呻く。


 「要らないというなら、持って帰るが?」


 「ま―――っ! 待て、そんな事は言っていない。礼の品だというなら、受け取らねば失礼だ。教会もしばらくは魔王と事を構えるわけにはいかんしな。うむ、ここは戦略的にも受け取っておこう」


 「はいはい」


 僕は鞘の無いマクアフティルを、裸のままエヘクトルに手渡す。自分で造ってね。大抵の鞘は穴が開くと思うけど………。


 「………上手くミスリルとオリハルコンを活用したものだ。まさか、こんなアプローチがあるとは………。剣としても良い出来だ………」





 なんで悔しそうな顔しながら誉めるかね。ちょっと楽しくなるじゃないか。





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