冒険者と蛇っ!?
赤みの強い、金の輝き。ヒヒイロカネという、僕が生み出した剣のための金属。そのヒヒイロカネ製の刀剣が二振りで、衆目を惹き付ける。
それを持つは、ミスリルの鎧を身に纏い、腰に他に二振り、隠して一振り携えた、光の勇者シュタール・ゲレティヒカイト。
長らく地下迷宮に潜っていた、シュタールの帰還。それは、ソドムから溢れてきた冒険者達の目を惹き付けて止まない。
彼らの目標であり、その体現であるこの姿。堂々たる、この姿こそが、僕の希望。
よおし! これで宣伝効果はバッチリだ!!
「ぐぁあああ!! クソッ、クソォ、クソォオ!!」
片腕を無くしてジタバタともがく金髪。これって、『覚醒』使ったら生えてくんのかね? ブスブスと煙を出して横たわっている包帯の無くなった包帯男とか、首なし血まみれのトロワとか、これで蘇ったらそれはそれで凄いけど。
「で、なんかキアスが襲われてたから、ついやっちまったけど、こいつマジで誰なんだよ、キアス?」
「教会の偽勇者だ」
「はぁ? 偽勇者って何? 何だそりゃ?」
「あー、もういい。何ヵ月も地下迷宮に引き籠ってた奴に説明すんの、メンドイ………」
情弱めがっ!!
僕はひとまずシュタールは捨て置く事にして、金髪にとどめを刺す。その頭を踏んづけて固定し、さっきまでお腹にぶっ刺さってたハルペーを首にかけて、一気に引っ張る。
「お祈りの時間はやらん。片腕が無くてもお前は脅威だからな」
あっさりと落ちた首。血の海が僕のスニーカーを汚す。僕がその光景に思う事は、新しい靴を造らなきゃという事だけだった。
「まぁーた、お前は………」
「いつかのアムハムラの王宮を思い出すか? だから僕の答えも、あの時と同じだ。こいつ等を生かしておいても、百害あって一利無し。後顧の憂いは、絶てる時に絶っておくべきさ」
やれやれと肩を竦めるシュタールだが、同じ勇者でもサージュさんは特に何も思うところは無さそうだ。
それより今は、続々と集まってきている冒険者連中の方が問題だ。こいつらは、たぶん僕と偽勇者達との戦闘は見ていない。悪魔ぐらいは見たかもしれないが、それくらいならまだ言い訳の余地もあるだろう。
僕としては、まだ身バレはしたくないのだ。
「どうしたんだ、皆? こんなにゾロゾロと集まってきて?」
「いや、この状況でその返しはないやろ?」
呆れるサージュさんが、半笑いでそう言ってきた。
「あんなぁ、キアス君。何か思惑があんのか、アホの子のフリしとんのか知らんけど、あの街にずっと住んどればキアス君が魔王ゆーんは誰でも気づくさけ、今さら隠す必要なんかないんよ?」
「え………?」
ギギギと音がしそうな、ぎこちない動作で冒険者達を見る。
あっさりと言われた『僕が魔王である』という爆弾に、しかし動揺している者はいなかった。
「ここにいる子ォ等も、それがわかってて、まぁた体張って頑張っとるキアス君助けに来たったんやって。ま、ウチは魔法自慢しに来ただけやけど。
でなでな、この金気術なん―――むがっ」
とりあえず、これ以上人がいるところでその事は話さない方がいいと思い、サージュさんの口を塞ぐ。とはいえ、聖騎士やエヘクトルなんかには聞かれたので、結局サージュさんにとっては恥の上塗りを防げただけに過ぎない。
あんたこそアホの子だろうに。
そんな事より、今は冒険者達だ。
「おい、お前ら………」
とりあえず声をかけてみたが、二の句が次げずにいる僕に、1人の冒険者が声をかけてくる。
「水臭えんだよ、キアスの旦那!」
それは―――あのゴンドーのパーティーメンバーだった男、パーシバルだった。
「つっても、俺なんて、ついさっきまで旦那が魔王だなんて、知らなかったんだけどよ。
でも、いっつも旦那が俺等のために頑張ってたのは知ってるぜ? ダンジョンで稼げねえ冒険者のため、冒険者じゃねえ商人のため、住民のため、子供のために、あんたが頑張ってきたのは知ってんだ」
僕は、一歩後ずさる。
「だからあの街の皆は、旦那が好きなんだよ。
今さら、魔王だなんだと旦那を嫌う奴がいるか? ハッ! いるってならそいつはソドムの初心者だぜ!」
うわぁ………。完全にバレてるよ………コレ………。てっきり、もうちょっと上手く振る舞ってたと思ったんだけど………。
「やい! 聖騎士共!! 俺達ソドムの冒険者は、全員旦那の味方だぜ!!」
「そうよ! 文句があるなら、ここからは私達が相手なんだから!」
「地下迷宮の魔物の群れを相手にしているのを考えれば、聖騎士の千や二千、ものの数じゃねえんだよ!!」
「ウェパルちゃんは俺が守る!!」
こいつ等………。
「お、おいキアス、なんでこの状況でそんな顔してんだよ?」
「そ、そうやでキアス君。なんや、傷が痛むんか? お姉さんが治したろか?」
シュタールとサージュさんが慌てた様子で駆け寄ってくるが、僕はくるりと回ってそれに背を向ける。
この2人はこの街の防衛の予備要因で、広告塔だ。冒険者達だって、僕の思惑でここに誘き寄せた。
「キアス………」
ちっ、こっちにはフルフルがいたか。
「構いませんよ、もう傷は癒した。
それより、そこまで言ったからにはてめえ等、全員真大陸ではお尋ね者かも知れねえんだぞ? 訂正するなら今の内だ」
「ケッ、男に二言はねえぜ!」
「女にもね! なんなら旦那、あたしを雇わない? 魔王軍所属なんて、ちょっと箔が付くじゃないの!」
「バッカ。旦那の造ったダンジョン、半分くれえしか進んでねぇのに何言ってやがんだ?」
あーあーあー、わかったわかった。ったく、バカばっかりなんだからよ!
「仕方ねえ。お前ら全員、僕が保護してやる。庇護して、擁護してやる。だから、まぁ、なんだ………。
………好きにしろ」
僕はまっすぐ歩き、空気状態だった聖騎士達の元へと向かう。大丈夫、まだ結構距離はある。
後ろに続くのは、フルフルの小さな足音。次いで、ガチャガチャと鎧や剣の音をさせたシュタールと、歩幅の短いサージュさんの足音。
そして、無数の足音。冒険者達の喧騒。
騒がしくて、粗っぽくて、粗野で、バカで、単純で、やっぱりバカな人間達。
魔王になった事に後悔はない。人間に未練があったわけでもない。っていうか、僕は人間だった頃の記憶もなければ、本当に人間だったのかも定かではない。それを保証しているのは、神様の言葉だけだ。
だから、別に僕は、人間に戻りたいわけでも、人間と仲良くしたいわけでもない。
でも、これは―――
「キアス、良かったの………」
隣に並んだフルフルが、安心したように柔らかに笑いかける。
「なんだ?」
「キアス、さっきは辛そうな顔してたの。深い悔恨の顔。
でも、今はちょっと晴れやかな顔。フルフルは、そっちのキアスのが好きなの」
「………」
口元に触れてみれば、確かに口角が僅かに上がっている。
「ふふ、そうか。
憶えておけよフルフル、これは営業スマイルっていうんだぜ?」
「ん、憶えとくの」
いつものように、子供っぽく頷いたフルフルは、しかしその顔を大人っぽく優しげに笑ませ、
「うぉっぷ―――」
僕を抱き締めた。
「キアスも憶えとくの。フルフルは、パイモンも、ウェパルもマルコもミュルも、みんなみんな、キアスが大好きなの。
そして、キアスという存在が何だって、それは好きになっちゃいけないって事には、ならないのよ?」
その大きな胸に顔を埋めながら、僕は思う。
でも、これは―――やっぱりちょっと苦しい。
僕は、少なくとも真っ当な生き方はしてこなかったし、これからもしないだろう。両手は血塗れであり、その事に後悔すらしない外道だ。命を奪うことに、躊躇も後悔もしないような、真性の鬼畜生だ。
それはいい。それは僕の選んだ道だ。外道だろうと道は道。選んだ以上は、僕が責任を持って歩む。
だが、そこに誰かを巻き込む事に、外道に引っ張り込む事にまで躊躇しないわけではない。
―――それは、蜥蜴から腕も脚ももいで、蛇へと落とすような事ではないのか?
「キアス、大好きなの………」
僕は―――
「キアスが答えられないの、フルフルは知ってるの。だから、今はいいの。
でもね、キアスはいつか答えを見つけるっていうのも、フルフルは知ってるの。
だからその時はパイモンの次に、フルフルに答えてね?」
僕は―――
―――フルフルの胸で窒息していた。
嘘吐きは、エイプリルフールには嘘を吐きません。
その日だけは、本当の事が何よりの嘘であるから。
※話の内容は、普通に本編です。エイプリルフールの嘘とかではありません。




