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 そもさん、勇者とはっ!?

 わかっていない者が―――あるいは勘違いしている者が多いみたいだから、ついでに教えておこう。


 魔王とは職業である。


 魔王とは、多くの魔族の生活の基盤、縄張りを運営する管理職なのである。

 もしこの世界が、魔族にとって厳しいものであったなら、より良い新天地を求めて戦争を起こし、人間を殺し、魔族の為、その繁栄の為に戦わなくてはならない。


 魔王とは、多くの魔族の憧憬を一身に受け、その憧れの姿たらんと努力する、アイドル業である。

 あるいは、それは人間の王も同じなのかもしれない。

 傲慢と誇り高さ、謙虚と卑屈はいつも紙一重である。堂々としていなければ、誰がその後ろに付き従おうとするものか。自らの功績を誇らねば、それは普遍的な成果へと成り果て、王の存在を必要としなくなる。

 ゆえに魔王は強く、そして尊大であらねばならないのである。礼は言おう、頭も垂れよう。しかし、絶対に膝は屈しない。僕らに出来るのは、精々嘘というオブラートで包んだ礼節と、高圧的な感謝である。因果なものだ………。


 魔王とは、王という職業を生まれながらに背負う、貴族であり、王族であり、奴隷である。

 生まれながらに自由は無く、与えられた権利は絶大でも、それに倍する責任を負うことが宿命付けられ、自由を剥奪された者を魔王と呼ぶ。


 人間の王がそうであるように、あるいは酒場の踊り子がそうであるように、あるいは奴隷がそうであるように、


 魔王とは職業なのである。




 では、勇者はどうだろう? 勇者とは、一体なんなのだろうか―――?




 ○●○




 悪魔を召喚し、奴らに宛がう事には成功したが、状況はあまりにこちらに不利だ。ここはやはり、撤退も視野に入れないとな。

 いざとなれば、聖騎士達も連れてソドムに逃げ込むしかない。そうなると奴等を取り逃がしてしまう事にもなるが、ここで死ぬわけにもいかないし仕方ない。

 2体の悪魔が4人を圧倒してくれれば良かったのだが、残念ながら1対2で当たられると戦闘はイーブン。このままでは、すぐに奴らも帰ってしまうだろう。


 「キアス、フルフルもあっち行った方がいいの?」


 傷を癒し、悪魔と偽勇者との戦闘を眺めていたら、フルフルがそう尋ねてきた。


 「いや、悪魔なんかと共闘出来るわけがない。むしろ参戦すれば、それだけ向こうの付け入る隙が生まれるってもんさ」


 それに、グラシャ=ラボラスは元より、マルコシアスだって、僕以外の生き物を区別したりしない。分別無く暴れて、フルフルまで攻撃するに決まってる。


 ホント、僕の力って使い勝手の悪い能力ばっか………。


 「あ! おいコラ、キャトル!!」


 金髪の慌てた声にそちらを見れば、包帯男が戦線を離脱してこちらに向かってきていた。

初手以降、マルコシアスと金髪&包帯、グラシャ=ラボラスとトロワ&ドゥーで戦っていたのだが、それで一気に金髪が押され始めた。

 何やってんの?


 「術者さえ倒してしまえば、あの厄介な召喚獣も消えるはずです。あの2体とこちらの2人、どちらが与し易いかは自明の理!」


 「あー、それ無いわ。つーか、お前がフルフルに勝てる道理が全く無いし」


 「その少女もあなたも、既に満身創痍。一時は遅れも取りましたが、今なら私でも! あまり舐めないでいただきたい」


 「お前こそ、僕のフルフルを舐めんじゃねぇよ」


 こいつの属性は水。水の最上級魔法まで習得し、剣技もかなりのものだが、その2つはフルフル相手では全くの無意味。

 来るならせめて、トロワかドゥーだろうに。


 「キアスには、指一本触れさせないの!」


 フルフルが意気込んで僕の前に立つ。こいつは普段ちゃらんぽらんで、だからこそ真意の見えない所がある奴だが、こんなに一生懸命僕を守ってくれるなんてな。


 包帯男が剣を構えて駆け、フルフルも魔力を集束させる。2人が激突しようとした、まさにその時―――




 「う? うわっ、うわぁぁぁあああッ!?」




 突然包帯男の腕が燃え上がった。―――と、同時にアイツが現れた。


 「もしかしたら、魔王を倒してくれるかとも思いましたが、どうやらあなた方には荷が重すぎたようですね」


 「バ、バカなっ!? なぜ貴様がここにッ!?」


 炎のような鮮やかな橙色の髪。柔和な笑顔。白銀の鎧の上に纏うは、聖騎士の証の白いマント。


 「お前は、私が殺したはずだ!!」


 包帯男が燃える腕を水で覆い、消火しながら吠える先にいたのは―――火の勇者、エヘクトル・フエゴ・デプレダドル。


 名高き変態勇者であった。っていうか、お前も死んだフリかよ。勇者は皆死んだフリが好きだな!

 アレ? 魔王もだっけ?


 「あなた程度に殺されていては、勇者は務まりませんよ。

 色々と便利だから泳がせていましたが、どうやら君達にその魔王は倒せないようなので、処分しようと思いまして」


 ザクザクと鎧で雪を踏みしめながら、こちらに話すエヘクトル。にこやかに笑いながら、彼は容赦無くもう一度包帯男の腕を焼く。

 それは一瞬であり、魔法を使った様子も見受けられなかったが、僕だけはそのカラクリに気付いていた。


 『呪術』


 僕も持っているスキルであり、僕はもう1人、このスキルの持ち主を知っている。それが、目の前の変態勇者だ。

 包帯男のステータスには、最初からバットステータスとして『のろい』があった。その呪いによって、今包帯男は燃やされているのだろう。


 「がぁッ!! あがぁぁぁあ!!」


 「残念ながら、あなた達の裏にいる者まではわかりませんでしたが、背信者達の名前は知れました。我々を襲う命を出した枢機卿倪下はほとんど殺されたようですが、その他の背信者にもまた、同じ道をたどっていただかなければなりません。

 まぁ、他にも教会が大変なようなので、あなた達にかまけている時間がなくなりました。焼却処分です」


 転げ回る包帯男だが、包帯の下からは次々と火が吹き出していく。

 これは恐らく、呪術を使って火の魔法を封印し、さらに簡易的な催眠術のようなものでこの包帯男を操っていたのだろう。


 勇者とは思えないえげつなさだ………。


 「さて、確か『覚醒』だったでしょうか? それは、あなたが消し炭になっても発動するのでしょうか?

 だとすれば大変興味深い。ただ、その炎はあなたが生きている限り、もう二度と消えませんよ?」


 穏和な笑顔で静かに語るエヘクトル。包帯男の絶叫が辺りに響き渡った。


 ―――と同時に、今度は轟音と閃光。悪魔と偽勇者が戦っていた辺りは、雪が消え失せ、地面に小さなクレーターが出来上がっていた。




 「やっほー、キアス君。どやどや、ウチの新しい魔法?」




 この、既に勇者分の飽和しきった戦場に、さらに勇者が増えたのだった。

 ………凝結して、新しい勇者とか生まれないだろうな?





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