表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
415/488

 二枚目の切り札は役立たずっ!?

 とりあえず手数が足らん。手っ取り早く補う必要がある。


 「フルフル、ちょっと任せる。防御に集中してほしい」


 「わかったの」


 フルフルだってそこそこダメージはデカいはずだ。あまり長い時間はかけられない。

 僕は腰の鎖袋から『ゴエティア』を取りだし、開く。そのページには悪魔の印章と名が記され、その印章から漏れ出る魔力が、見えないながらも禍々しい雰囲気を滲み出させていた。


 僕の動きを見て、偽勇者共が一斉に駆け寄ってきた。それを1人で迎え撃つフルフル。


 「『其は、30の地獄の軍団を統べる偉大にして強大なる侯爵。


 其は、戦士なり。

 強壮にして誠実なる、侯爵の名を持ちし戦士なり。


 其は、天使の位にいた者なり。

 主天使の位階にあり、第7天の御座への帰還を望む者なり。


 顕現せよ。35番目の悪魔にして、偉大にして強大なる侯爵。

 其の名は、マルコシアス』」


 まずはマルコシアス。マルコの名前の由来となった悪魔は、しかしその性質や姿までもマルコとの類似が目立つ。

 マルコシアスの権能は『戦士』。戦士として、召喚者の敵と戦う悪魔である。

 僕はさらにもう1匹悪魔を呼び出す。


 「『其は、36の地獄の軍団を統べる強大なる総裁にして伯爵。


 其は、屠殺の請負人。

 流血と殺人の起草者にして、それらの総元締め。殺戮の達人なり。


 其は、唆す者。

 あらゆる芸技と学問を教え、未来と過去を語り、人間を不可視にするが、殺人を唆す者なり。


 顕現せよ。25番目の悪魔にして、強大なる総裁にして伯爵。

 其の名は、グラシャ=ラボラス』」


 雪に覆われた地面に、彼等の印章が現れ、2匹の獣が飛び出した。

 1匹は黒い体毛に覆われた、大きな狼。

 もう1匹は白いマルチーズである。ただ、どちらの背にも鷲の翼が生えている。


 『若、お引き回しの程、感謝いたします』


 『おいおい! マルコシアスと一緒に喚ぶんじゃねぇよ! キャラ被ってんだろうが!』


 2匹の犬が同時に話すので、ちょっとうるさい。マルコシアスとグラシャ=ラボラスは、その姿に類似の多い悪魔だ。どちらも、翼を持った犬のような悪魔。片や誠実な堕天使、片や屠殺の請負人と、性格は両極端だが。


 僕の呼び出した悪魔を警戒してか、偽勇者達は一旦距離をとる。フルフルは―――大丈夫。目立った傷はない。


 「お前らに仕事だ。目の前の敵を倒せ」


 『了解いたしました。して、贄の方はどのようなものを賜れますか?』


 鷲の翼を羽ばたかせ、黒いマルコシアスは尋ねる。


 「そこらに落ちてる僕の血をくれてやる。存分に働け」


 『いやっほう! マジかよ!? 若旦那の生き血貰えたとなりゃ、こりゃあマジ自慢できんぜ!』


 同じく鷲の翼をぱたぱたと羽ばたかせ、マルチーズのグラシャ=ラボラスは大喜びである。


 そう、黒い狼がマルコシアスであり、白いマルチーズがグラシャ=ラボラスである。


 『しかも仕事は俺向きの殺しとなりゃあ、もう言うことなんざねえぜ! 愛してるぜ、若旦那!』


 どんなに格好の良い台詞を吐こうが、その姿はマルチーズである。これを見て、流血と殺人の総元締めだと思えるだろうか?

 言っとくが、これギャグじゃないぞ? マジでこんな姿なんだよグラシャ=ラボラスって。


 『我が帰還も、これで幾ばくかは早くなりましょう。感謝します、若』


 『ついでに後ろにゾロゾロといる奴等も殺していいのか? 別にいいよな?』


 「そういう事は、まず目の前の4人を倒してから言え」


 72柱の悪魔。

 この悪魔を呼び出す古代魔法は、実はこの世界のものではない。地球のものである。それ故に、必要な魔力そのものは多くない。だが、その代わりに代償がいる。彼等が『贄』と呼ぶ代償が。僕はそれを、ほとんどの場合魔力で補っている。だが―――


 地を這うように、トロワに刺された傷口から流れ出た血を嘗める2柱。良かった。絵面的に、人型の悪魔呼ばなくて。


 だがこの場合、いちいち魔力を渡している時間が惜しい。何より、彼らはこちらの世界にいるだけで膨大な力を必要とする。時間は無駄に出来ないのである。

 詠唱の長さ、呼び出してから戦闘に移るまでの時間、そして顕現していられる時間、これらの時間が悪魔を主戦力として使えない1つ目の理由だ。

 そして、もう1つは………―――。


 『さぁ、久々の戦ぞ。そこな下等動物共! 吾はマルコシアス!

 権能は『戦士』! 存分にかかってくるがいい!!』


 『俺様はグラシャ=ラボラス! 権能は『殺人』! 屠殺してやんぜ!!』


 フルフルを下がらせ、4人の偽勇者と悪魔が戦闘を始める。僕は『ゴエティア』を閉じて、それを見守る事しか出来ない。

 何故なら―――


 ―――ソロモンの72柱の悪魔で、まともに対人戦闘の権能を持っているのが、この2柱だけなのだから。


 他の、例えばアンドロマリウスなんかは、使うために色々と条件があり、今回は使えない。

 アンドロマリウスの権能は『罰』。『罰』とは『罪』ありきのものであり、『罪』とは『法』あってのもの。誰の領地でもないこの『魔王の血涙』にはそんなものは無く、その権能が役に立たないのである。

 他にも知識系、技能系、恋愛系、戦争系、建築系、移動系、災害系等の権能を持つ悪魔がいるのだが、どれもこの場では使えない。

 嵐の権能を持つ悪魔、フルフルなんぞをここに呼べば、確かに勇者達にダメージを与えられるだろうが、同時に僕らや聖騎士達にも被害が出るし、洪水、地震の権能を持つ悪魔も同様だ。というか、こういう災害系の悪魔は今後も使いたくない。

 不和の権能を持つ悪魔もいるが、こいつ等元々仲間意識とかないからなぁ………。

 知識、恋愛、建築系の悪魔なんて言わずもがな。っていうか、建築系の悪魔なんて、ダンジョンマスターにとってはあまりに不要な存在だろう。


 この使い勝手の悪さこそが、僕が悪魔達を主戦力に出来ない2つ目の理由であり、最大の理由だ。




 あと他に使えそうなのは、アスモデウスとフラウロスくらいだが、アスモデウスは召喚が面倒であり、フラウロスは見境がない。出来れば呼びたくない………。

 いざとなれば仕方がないが、フラウロスを呼んだ場合、聖騎士やロードメルヴィン枢機卿は敵と見做されて燃やされるだろうなぁ………。


 『ふむ。そこそこの手練れと見受けるが、鍛練が甘い』


 翼を持った狼がトロワに襲いかかり、その隙を包帯男が狙う。しかし、それを止めたのは鋼の剣。

 マルコシアスは精悍な戦士となって、包帯男の剣を止めたのである。


 『力に溺れし者よ、力とは、己で鍛えねば力とは成らぬ』


 すかさず金髪が襲いかかるが、マルコシアスは再び狼の姿となりてこれを避ける。


 『力とは使うものだ。貴様等は力に使われているに過ぎん』


 宙に飛び出たマルコシアスが、空中で再び戦士の姿をとって落ちてくる。金髪に降り下ろされようとした剣を止めたのは、トロワだった。


 『ハッハァ!! 血だ血だ!! もっともっと血を流せ!!』


 「ッ! ちょっとぉ、このワンコちゃん、ドゥーだけにやらせないでよぉ!」


 縦横無尽に、それこそ縦も横も尽きる事無く動き回るグラシャ=ラボラスは、ドゥーを確実に傷付け、その傷から権能を使って血を流させる。瞬時に回復魔法で傷を癒すドゥーだが、回復魔法でも失った血は戻らない。

その顔に浮かぶ、疲労の色は濃い。


 『チッ。メンドくせぇなぁ、その魔法。血抜きがおせえと、肉がマズくなんだろうが』


 邪悪な雰囲気を漂わせ、楽しそうに笑うグラシャ=ラボラスだが、その姿はやっぱりマルチーズ。


 悪魔の実力は圧倒的ではあるが、当然こいつ等にもアンドロマリウス同様に制限がある。代償分の働きをすれば、当然のように帰ってしまうだろう。

 何より、倒してもまた『覚醒』で蘇られては面倒だ………。




 さて………、どうしようか………。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ