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 エドワルド・ロードメルヴィン・ボルバトスという男っ!?

 「あなたは簡単に言いますが、これでも結構苦労したんですよ?」


 ロードメルヴィン枢機卿は、やはり爽やかな笑顔で言ってのける。


 「通貨発行の利益ばかりを説き、間抜けなジジイ共を唆し、不利益に気付く連中の口は塞ぐ。ああ、別に殺してませんよ。そんな目立つ事をせずとも、叩いて埃の出ない者など、最早教会の上層部にはいませんから。

 ただ、枢機卿連中の相手をするのが、一番厄介でしたね。僕の前任であるユヒタリットは、教会の経理やなんかを一手に纏めていた人物ですから、残りはボンクラだと踏んでいたのですが………。いやはや流石、腐っても枢機卿になっただけの事はありました」


 で、暗殺に協力したと。確かに、手は汚してないけど、かなり悪どいねこの人。いや、それを何の躊躇もなく隠蔽した僕が言えた事では、全く無いんだけど。


 確かに通貨発行までの教会の動きは、あまりに愚かすぎた。まるで教会が自ら、教会の衰退を望んでいるかのように。それは全て、この目の前の男が仕組んだ事だったわけだが、結局この人の目的は何なのだろうか?


 「私がなぜこんな事をしたのか、気になりますか?」


 おっと、疑問が顔に出ていただろうか?いかんいかん。

 気を引き締め直す僕を後目に、ロードメルヴィン枢機卿は仄暗い笑顔でもって話す。


 「別に、権力が欲しかったわけじゃありませんよ?」


 「いや、それはわかってるよ」


 ボルバトス侯爵家は、恐らく没落を免れ得ない。それは教会が無くなり、新たな国家として再出発ができたとしてもだ。彼はある意味で、国を裏切ったのだから。


 国家反逆。


 教会が無くなり、教会に敵対的な勢力が中枢を占め、表だってロードメルヴィン枢機卿を糾弾できなくなったとしても、それは重い罪だ。獅子身中の虫だった者を、喜んで身の内に置きたい者などいない。ボルバトス侯爵家が存続するただ1つ道は、精々この革命の中心に立ち、全てが終わった後に教皇に成り代わって国の元首になるしかない。が、それも恐らく無理だろう。

 せめてもっと多くの勢力を率いていれば、話は別だったんだが………。


 「同時に、民のためとか、国のためとか、悪の道に進む教会に対して義憤に駆られたとか、そんなご高承な理由でもありません」


 おっと、それは意外だな。てっきり、腐敗が進む教会上層部に嫌気が差したのかと思っていた。だったら本当に、何のためにこの人は動いたんだ?


 「私がしたのはただの復讐、よくあるただの復讐です。そう………妹の………」


 妹、ね………。まぁ、言いづらそうだし聞かないさ。どうせ胸くそ悪くなる、不幸と不条理の話だ。

 そんな事より、これからの話だ。


 「どーでもいいけど、これからアンタどうすんの?いや、後ろの聖騎士さんも含めて、アンタ等どーするって聞くべきか」


 あれ?そういえばいつの間にか、僕この人に敬語使って無かったな。まぁ、最初から呼び捨てだったし、別に良いか。無闇に下手に出るのも、聖騎士達に舐められそうだし。


 「私は一度、聖都に戻りますよ。その前に、会う必要のある人物はいますが。それに、聖騎士だって戻らねばなりません。これからどうするにせよ、一度戻って身の振り方を考えさせなくては。

 まぁ、しばらくは暴動の鎮圧と警戒でしょうし、退っ引きならなくなった教会が、いよいよ民衆に牙を剥きかねませんから、手早く帰りますよ」


 「あっそう。まぁ、それが出来るかどうかはわからないけど、なら僕が君達に敵対する理由はない」


 「助かります。文字通りね」


 そんな事より、話についていけてない後ろの聖騎士さん達に説明してやれよ。皆戸惑いの視線を、僕と枢機卿の間で右往左往させてんじゃん。可哀想に。


 あ、でもそういえば、もう1つ聞かなきゃなんない事あったんだっけ。


 「そういえば『偽勇者』の件って、アンタどれくらい知ってんの?」


 せっかく教会の中枢にいた人物と話す機会ができたので、ついでに聞いとく。僕としてはそこまで優先度の高い質問ではないが、タイル辺りに教えれば喜ぶかもしれないしな。


 「あなたにかかれば、彼等も『偽』扱いですか………」


 いや、偽物だろう。本物の勇者や魔王を見てきた僕からしたら、あれを同列に語る事はできんよ。関係各所からクレームが来る。


 「まぁ、実を言うと私もよく知りません。あの部隊は教皇派、というか教皇本人がいつの間にか保有していた部隊ですから。

 私が知っているのは、彼等が教会で預かった元孤児達である事と、魔王の街や風の勇者、火の勇者を襲撃した事。それに伴い、先の2つは失敗しましたが、火の勇者の暗殺には成功したと報告がありました。


 ああ、後は真大陸各地で『反教会姿勢』の町や村を粛清して回っていた事もでしょうか。昨今、真大陸各国で噂の、賊の正体は彼等『勇者部隊』です」


 「火の勇者暗殺!?」


 「教会が賊の正体だって!?」


 「何なんだ、その『勇者部隊』ってのは!?」


 あー………、もう、五月蝿いなぁ。


 にわかに騒ぎ始めた聖騎士達にうんざりしながら、僕は枢機卿の話を整理する。

 まず、あの偽勇者連中のルーツは結局不明。エレファンとタイルに叩き潰されたはずの『聖人計画』との関連性も不明のまま。


 次に変態勇者(爆)の死亡。これはまぁ、どうでもいい。


 最後に賊の正体は偽勇者って事。これも僕には関係ない。


 「はぁ………。有用な情報は何一つ無かったな。使えねぇ」


 「はは、申し訳ない」


 全く悪びれない枢機卿に、ちょっと教えてやるかどうか悩むが、この先の展開がどうなるかわからないので教えておこう。内容的にも、釣り合いが取れない程貴重なものでもないしな。


 「んじゃ、お返しに僕からも耳寄り情報。


 このままだとあと数分で―――




 暗殺されるよ、アンタ」



 僕の言葉が終わるか終わらないかの所で、周囲に哄笑が響き渡った。





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