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 地下迷宮走破・6

 ミノタウロスは、既に傷だらけだった。


 シュタール達はまだ仕掛けてはいない。いや、仕掛けられない。こんな状況は、あまり想定していなかったな。


 そこでは既に、2日前に別れた魔族のパーティー、アリス殿達が戦闘を行っていた。


 この場合、横槍を入れてもいいものか悩む。倒した者が何人であれ、恐らく宝箱は1つ。そうならば、どちらの所有権が優先されるかはわからないのだ。


 ふむ、これは後でキアス殿に伝えるべき改善点だな。


 しかし、状況は必ずしもアリス殿達が優勢とは言えない。

 走り回るパパゲナ殿の背に乗り、長い槍を振り回すドヴェルグ殿。2人とも、目に見えて大きな傷を負っている。キキ殿は無傷ではあるが、大分体力の消耗が見受けられるし、アリス殿に至っては魔法と弓による陽動で、体力魔力ともに限界に近いと見える。


 相手は上級の魔物。それに加え、これでもかと魔法の支援を受けているのだ。無理もない。


 「『アネモス・ヴァリア・スィエラ』!!」


 「『セルモス・セラペヴォ』」


 強力な上級風魔法を放つアリス殿。嵐のような暴風がミノタウロスの周囲で暴れまわり、その隙にパパゲナ殿が自身とドヴェルグ殿の傷を癒す。


 「うにゃー!!『パンセリノス・トゥレラ』!!」

 キキ殿が見た事もない魔法を使う。


 しかし流石魔族、ほぼ全員が魔法を使うか。


 キキ殿の動きが、目に見えて素早くなる。どうやら身体強化魔法のようだな。見たところ攻撃力と素早さが増している。だが、やはりそんな魔法、私は聞いた事がない。


 「アルトリア、あれは?」


 「恐らく『狂化』ですね。真大陸ではほとんどの地域で禁呪扱い、もう既に伝承の中にしかない魔法ですね。私も見たのは初めてですわ」


 狂化………。嫌な語感の魔法だな………。


 「爆発的に力を高めますが、感覚が鈍り、痛覚すら感じなくなるので、回避や防御が散漫になります。自分の目で見なければ、自らの傷すら自覚できません。

 おまけに、常軌を逸した戦闘による昂りから、冷静な判断力が出来なくなり、連携もままならなくなります。酷い場合には、敵味方すら区別できなくなるそうです」


 「よし!アルトリア、お前は絶対使うなよ!!」


 シュタールの言葉に、私もレイラもミレも、全員が揃って頷く。


 「使いませんよぉ。というか、見ただけでは使えませんから」


 とりあえずひと安心だ。アルトリアに『狂化』だと?なんと恐ろしい組み合わせだ。火に油だ。いっそピッタリに見えてしまう程に相性が悪い。いや、相性が良すぎて一周回ってしまった感じか。


 『ぴんぽんぱんぽーん』


 そこで、何やら気の抜ける声が聞こえてきた。これは、キアス殿の声だ。


 『やぁやぁ、ようこそ地下迷宮のボスの元へ。

 さてさて、どうやらバフかけまくったボスに苦労しているようですねぇ。

 ならば迷宮と言えば謎かけ!というわけで、1問正解する毎にボスにかかったバフが1つづつ消えまぁーす。がんばってね。


 では第一問!ジャジャン!―――あ、この『ジャジャン』って自分の口で言うと恥ずかしいね―――』




 「「「早く問題を出してやれよ!!」」」




 我々が口を揃えて抗議すると、アリス殿達が驚いたように振り返る。だが、悠長に喋っている暇はない。どうやらこのキアス殿の声は、事前に吹き込まれたもののようで、こちらとの会話は出来ないようだ。

 しかしこんなものがあったとは………。スフィンクス、メドゥーサの時は気付かなかったな。


 『―――では第1問!


 直線で構成された、正確な三角形の面積の求め方は?』


 あれ?1問目から難易度高くないか?


 「「「「底辺×高さ÷2!!」」」」


 『正解!!』




 なッ!?




 この衝撃を、どう表現すればよいだろう?まさか、一般的な魔族はこれ程までの教養を持っているというのか?

 うかうかしていれば、人間が技術力で魔族に勝っていられる時間はそう長くはないだろう。


 『はい、じゃあミノタウロス君の『マギア』は解除しまーす。


 続けて第2問!


 猛スピードで走る荷馬車。中には武器、野菜、肉が積まれています。さて、急カーブで落としたのは何でしょう?』


 「「「「???」」」」


 今度は一斉に首を傾げる面々。

 魔族達に倣って、私も腕を組む。はて、どこかにそんなヒントが紛れ込んでいただろうか?




 「「いや、スピードだろ」」




 声を揃えて答えたのは、何とシュタールとレイラだった。


 そうか、積み荷は囮か!まんまと騙された。


 感心しながら私やミレ、アルトリアも2人を見る。こんな視線は慣れていないのだろう、居心地悪そうに2人は頭を掻いていた。


 『おぉ〜、正解正解。やるねぇ、チミ達。ミノタウロス君は、さらに『エピセスィ』を没っしゅーと。さぁ、攻撃力が下がりましたよー。


 では第3問―――』



 いや、ミノタウロスに掛けられた支援魔法が無くなるのは助かるが、正直この気の抜けるような声はどうのだ?


 それからは、なぜかなし崩し的に私達が問題に答え、アリス殿達が戦闘をこなすという役割分担となってしまった。因みに間違うと、支援魔法が1つ復活する事に加え、ある程度傷まで癒されてしまう。だからといって、問題に答えず弱体化した現状を維持しようとしたら、一定時間で不正解と見なされて回復と支援が施されてしまった。


 戦闘をしながら、謎かけに思考を割かねばならないとは、中々大変だな………。







 「大変助かりました。一度ならず二度までもお手を煩わせる事になるとは………、不甲斐ないばかりです」


 ミノタウロスを倒しきり、魔石を剥ぎ取ったアリス殿がこちらに頭を下げに歩いてきた。


 「いえ、手助けなど何もしていませんから、お気になさらず」


 「それも、私達に配慮していただいての事でしょう?本当に、何から何まで………」


 やはり、もしここで合同討伐となった際の報酬の配分について、面倒になるのはわかっているようだ。

 今回私達は、『謎かけに答える』という『手助け』をしたが、あくまでそれは『手助け』の範疇であり、ミノタウロスと戦ったのはアリス殿達だけだ。勿論、彼等が死の危機に瀕したら、それなりの手助けをするつもりもあったが、そうなれば間違いなく面倒な話になった。


 お互いに権利を主張するような状態にはならなく、遠慮し合ったりしても蟠りが残る。金銭で等分配といった解決法は、我々が真大陸と魔大陸という、相容れない地に住んでいる以上不可能だ。物が物だけに、買い取り手を探すだけでも一苦労、という理由もある。


 今回程度であれば、こちらが求めなければ無理に報酬を考えなくてもいい。とりあえず、面倒にならずにホッと胸を撫で下ろす。


 「本当に、あなた達にはお世話になりました。この恩は、絶対に忘れません。

 あなた方がアムドゥスキアス様の敵とならぬ限り、私達はこの恩を返すと約束します!」


 「ああ、ありがとう。

 早く行った方がいい。次のミノタウロスが出てくるまでに、あなた方は引き返して外に出ないといけないでしょう?」


 「いえ、運良く目的も達しました。この上は、ダンジョンを出てアムドゥスキアス様の元へと馳せ参じます」


 そうか、ならばまた会う事もあるかもな、という言葉を飲み込み、私は笑顔で別れを告げる。


 「縁がありましたら、またいずれ会いましょう」


 「はい、必ずやまたお会いします。そんな気がします」


 そう言うと、アリス殿達は再度礼を言って、奥の部屋へと消えていった。キキ殿は戦闘中の狂気はどこへやら、にこやかにこちらに手を振って去っていった。


 「さて、どうするシュタール?」


 完全にアリス殿達が立ち去ったのを確認し、私は溜め息と共にシュタールに問いかける。


 「ん?どーするったら?」


 やはり考えていなかったか………。


 「彼等がオリハルコンのコピスとコピシュを手に入れれば、当然我々はそれを得られん。

 キアス殿は、明らかに我々に渡すために、今回地下迷宮の主の宝物を用意していた」


 「ああ、あからさまにな」


 どこか嬉しそうにレイラが言うが、だからこそ悩み所だと言うのだ。


 「だが、それをみすみす逃した以上、次も同じ物があるとは考えづらい」


 「そうですねぇ。いくらキアス様が私達に甘いとはいえ、過保護に予備の剣まで造っていただくような不様は晒せません。

 それに、そこまでいけばキアス様が甘いのではなく、私達が甘えてると言われても、何の反論もできませんよ」


 会話の結論に思い至ったのか、今さら冷や汗を流し始めるシュタール。本当に気付かなかったのか………。


 「つまり―――」


 「………コピスとコピシュは………、………もう諦めた方がいい………」


 もう少し柔らかく伝えようとした私の言葉を遮って、ミレがストレートに結論を告げた。




 だが、あっさりとミノタウロスを倒し、奥の部屋へと辿り着いた時、予想以上に迷宮の外は変化しているのだと、我々は知る事になる。





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