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 地下迷宮走破・3

 「とても美味しいです。私は生まれも育ちも魔大陸ですが、なんだか懐かしい味のような気がしますね」


 「全くだ。いい嫁さんになるぜ、あんた!家に来ないか?あ、俺カミさんいたんだったぜ!!かははははは!!」


 この2人は、どうやらかなり社交的らしい。

 私の料理を食べながら、実に小気味良く会話を繰り出してくる。


 「うにゃあ。ちょっと熱いにゃ………」


 「スープを皿に盛るのは人間の作法か?贅沢を言うつもりはないが、これはちと食べづらいな」


 やや食事に悪戦苦闘しているのが、キキ殿とパパゲナ殿である。パパゲナ殿の場合、体は馬で口は左右に割れているので、非常に扱いづらそうだ。そちらは、シュタールが面白半分に手伝ったりしているので、任せる事にする。


 「そういえば、アニトレント殿達も、アムドゥスキアス様の恩恵を授かる為ダンジョンへ?」


 どうやら彼等は、キアス殿のマジックアイテムや武具を求めて、迷宮に潜っているらしい。つまり、我々と同類、魔族の冒険者といったところか。


 「恩恵、といえばそうですね。地下迷宮の主が守る武具を求めてここにいます」


 アリス殿(嫌がっていたようなので、心の中だけで略す事にする)は、私の言葉に目を見開いて驚く。


 「あなた方は、既にこの地下迷宮を踏破なさったのですかっ!?」


 続いて、ドヴェルグ殿とキキ殿も会話に加わる。


 「スゲェな。魔族だってまだ地下迷宮の主を見たって奴ぁいねぇぞ!!大したもんだ!!」


 「ねぇねぇ、武具ってどんなのかにゃ?見せてほしいにゃ!」


 詰め寄られるようにして話す3人に、やや気圧されつつミレに言ってハラディを見せる。


 「「「オリハルコン!!」」」


 その色を見て、3人が唱和する。やはり驚くよなぁ。


 「アムドゥスキアス様は、惜し気もなく配下にオリハルコンの武具を与えると有名でしたから、もしやと思いましたが………、これは………」


 「この地下迷宮の最奥に辿りつきゃ、俺達もあれが………」


 「凄いにゃ!にゃんかモチベーション爆上げにゃ!絶対に主倒すにゃ!!」


 羨望めいた視線や、陶然とした視線、血気盛んに立ち上がったりと、一気に場が盛り上がる。ただ1人、この場でついて来れないのは、ハラディを見せに来たミレだけだった。


 「アムドゥスキアス様は、本当にスゲーお方だなぁ」


 1人離れた所にいたパパゲナ殿も、会話は聞いていたらしく感心していた。まぁ、これだけ騒いでいれば当然か。


 「ああ、真大陸に住むあなた達は知らないかもしれませんが、このダンジョンの主、アムドゥスキアス様は、とても凄い方なのです」


 いや、我々はキアス殿と面識もあるし、彼は真大陸でも色々とやっているのだが、正直魔大陸でのキアス殿の風聞というのも気になる。気になるだろうからアルトリアやレイラ、ついでにミレにも通訳しておこう。


 「アムドゥスキアス様は、北側一帯を支配下に置いていたコション様を打ち破り、その支配地を奪い取ったんだぜ!!

 しかも、アムドゥスキアス様に弓引いたコション様の配下は、1人残らず皆殺しだ!!」


 「それだけじゃにゃいにゃ!他の魔王様の誰もが造れないような街を造り、誰も聞いた事が無いような凄い音楽を奏で、第6魔王様に勝ったって話にゃ!連戦連勝にゃ!

 超絶カッコいいにゃ!」


 「今起きてる戦争も、アムドゥスキアス様なら、あっさり勝っちまいそうだよなぁ。敵方にはあのアベイユ様やエキドナ様までいるってのに」


 ドヴェルグ殿、キキ殿、パパゲナ殿が絶賛するなか、アリス殿だけは少々難しそうな顔をする。


 「魔族の視点では、強いか弱いかしか伝わりませんね。

 私からは、アムドゥスキアス様は水や食料の供給、物流の途絶えがちな北部地方に、安定的な供給路を作った事が特筆すべきところでしょうか。他にも、アムドゥスキアス様の治世は、下々の民を思う慈愛に満ちたものかと。世に『虐殺王』という二つ名が広まってしまったのは、あくまでも最初のコション様打倒がセンセーショナル過ぎたのが原因ですよ」


 話を総合するに、アムドゥスキアスという魔王は、我々の知るキアス殿ではなく、どこかの神様のようだ。誰だその、何でも出来る完璧超人は?


 「流石キアス様。慈愛に満ちた微笑みと、冷酷無慈悲な冷笑を、同時に湛えるお方………」


 あ、そういえばここにもいたな。神、アムドゥスキアスを信仰する奴が。


 「よくわかんねー………。でも、キアスさんに『虐殺王』ってのは似合わねぇよな」


 「そうだな」


 「………ZZZ………」


 私と同じ感想を抱くレイラが首を傾げ、腕を組んだ。それはそうだ。普段のキアス殿とのギャップが酷い。魔族にとって、キアス殿は暴虐の権化といって差し支えない認識のようだ。

 それと、おねむはとっとと毛布の中に放り込んでおこう。


 「ただよぉ、アムドゥスキアス様のお力を、疑問視する輩もいるぜ。

 コション様の領地を支配下に置くとき、敵をほとんど殺せなかった、ってな」


 「あー、キキも聞いたことあるにゃあ。でもでも、勝つには勝ったんだよにゃ?」


 ドヴェルグ殿とキキ殿は、少し難しそうな顔をするが、アリス殿は我が意を得たりと大仰な身振りをしながら蹄を鳴らす。


 「何を言うかと思えば!いいですかドヴェルグ?

 アムドゥスキアス様は『ほとんど殺せなかった』のではありません!『誰も殺さなかった』のです!

 誰も殺さずに戦に勝ち、なおかつ相手の兵力を全て自分の物とする!これは、ただ闇雲に殺すより、遥かに凄い事なのですよ!?

 未だ嘗て、このような逸話は聞いた事がありません!!アムドゥスキアス様こそ、魔大陸に新たに生まれた英傑!英雄!未来の大魔王様です!!」


 「うにゃあ………、またアリスの演説が始まったにゃあ………」


 「ガハハハ。そうだな!だから俺たちゃ、とっとと地下迷宮を攻略してみせて、アムドゥスキアス様に仕官すんだよな」


 「軍馬として使っていただければ、俺は文句はねぇよ」


 最後にパパゲナ殿が、蹄を鳴らしながらこちらに来て付け加えた。なぜかシュタールを背に乗せて。

 アリス殿は皆の言葉に頷き、纏めるように口を開いた。


 「そうですね。

 少なくとも、戦争が始まるまではそれを目標に。戦争が始まれば我々も軍に志願して、アムドゥスキアス様に同道しましょう。

 我々はそのために、わざわざアカディメイアからゴモラまで来たのですから」




 「ちょっと待ってくれよ」




 口を挟んだのは、シュタールだった。




 「戦争ってのは、何の話だ?」





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