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 地下迷宮走破・2

 「またよりにもよってお前は………」


 ここ地下迷宮は、キアス殿の言によれば、『魔王の血涙』全土の地下に敷かれた大迷宮である。当然そこに、真大陸側、魔大陸側といった区別はなく、人間だけではなく魔族だって迷宮を利用しているわけだ。

 ただ、広大すぎる上に魔族は魔大陸方面から侵入しているので、滅多に会うことはなかった。こうして魔族に会う事自体、我々がいかに深くこの迷宮に潜っているのかの証明でもあった。


 馬の胴体、人の上半身を持ったケンタウロス、ほぼ全身が馬のような姿で、左右に割れている昆虫の顎のような口が異様なプーカ、背が低く、毛むくじゃらなドワーフみたいなドゥアガー、細身の猫の獣人に見えるが、全身のバランスが猫8、人2といった割合の女性。最後の彼女の種族はわからなかった。

 4人の魔族を後ろにして、シュタールがヘラヘラとこちらに手を振っている。


 「なんかよー、落とし穴に落ちかけて、おまけに魔物にも囲まれてたから助けてきた」


 「助かったぜ人間!いやぁ、死ぬかと思った!」


 「ドヴェルグが落とし穴を見逃したりするからにゃあ」


 シュタールが言うと、プーカが笑い、猫人が呆れたようにため息を吐く。魔族の使う言葉は、以前真大陸北部で使われていた言葉に似ているが、やはり聞き取りづらい。私以外の、アルトリア、ミレ、レイラにいたっては、どうやら全く聞き取れないらしい。

 真大陸共通言語は、魔法の発展と共に全土に、驚異的な広がりを見せた言語だ。習得しやすく、他言語ともそれなりの親和性がある、数百年前の高名な言語学者の発明だ。残念ながらというべきか、当然ながらというべきか、魔大陸にはその恩恵は届いていなかったらしい。


 「カハハハッ!!面目ねぇ!!」


 「笑い事じゃありませんよ、全く。私やパパゲナにとって、落とし穴とワイヤーは鬼門なんですから、気を付けてください」


 ドゥアガーとケンタウロスの話を聞くに、どうやらドゥアガーの名がドヴェルグというらしい。

 と、ケンタウロスが理知的な瞳をこちらに向けて微笑みかけてきた。


 「騒がしくて申し訳ありません。私はアリストレインロンロンパルム・プルボッカ・ラールラールと申します」


 「長ッ!!」


 「話の腰を折るな。それと、異文化と接触する際は否定的な文言に気を付けろバカめ!

 失礼した、アリストレインロンロンパルム殿。私はアニトレント・ミルディ。そこのバカの仲間だ。………ちゃんと通じているかな?」


 私が彼の名を呼んだとき「アニーすげー」とか言って、何やらゲラゲラ笑いだしたシュタールに一発ケリを入れておく。


 「ええ、とてもお上手です。それに、一度に私の名を憶えてくれたのも嬉しい。皆、早々に諦めてアリスと呼ぶものですから………」


 「ケンタウロスもエルフも森の民ですから」


 ケンタウロスはその昔、幻獣として真大陸にも住んでいた種族だ。ただ、その容姿があまりにも人間とかけ離れていて、おまけに魔法に長けて身体能力も高かったために、魔族と同一視され迫害の対象となった。


 「ふふ。嬉しい事を言ってくれる。とはいえ、今は土に囲まれた地下にいる我々ですがね。

 紹介しますよ、こちらの馬より少し不細工なのがパパゲナ」


 「おいこら!」


 「美しい毛並みのケット・シーがキキ」


 「よろしくにゃあ」


 「ドワーフにそっくりなのが、ドヴェルグです。

 似てるんですよね?私はドワーフを見た事が無いのですが………」


 「罠師のドヴェルグだ。あんたのツレには世話になった。

 罠師としてそれなりの自負はあったんだがな、敵に囲まれて焦っちまったぜ!」


 やたらと声の大きなドヴェルグは、そう言ってまたガハハと笑う。


 「ええ、ドワーフに比べれば、やや体毛が濃いようですが、赤銅色の肌を除けばよく似ています。

 それと、本物のドワーフでしたら、今あなたの目の前にいますよ」


 私が手のひらをレイラの方へ向けると、当の本人はキョトンとした顔で私を見る。


 「お、おい、何の話だ?アタシが何かしたか?」


 「おおっ、これはとんだ失礼を!!こんな毛むくじゃらの小岩のようなへちゃむくれ男とは、雲泥の差ではないですか!」


 「ちげえねえ!こんな美人と一緒にされたとあっちゃあ、おっさんケツが痒くならぁ!ガハハハハ!!」

 やたらとキザったいアリストレインロンロンパルム殿と、彼の言葉に気を悪くする風もなく陽気に笑うドヴェルグ殿。そんな2人の様子に、少々挙動不審に彼等と私を見るレイラ。


 「な、なぁ………?」


 「お2人は、レイラが美人だと誉めてくれてるのさ」


 「そ、そうなのか?」


 詳細は省こう。私がドワーフとドヴェルグ殿を似ていると言った件を説明すれば、彼女は間違いなく憤慨するだろうからな。


 「さぁ、立ち話もなんですから、どうぞこちらへ。丁度、食事の最中でしたので、良ければ召し上がっていってください」


 「これは、何から何まで本当に申し訳ありません」


 「いい匂いがするにゃあ♪」


 こうして、魔族との食事会が始まったわけだ。




 因みに、アリストレインロンロンパルム殿の名をあまり呼ばないようにしたのは、やはり長いからである。





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