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 地下迷宮走破・1

 「キアスさん………」


 「キアス様………」


 ああ、またいつもの病気か。

 私はすっかり慣れた調子で、レイラとアルトリアを無視して、夜営用のマジックアイテムを取り出し、調理を始める。このマジックアイテムのお陰で、随分と夜営は楽なものとなっていた。これがこの地下迷宮では、ややハズレの品だというのが勿体ない。どこに出しても、立派なマジックアイテムだろうに。


 「………♪………」


 上機嫌でナイフの手入れをしているミレに、どこかへ消えたシュタール。いつもの光景だった。







 「しかし、こうもずっと潜りっぱなしだと、世情に疎くなるな」


 「ええ、そうですね。なんでも一度、ソドムに襲撃があったらしいですよ?」


 夕飯を食べながら、雑談を交わす。気を抜く時にはしっかりと抜かないと、この地下迷宮ではすぐに参ってしまう。何せ、1日のほとんどを戦闘と罠の回避に費やすのだ。精神なんて、あっという間に磨耗する。


 「………『風雲の麒麟児』ゴンドーが………、………死んだ………」


 ミレの言葉に、沈痛な表情を浮かべたのはレイラだった。


 「いいおっさんだったぜ。アタシを見る度、子供扱いしやがる以外は」


 どうやら彼女はゴンドーと面識があったらしい。『風雲の麒麟児』は、最近名を上げつつあるパーティーだ。そういう事もあるだろう。私達は皿へと伸ばす匙を止め、しばし黙祷を捧げる。


 「しっかし、キアスさんが出てったって聞いたときはビビったな!」


 「………ん………。………見た事無い魔法………使ったって………」


 「あら?私は魔族の魔術師に助けられたと聞きましたが?」


 「私もそう聞いた。『風雲の麒麟児』のパーシバルに聞いたのだから、こちらの情報の方が正確なのではないか?」


 短い黙祷の後は、全員暗い気分を払拭して話し始める。元より命の危険のある仕事、こんな事は今までにも何度か経験した。慣れたわけでもないが、いつまでも落ち込んでいては死者も居心地が悪かろう。


 「あー、ダメだダメ。パーシバルはあの街じゃ、数少ないキアスさんが魔王だと知らねぇ人間だ」


 「………そうでも、ない………。………商人には………、………知らないの結構いる………」


 どうでもいいが、それは最早身分を隠している内に入れていいのだろうか?


 「本人と話したってのに気付かねぇんだもん、ありゃ鈍感だ。ウェンディも苦労するぜ」


 「ではその魔術師がキアス様だったのですか?」


 「………間違いない………。………パイモンが………名前呼んだって………」


 成る程。なぜその事が大っぴらにならないのか疑問だったが、命の恩人に対する義理か。冒険者というのは、とかく命の貸し借りには義理堅いからな。でなければ、いざという時お互いに背を預け合うのも不可能だ。

 まぁ、バレたところで知らぬ存ぜぬを貫けば、抗弁出来る者はいなかろう。パイモン商会は大商会だからな。好き好んで敵に回したい国も商人も少ないはずだ。とはいえ、国相手では必ずしも安泰ではないだろうが。


 「さて、となるといよいよ、ここを出る準備をしておいた方がいいかもな」


 「アタシはいいけど、シュタールがなんて言うかだな」


 「いつもは引きが強いのに、こんな時に最後まで残ってしまうのがシュタールさんですねぇ」


 「………僕もレイラも………もうここに用はない………」


 そう。あれからずっと地下迷宮を彷徨い続け、レイラはオリハルコンのトンファーを手に入れていた。

 てっきり圏が入っているのかと思われた宝箱には、金色のトンファーが綺麗に並べられていた。圏という武器を事の他気に入っていたレイラが、少しがっかりするのではないかと心配した我々だったが、トンファーを見たレイラは、予想に反して大喜びだった。


 『防具としての色が強いトンファーを、オリハルコンで造ってアタシにくれるって事は、それだけアタシを大事にしてくれてるって事だろっ!?』


 と言われたが、果たしてあの朴念仁がそこまで考えていたかどうかは謎だ。案外、今レイラが使っている圏を箪笥の肥やしにされたくなかっただけかもしれない。


 「シュタールも既にメル・パッター・ベモーがあるのだから、もう諦めればいいのに」


 「あらアニー、あなたはキアス様から魔法について聞きたいだけではなくて?」


 う………。バレたか。

 確かに気になる。聞いた話では、精霊のような者を召喚し、使役したとか。あと、聞く者達が異口同音に『ヤバそう』などという魔法の詳細、実に気になる。


 「召喚か………。魔法陣と詠唱を使い、魔物を召喚し使役するという魔法が、太古の昔にはあったという………。

 あるいは、その古代魔法をキアス殿が習得しているという可能性も………」


 「アニー、あなたは目を離すと、何だかんだとキアス様と懇ろになろうとするから油断なりません」


 むっ………、それは誤解だ。

 普段はタレ目の目付きを、鋭く尖らせたアルトリアに睨まれ、少々たじろぐ。

 確かに一緒に風呂に入ったり、私に対して少し甘かったりするが、キアス殿はあまり私に興味など無いと思う。多分………。


 「とにかく、一度今後の事について、考えて置くべきだろう」


 「だな。まぁ、結局シュタール次第だろ?」


 「………ん………」


 話の向きを変え、とりあえず纏めると、レイラとミレが頷く。アルトリアも、やれやれとでも言いたげに肩を竦めると、キョロキョロと辺りを見回す。


 「ところで、シュタールさんはどこへ行ったのですか?」


 そういえば………。




 「おおーい、なんか困ってた魔族助けてきたぞー」




 ヘラヘラと笑いながら、魔族を引き連れて帰ってくるシュタール。




 はぁ………。またか。





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