ダンジョンは楽しいっ!?
『残念ながら、そのスマートフォンに、君の生前の友人や家族の記録はない。当然ながらインターネットも閲覧できない』
「そんなスマホに、どんな存在価値が………?」
僕は、スマホ片手に項垂れながら呟いた。
『それはダンジョンの創造に役立ちそうなので、持たせたままにしたんだ。いきなり手探りで、魔力を使ってダンジョンを造ってくれ、と言われたって君も困るだろう?』
「?ええ、まぁそうですけど………、それとこのスマホとどんな関係が?」
『アプリが1つ入っているだろう?それを起動してくれ』
アプリを確認してみる。確かに1つだけあった。その名も『ダンジョンツクール』。 いいのかコレ!?いや、著作権とか関係ないとか言ったのは、僕だけど。
吹き出る冷や汗をできるだけ無視して、僕はその『ダンジョンツクール』を起動する。
『起動したようだね。ダンジョンの造り方は簡単だよ。そのアプリでダンジョン造って、セーブするだけ。改変も、同じだね。手間隙は掛かるけれど、人が入ってくる度、構造が変わるダンジョンとかも造れるよ』
「えっと………」
スマホには、白い四角形がポツンと表示されていた。これがこの部屋、ということか。他には、『カスタム』、『セーブ』、『ステータス』というアイコンが画面の下に並んでいて、まんまゲームのようだ。
「………簡単すぎませんか、コレ?」
試しにカスタムという項目から、『通路』を選択してこの部屋に繋げてみる。
なにも起こらない。
やっぱりそんな簡単にはいかない、ということだろうか。
『まぁ、君に手掛けてもらう土地は広大だからね。これくらい簡略化しないと、とてもじゃないけど無理だと思うよ。
あ、『セーブ』しないと構造は変わらないからね』
「なるほど、確かに………」
1人で壁建てて、落とし穴掘って、罠仕掛けて………。無理だな!うん、神様ありがとう。
って、あれ?
本格的にお願いを聞く流れになってるっ!?
試しに『セーブ』をタッチ。すると確認画面が現れた。
『セーブしますか?』
『はい』 『いいえ』
とりあえず『はい』。いちいち面倒くさいと思うが、この確認画面がなければ、ミスタッチで即セーブになってしまったりして大変なのだ。
これからこの『はい』をタッチするときは、ミスがないか、ちゃんと確認してからにしよう。
石造りの部屋全体が流動するような、奇妙な振動の後、にゅるり、と石壁が動き、通路が現れた。どうでもいいけど、なんかキモい。
しかし、やっぱり簡単すぎるな。
いいのだろうか、こんなに簡単で………?
『確認してくれたみたいだね。そのスマートフォンには、私の力がいくらか宿っている。まぁ、『魔王の血涙』くらいの広さなら、十分な量だが、それが無くなれば、自分で補充しなければならないよ。
と、そこでまず1つ目の恩恵です。『ステータス』を開いてごらん』
言われるままに、今度は『ステータス』をタッチ。今度は確認画面もなく、すんなりステータスらしきものが表示される。
ななし 《レベル1》
まおう ダンジョンマスター
たいりょく 10/10
まりょく 2/2
けいけんち 0/100
ちから 4
まもり 2
はやさ 6
まほう 0
わざ
なし
そうび
がくラン
スニーカー
スマホ
「ゲーム〇ーイかっ!?」
しかも初期。あの灰色と紫が特徴の、単3電池4本必要なアレだ。
ひらがなカタカナのみってだけでも驚愕の低スペックなのに、多分これ文字制限あるよな?装備の欄とか。
手のひらサイズのパソコンとまで呼ばれる、スマートフォンが泣いてる気がする。
『確認できたみたいだね。それじゃあまずは、『魔力の泉』を与えよう。』
神様がそう言った途端、たった2しかなかった『まりょく』が一気に10002まで増えた。
いや、うん。神様だもんね。ずば抜けた数字は、そのせいだよね。俺のステータス、基本一桁だけど、つまりは伸び率がいいんだよね。なんたって魔王だもん。大丈夫だよね?
因みに『わざ』に『まりょくのいずみ』が増えた。このアプリの文字数を心配してしまった僕に対する当て付けだろうか。
『うん。無事に恩恵を受けれたみたいだね。
『魔力の泉』は、所有者の魔力を増幅して、さらに回復速度まで上げ、その上ある程度魔力を蓄えることも出来る、激レアスキルだよ。持ってる人って1000年に一度、居るかどうかって程なんだから。
さらに私から恩恵を授かれる君は、超ハイパーウルトララッキーなんだよ』
幼稚園児かアンタは?
でも、確かに有効そうなスキルだな。これで強力な魔法でも手に入れたら、MP切れを気にせずバカスカ撃ちまくれるってわけだ。
『さてさて次の恩恵はその名も、『神の加護』。 その名の通り、私の加護だね。
効果は体力の増大、回復力の増大、回復速度の上昇、ダメージの軽減と、まさにチートスキルだよ!!
因みに、今までこの恩恵を手にした人はいないよ。正真正銘君だけ。どう、すごいでしょ?』
なんか、神様がいやにハイテンションなんだけど。
これ、『ぼくがかんがえたさいきょうのかご』って感じの効果なんだが、大丈夫か?ゲームバランス崩壊しそうだぞ?
ただまぁ、『たいりょく』が一気に100010まで跳ね上がったのは、正直嬉しい。
………くくく。はっはっはっはっはっ!!
100010。これもう、僕死なないんじゃない?
これは神様のテンションを笑えないなっ!だって僕も今、凄く楽しいから。
ゲームバランスの崩壊?チート満載ご都合主義?それがどうしたっ!?
これはゲームじゃないんだよっ!!
生きるためには、出来る限り手を尽くすっ!!それが当たり前だっ!!文句を言うヤツは、裏武闘○陣に魔道具なしでエントリーしてから文句言いなっ!!○海さんくらいの剛の者じゃなきゃ、無理だから。それ!!
「神様っ、次は次はっ!?」
『ふっふっふっ、そう慌てるものではないぞ。
次はお待ちかね、魔法を授けよう!!』
「おぉ!!うぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!マジで!?僕魔法使えるの!?」
『ああ。しかも『魔力の泉』も持っている君は、ある意味、今日から世界最強の魔法使いと呼んでも過言ではないよ』
「すっげぇぇぇぇぇ!!神様、ありがとう!!」
『いやいや、こちらからお願いしているんだ。これくらい当然だよ』
今にして思えば、このときの僕は、高まるテンションにやられて、少しアホになっていたんだと思う。
もし過去に戻れる力があれば、僕は一分置きにこの時間に戻って、この時の僕に氷水を浴びせかける。
ここから僕の、最弱魔王生活は始まったのだから。