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 真魔交易、開始っ!?

 衣服と食料。

 残念ながら、この交易では魔大陸が少々不利な立場を強いられる。

 言うまでもなく、北端に属す僕の領地では、食料事情はあまり良くない。

 まぁ魔大陸は、動植物は豊富であり、アムハムラほど逼迫してはいない。ここ『魔王の血涙』を除けば、元コションの領地である地域でも、食うに困らないだけの食料確保は比較的容易である。あくまでも、魔族の身体能力を前提とすれば、だが。

 しかしそれでも、大量に交易に回す程には自給率は高くないのである。


 しかし魔族としては、人間の作る衣服を得られる機会は、そう易々と見逃せる話ではない。


 だからこそ、加工技術の未発達の魔大陸の地から、見加工の貴金属のインゴットを輸出するわけだ。


 が、大量に流出させ、戻ってこなければ、今度は魔大陸で貴金属が高騰する。その為、予め真大陸から貴金属を買い漁ったわけだ。

 そして、注目すべきはこの輸出品目の中には、当然ミスリルも含まれるという事だ。


 ミスリルの供給元をノーム連邦だけに局限すると、ノーム連邦の力があまりにも強大になりすぎてしまうためだ。

 あの国は魔族との対立に消極的だが、合議制の国の常として、それは永続的な体制とは言い切れない。場合によっては、利益追求の為に魔大陸侵攻派閥へと動くことも、無きにしも在らずなわけだ。


 そこであの裏取引である。


 『ノーム連邦が友好的な内は、永続的なミスリルの取引を約束する』という条件。それはつまり、魔大陸侵攻派に属せば、真大陸最大のミスリルの供給源の地位は、降りざるを得なくなるという事。そしてその場合、今度は逆にソドムの街にミスリルの供給源が局限し、富がソドムに集中する。

 あるいはミスリルという金属を一時的に不買し、僕のダンジョンを落として略奪すればいいと考えるかも知れないが、それは考えが甘い。カラメルより甘苦い。ミスリルは防具や杖、マジックアイテムに有用な金属だ。それはつまり、戦争においても重要な貴金属と言える。

 そんな物を僕に押さえられ、それでなお僕に勝てると思うなら、そいつの頭の中ではさぞ世界が単純な事だろう。羨ましいくらいだ。

 そんな状況で、僕と敵対する理由は無いだろう。いや、あったとしてもそれを採るには、真大陸全土を巻き込む勇気がいる。


 味方の内は利益を享受させ、敵対すれば利益が消え、そっくりそのままその利益が(てき)の元へ。


 あの、ノーム連邦有利にしか見えなかった取引は、蓋を開けてみれば利害関係のバランスが、完全にこちらが優位に傾いていたというわけである。


 かくも美味しい取引はなかったのだ。チーズ的にも。


 しかしまぁ、利点だけでもない。ノーム連邦とソドムがミスリルを供給するわけで、自然と真大陸市場に流れるミスリルの絶対量が増え、真大陸全体の戦力は底上げされる。


 僕がダンジョンを造れなければ、かなり諸刃の剣な作戦だったのである。


 「でもまぁ、絶対量が増えるという事は、値下がりするって事でもあるわけで」


 「え?何ですって?」


 「いやいや、何でもないよ」


 セン君の言葉に首を振り、ミスリルが値下がりした時のドワーフ王の顔を想像するのをやめる。最終的には、チーズとの取引の利益はそこまで大きくならないだろう事も、今は他人の利益の皮算用だと頭の隅に寄せてしまう。


 そして僕は、歴史の1ページになるであろうこの場を、特等席で見物するのだった。







 ソドム側の代表は、セン君、商業組合のナモさん、そして僕。ゴモラ側はレライエ、フォルネゥス、僕の親衛隊であるペレ隊から2名。ナモさん以外は、僕の身内といっていい面々だった。


 「ではこちらからは、食品と貴金属の提供。そちらからは衣類。それでよろしいかな?」


 「はい、勿論」


 フォルネゥスが問い、セン君が頷く。どちらも年端もいかない子供同士であり、しかしその能力ではそこらの大人では話にならない2人。ナモさんを含め、この2人がお互いの代表である事に、不満を持つ者などこの場にはいない。


 「食料は、今すぐ回せる分には限りがあるな。貴金属は、今あるものを適当に鋳潰して提供できるが?」


 「食料も貴金属も、すぐにでも交易を開始したいものですね。真大陸では昨今、貴金属が高騰しています。この交易の恒久的な存続のためにも、利益が高い内にこの交易を有益であると内外に示すのは重要かと。

 とはいえ、こちらもそこまで在庫が余っているわけでもありません。まずは中古、それも人間用の服となりますが、宜しいでしょうか?」


 「心得た。

 中古の魔族用の衣服を真大陸に求めるのは、些か以上に無体な話だものな」


 「恐縮です」


 フォルネゥスは腹芸の得意な部類ではない。それは商人としては欠点だが、交易を取り仕切る人間としてはむしろ好感を持てるとも言える。

 ただ、


 「なんにしても良かった。これ程スムーズに話が進んでくれて、ようやく小生も胸を撫で下ろせたよ。何せ最近、こちらの上司はどこかで遊び呆けていてな。仕事が山積みだったのだ」


 フォルネゥスは、どうやらかなり怒っているらしい。それはもう、レライエですら苦言を言えないくらい。


 「は、はは………」


 「いや、済まないな。愚痴を聞かせるつもりではなかったのだ、セン殿。

 貴殿もお忙しい身の上。さぞ、真大陸の津々浦々まで足をお運びの事だろう。ただ、うちの上司のように足元を疎かにはせぬよう、老婆心ながらご注意差し上げよう」


 「肝に命じます………」


 あちこち行くために、かなりの仕事をフォルネゥスに丸投げしたからなぁ。そりゃあ怒られても仕方ないか。甘んじて受けよう。




 こうして、真大陸、魔大陸の交易は、フォルネゥスの独壇場で始まったのだった。





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