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 魔王の場合っ!?

  「その方がガミジンとか申す商人かえ?

 朕が第32代パロビリム大帝国、大帝ナジュ―――」




 「っせぇーんだよ、テメェ等自分の立場わかってんのか、ヴォケ!?」




 僕は―――あー………、パロプンテ大帝の言葉を遮って、耳をほじっていた小指を吹く。


 「貴様ッ!!大帝の御前であるぞ!?控えよ!!」


 「だぁーから、身の程を弁えやがれつってんだろーが?あ?なんなら僕もう帰るけど、いいの?」


 「あいや待たれぃ!!」


 大臣っぽいおっさんが、僕を引き留めるが、正直もう帰りたい。貴族や王族相手の商売って、嫌いなんだよなぁ。


 この―――あー………、パラサイト大帝国は、少し前に、王国空運の空港誘致で大失敗をやらかした国だ。

 バカみたいに高い関税をかけ、それによって王国空運を利用する商人が寄り付かなくなり、空港その物がほとんど用を成さなくなっている。

 お陰で経済の鈍化が凄まじく、不整脈を起こしていると言っても過言ではない。


 そんな折り、地域振興券のように教会から貨幣を渡され、舞い上がったこの国のアホ共は、なんとその金の大半を商人に騙し盗られてしまったのである。

 こういう、誰それが大損こいたって話は、商人間にあっという間に広まる。それはもう、誰かが大儲けしたなんて話より、圧倒的早さで広まるのだ。誰だって、勝ち馬に乗るより疫病神と同じ墓に入る事の方を心配するのだから、当たり前だ。


 わかるだろうか?

 今僕の目の前にいる連中は、十把一絡げにアホなのである。

 教会派閥にありながら、教会の意図を挫きかねない程の無能。教会の後ろ楯すら無くそうとしているアホ共。今さら北側に付くわけにもいかず、地政学上それすら夢物語。陸の孤島と化す事が運命付けられたこの国に、救いの手を差し伸べられるのは僕だけだ。


 何故こんな輩に、僕が敬意を払わなければいけない?


 今この場で、目の前の爺さんの地位がどんなものだろうと、脇に立ってるオッサンがどれだけ強かろうと、僕という存在無しにこの国の存続はあり得ないのだ。


 「あいわかった。そちらの条件を全て呑もう。だからガミジン殿、どうか怒りを治めてくれまいか?」


 終始大臣のようなオッサンが、僕をなだめ続ける。パラダイス大帝や騎士っぽいオッサンは、顔を真っ赤にして震えて黙っている。

 おー怖い。今にも殺されそうな目だ。


 「即金でいいぞ」


 「それはありがたい!だが、ガミジン殿の持ち合わせはそれで足りるのか?」


 「無論だ」


 「全て教会の発行した新貨幣でないと困るぞ?」


 「くどい」


 僕は鎖袋を逆さまに振り、中からジャラジャラと教会貨幣をばら蒔く。その光景に、集まっていた貴族連中やパルメザン大帝も息を飲む。彼らには、これが救いの光景に見えるのだろう。


 全く、溺れてる奴に藁を掴ませるのなんて、簡単すぎて張りがねぇや。







 「チョロすぎだな」


 「ました、ミュルあれ食べたい」


 僕らは無事に取り引きを終え、城下町に馬車を走らせていた。


 「あれは食べ物屋じゃないぞ。娼館だ」


 「あれは?」


 「あれもダメだ。ただのゴロツキだ。美味しくない」


 しかし酷い町だ。表通りを少し外れれば、昼日中から盛況な売春窟に、スラムのような汚い通り。道端にはそこいら中に、あきらかに堅気じゃない人間が散見され、中にはこれ見よがしに血の付いたナイフを見せびらかしてる奴までいる。

 大帝直轄のお膝元、城下町でこの有り様かよと、むしろ笑えてくる。


 だからこんな簡単に、国を崩されるのだ。


 出入りの商人を誑かし、あのアホ共が騙された情報を積極的に流せば、最早必然だったとはいえ、やはりチョロすぎる。


 何か元からの運の無さを感じるなぁ………。そういや、なんか今年はこの国で大きな災害があったみたいだし、隣国であるガナッシュ公国との外交断絶で色々あったらしいしなぁ………。


 「悪徳商人めッ!!死ねぇ!!」


 それにしても、ガナッシュが近いからかストリートチルドレンが少ないな。今あそこでは、僕の手駒が奴隷を集めてるからな。全部持っていかれたのだろう。


 「ば、化け物だ!!」


 「こ、殺せ!なんとしても今ここで殺すのだ!!」


 「我が国の国宝を持ち出されるわけには、いかぬのだ!!」


 はぁ………。

 本当にヤになるよな。国を挙げて、こんな強盗行為をしようってんだから。

 僕は襲いかかってきた騎士っぽい連中を見やる。しかしこれが騎士って、そこらのゴロツキと何が違うのかって話だ。


 その中に凛然と立つのは、毒々しいまでに鮮やかなピンクの髪の毛を腰まで降ろし、名残なのかサイドテールを垂らした美女、ミュルだ。


 つか、そんな姿になれるのならいつもそうしてればいいのに。


 「ました、守る、今日、ミュルだけ。だから、いっぱい、褒める。あたま、なでなで」


 あ、やっぱいいや。この姿でこの言動はちょっとなぁ………。どうせならエレファンくらい純粋そうなら良いんだけど、こいつ腹黒さが結構滲み出てんだよ。

 「ミュル、そいつ等は食ってよし」


 「ん、もう食べちゃった」


 こっちを振り向いたミュルの顔に、僕は苦笑する。そりゃ、化け物と言われても仕方ないだろ。

 白目の部分が黒く、黒目が赤い。おまけに、口元にはベッタリと血がついてる。

 そら怖いわ。夢に出てきたらチビるわ。


 「それと、ご飯を食べる前には?」


 「いただきまーす」


 「うわあぁぁぁぁ―――」


 ミュルに襲いかかられた騎士が、この世から影も残さずに消え、残りの騎士達が怯む。中には、さっき大帝の側にいたオッサンもいる。高い地位なのかと思ったが、こんな使いっ走りに使われてるようじゃたかが知れてんな。

 さて次は、どこの国にするか。どうせなら、ガナッシュ大公のために、周辺国の力でも削いどくか。攻め込まれてもアレだし。


 あ―――


 「ミュル、言い忘れてた」


 「ん?」


 ブクブクと泡を吹いて痙攣している騎士の顔面を掴んでいたミュルが、こちらに向き直った。その黒い目で。




 「お残しは、許しまへんで?」




 「ん、わかた」


 「た、たすけ―――」




 僕は使いっ走りのオッサンの断末魔を聞きながら、次はどこの国にしようか悩むのだった。





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