少年商人の場合・1
「では行きましょうかフルフルさん」
「うん。キアスのお願いだから、センはフルフルにどーんと任せるの!」
僕とフルフルさんは、連れだってとある国を訪れていた。
国の大半を砂漠が覆い、南部の国でありながら食料事情が悪く、マジックアイテム等で食料を得てきた技術国。アニルメルダ連合王国。
ダンジョンから出てくるアイテムに、財政を圧迫され続けている哀れな国である。
「とはいえ、一商人である僕には関係ありませんがねぇー、国とかそういうのは」
「ん?」
久方ぶりに乗った馬車は、ガタガタとけたたましい音でがなりたて、あるいは僕の独り言なんか掻き消してしまうかに思われたが、どうやらフルフルさんには聞こえてしまったらしい。
それにしても、飛行船や転移陣に慣れてしまうと、こうも馬車移動が不快になるとは………。
「いえ、なんでも。フルフルさんはこの国について、どの程度知っていますか?」
僕、セン・ザチャーミンは今、ウァラクという名の、小さな狼のような獣人の商人である。それに伴い、フルフルさんも護衛として真っ青な髪の少女へと姿を変えていた。顔の造形や目の色も少し変わっているが、大人の姿ではないので威圧感は全く無い。
「知らないの。空気が乾いててやな感じなの」
それは、とりもなおさずこの言動が原因らしい。確かに幼い話し方で、行動もやや子供っぽいのでしょうがないかと思う。
「それはそうでしょうね。この国は砂漠の国ですから」
「さばく?」
どうやらフルフルさんは砂漠を知らないらしい。まぁ、オンディーヌならば無理からぬ話である。
フルフルさんの素性に関しては、コンビを組むのだからとキアスさんに教えてもらった。正直、魔族ではないだけで少し安心してしまったのは事実で、そういうキアスさんの配慮には、脱帽してしまう。
しかし、これからソドムの街は魔大陸と交易をするのだから、このままではいけない。僕もまだまだ頑張らないと!
馬車は、まるで荒野のような街道を進む。申し訳程度のボロボロの幌には、所々穴が開いていて、隙間からしょっちゅう砂が入り込んできてかなり不快だ。馬車の運転も荒いし、街道もデコボコ。おまけに―――いや、よそう。愚痴を言い出したらきりがない。
しかし、技術国というには、かなりお粗末な国だよなぁ。と、幌の穴から、街道脇に生えているサボテイという針だらけの植物を見て、僕は思ったのだった。
「降りな!獣人のクソガキ!!」
はぁ………。南側だから覚悟していたとはいえ、まさか馬車の御者が強盗とは………。
今回は馬車も御者も現地調達でしたから、致し方ありませんねぇ。
素直に馬車を降り、僕は元御者、現盗賊の男に向かい合う。
「獣人臭え臭いが馬車に付いちまったじゃねぇか、どうしてくれんだ。あぁん!?」
「心外ですねぇ。僕は常に清潔を心がけていますよ。商談に支障が出ますから。
臭いというなら、一度ご自分の靴の臭いを嗅いでみたらいかがですか?正直、下手な運転以上に、この旅で一番の不快さでしたよ」
「舐めてんのか!?ぶっ殺すぞ!?」
「そんなワンパターンの台詞で、商人である僕が怯えるとでも?何百回と聞いてきまして、最早耳にタコが出来ています」
僕が言うと、男は腰から粗末な短剣を取り出して、僕へと向ける。あんな質の悪い剣で殺されたら、かなり落ち込みますね。
恐らく銀貨2枚といったところでしょうか。
「………決めた。ぶっ殺して、全部奪う。ガキだし、命だけは助けてやろうと思ったんだがな。恨むんなら、テメェに礼儀を教えなかった親を恨みな」
静かに、そして威圧するように喋る男。
しかし僕にはわかっていた。この男が、人を殺す度胸もなく、強盗すら恐らく初めてなド素人だということに。本物の盗賊なら、話もせずにとっとと斬りかかって来ているところだ。
「いえいえ、父は厳格な人でして、幼い時分にはよく躾られましたよ。それと『礼儀をうけて礼儀を払い、義理を受けては義理を返す』とも。
意味がわかりませんか?貴方のような礼儀知らずに、払う礼儀はないという事ですよ」
「こ、殺すぅ!!」
ようやく決心がついたのか、腰だめに短剣を構えて突っ込んでくる男に、僕は安心して最後の言葉をかける。
「せめて、もう1人乗っていたことくらい憶えておいてくださいよ、御者さん」
地面から生えた無数の槍。それが男を貫き、荒れた街道に物騒なサボテイがひとつ増えた。
まぁ、慣れない盗賊家業に手を出したのが運の尽き。そして命運も尽き、男は物言わぬサボテイとなりましたとさ。
よく見れば、こんな乾いた土地だというのに、男の足元には美しい清水の水溜まりができていた。その水溜まりから、にゅるりとフルフルさんが現れる。
「血とか砂とか、きたないの!」
フルフルさんはそう言うと、体の中から鎖袋を取り出して、頭の上で逆さまにしました。
サボテイがまた1つ増えました。
「あ、間違ったの。こっちだったの」
身体中に突き刺さる槍を無視し、新たに鎖袋を取り出したフルフルさんは今度こそ正しい鎖袋を選んだらしく、大量の水を浴び始めた。
男が串刺しにされてからこっち、僕はといえば目の前の光景に圧倒されっぱなしだった。そりゃあもう、二の句が次げないほどに。
急に水溜まりから飛び出した無数の槍。その水溜まりから出てくるフルフルさん。そしてさっきの意味不明な自爆。それを平然と無視して始まった、滝のような水浴び。
本当に、キアスさんといると飽きませんね。
僕はそう独白し苦笑すると、馬車を振り返る。
「さて、運転はやはり、僕がしないといけないのでしょうねぇ………」




