その後っ!?
「私は21匹捕獲いたしました、キアス様」
「私は15匹………。今回の勝負は、些かロロイに有利すぎたかと」
「ああああの!す、すいませんバルムさん!わわわ、わた、わたたしも20匹もつ、つつつ捕まえてしまいましたっ!
あ、あああああのっ!ででででも、21匹捕まえたロロイさんが悪いと言うわけではなくっ、あの、その………、全部わわわ私が悪いんですぅ!!」
ロロイ、バルム、アルルが頭を垂れる背後には、それぞれ多くの竜が横たわっていた。
バルムの背後の竜は、どれも傷だらけでボロボロだ。恐らく、壮絶で熾烈な戦闘を繰り広げたのだろう。いつもは手入れの行き届いているバルムの毛並みも、今日に限っては所々ボサボサだ。
それに比べれば、ロロイとアルルの背後にいる竜は綺麗なものである。ただ、アルルの背後からは、時折苦しそうな呻き声が聞こえてくるし、眼球以外一切微動だにしない竜を背後に並べているロロイには、どこか言い知れない恐怖を感じた。
「マスタ、10と10と10と7!」
「ました、いっぱい」
両手の指以上の数を知らないマルコと、横着するミュルの後ろでは、50を下らない竜が折り重なっていた。中には、明らかに顔色の良くない竜がいて、恐らくミュルに毒をもらったのだと思われる。今、ヤーデ達が慌てて解毒を行っている。
「フルフルは62なの!」
「私は59でした。殺さないよう捕らえるのが大変でした」
「妾は48匹です。どうにも、妾を見ると真っ先に逃走を図る弱卒が多くて、苦労させられました………」
そして圧巻なのが、フルフル、パイモン、レライエの背後である。
小さなものでも一体5、6mはある竜が100以上。
傷が多いのはパイモンだが、それでも魔法なしの直接戦闘だけでこの数はすごい。逆に、今回のルールに一番適していたのがフルフルで、背後の竜にも目立った傷は少ない。魔法を使えて、物理攻撃を無視し、流動する体で相手を捕らえるのも容易いとなれば、結果は見えていたようなものか。
レライエはまぁ、自業自得って奴だな。それでも3位を確保したのは流石だ。
「僕は13匹。まぁ、最初からわかってたけど、僕がビリだね」
いくらエリア魔法が使えても、所詮僕なのでこの程度だった。
残りの竜は、フミさんや無事だった龍達に任せた。もし取りこぼしがあっても、それは僕達には一切責任が及ぶものではないので悪しからず。
さて、なぜ今回こんな競争をさせたのか。それは僕の縄張りがいい加減デカくなりすぎた事に起因する。デカくなったと言っても、広くなったわけではない。人口の話だ。
組織として、配下に序列をつけなければいけないのだ。いや、つけなくても機能はするのだが、正直そういうポストがいつまでも空白だと、売り込みが激しくてやってらんないのだ。
『アムドゥスキアス様、私の比類なき実力で、いつ如何なる時もあなた様をお守りします!どうぞ私を近衛隊隊長に!』
『俺様の優秀さを鑑みるに、今いる配下の奴等をごぼう抜きして総司令官が相応しいはずだ!』
『俺の実力なら、他の魔王の配下にも負けねぇぜ!是非俺を連隊長に!』
『大隊長に!』
『小隊長に!』
こんな馬鹿が多くて困っていたのだ。だからこの機会に、適当に全部割り振ってしまおうかと考えたわけだ。
「序列第一位がフルフル、第二位がパイモン、第三位がレライエな。
で、フルフルが宰相な。パイモンは近衛隊総隊長。レライエが軍総統。
マルコとミュルは近衛隊2つの隊長を任せるけど、フルフルと同じでお飾りだからあんま気にすんなよ。
で、ロロイ、バルム、アルルは今まで通り各方面軍指揮官。序列第四位、第五位、第六位を授ける。レライエと合わせて『四天王』を名乗ってもらう。
このくらい大仰に役職つけとけば、誰も文句は言わんだろ」
七位から十位までの序列が残っているが、そのくらいのポストはむしろ空けておいた方が今後の戦争でやる気が出るだろう。無理に今埋めると、後々優秀な配下が増えた時に困る。何の理由もなく位階を下げると、問題になりそう………でもないか。魔族なんだから『こっちの方が強いから』で大体納得する。
マルコとミュルに階級がついていないが、これは別に仲間はずれとか、冷遇してるってわけじゃない。この2人はそもそも僕の使い魔であり、さらには自己顕示欲なんて物は欠片も持ち合わせていない。地位も名誉も求めず、ただ僕の側に侍る2人。であれば、どちらかと言えば秘匿しておきたいのだ。いわゆる『懐刀』って奴だ。
まぁ、トリシャも含め、そこそこ露出もあるので、知ってる奴は知っている程度の秘匿である。
「さぁ、一気に面倒事も片付いたし、いい加減飯を食うぞ!誰が何と言おうと食うぞ!」
今回の功労を労って、ロロイ達にも飯を食わせる。彼等は一目で魔族だとわかる外見だが、ドワーフ王だって、そのくらいの融通は利かせるべきだ。
っていうか、本当にお腹減った!!
「いや、チーズをゴロンと出されても………」
ドワーフ王の計らいで貸しきられた食堂で、ようやく食事にありつけたのに、結果はこの様。ラクレットの欠片をボンと目の前に置かれたって、こちらの感覚ではそれは食べ物ではない。ただの黄色い塊だ。
どうやらドワーフは、チーズを調理する料理屋はあっても、一般的にはそんな面倒な事をせずに、ほとんどがそのまま噛って食べるのが普通らしい。さらに、調理すると言っても、火で炙ってパンやイモに塗りたくるだけだとか。いや、それはそれで美味しそうなんだけども………。
仕方なく、僕は干し肉や芋、手持ちの野菜等を使ってピザを自作する羽目になったのだった………。
味は良かったのだけが救いだった………。
あ、ホクホクのイモとトロトロのチーズと塩の効いた干し肉が………。
ほぁ………。




