平等は、過去と努力と才能を否定するっ!?
「とぉ―――りゃっ!」
僕へと向かってきた、体長5mはあろうかという竜を、拳で殴り付ける。
他と比べると小さな竜だが、本来僕なんかでは太刀打ちどころか、まともに戦えないくらいの強さを誇っている。
だがそんな竜が、僕の拳を見事に額に受け、さらにはふっ飛び、もんどり打って倒れこむ。
本来ならあり得ない光景だった。
「ほらヤーデ、とっとと命令しろ」
「は、はいっ!
竜よ、即刻我等が聖域へと戻れ。さもなくば処刑もやむなしと判断する」
グルゥ………、と一鳴きして山頂へと帰っていく竜。一発殴って落ち着かせないと、ヤーデの命令すら聞きやしねぇ。それだけ、レライエが怖かったのだろうか?
僕はそんな事を思いながら、全く別の事をヤーデに聞いた。
「なぁ、真大陸の竜ってのは喋らないのか?それとも喋れないのか?」
「はい。竜は龍と違い短命なのですが、何故かここ数百年で生まれる竜の知能が低下しておりまして」
竜種の寿命は約200年くらいだったか。それで短命とは、いやはや龍とは恐ろしい。まぁ、寿命の無い僕が言うのもアレだけど。
「魔大陸の竜は普通に喋るんだけどな」
これは、竜種全体に起きている問題ではなく、真大陸の竜種に限ってという事か。龍はどうなんだろう?
僕はヤーデを見下ろす。
翡翠色の髪と瞳、僕と同じくらいの身長に、やたらゴテゴテとした装飾の施された神官服。
僕の顔を見返して、疑問符を浮かべながら首を傾げる様は可愛らしいが、今までの言動と今回の事件を鑑みるに、あながち龍種にも問題はないとは言い切れない。
………って、別にどうでもいいんだけどね、そんな事。だって僕には関係ないし。
「ほら、じゃあとっとと次行くぞ次!」
「はい」
僕は首飾り型のマジックアイテムを停止させると、ヤーデに指示を出す。
道案内をヤーデに任せ、僕はその後を歩いて付いていく。
「魔王陛下、先程からお使いになっているマジックアイテムなのですが、それを使われますと、何故か私まで体に力が入らなくなるのですが………」
「そりゃあそうだ。これはエリア魔法のマジックアイテムなんだからな。新作だから実験してんの」
僕は少々ゴテゴテとしてしまった、首飾りを手に取る。
エリア魔法のマジックアイテム。それは、サージュさんでも出来なかった事で、つまりこの世界で僕にしかできないこと。と、誇ろうにも、その実態はスマホで簡単に造ったのだから、別に威張れるようなことじゃない。
だが、その効果は絶大だ。何せこの僕が、竜をあっさり倒せてしまっているのだから。
あー、チート主人公ってこんな気分なのかな。こっちに来た当初は憧れたけど、正直何の達成感もなくてつまんねー。 いいのかねぇ、ただマジックアイテム使うだけでこんな一発逆転できて?
ズルじゃない?ねぇ、これってズルじゃないの?
この首飾りには全部で5種類のエリア魔法が付与されている。
『スゥインドラーズ』
『ライアーズ・ハイ』
『ゲーム・オア・デッド』
『マスターキラー』
『トーナメント・オーナメント』
それは、僕の、僕だけのための効果であり、仲間が近くにいるとそっちにまで被害が及ぶ。
だから今僕の近くには、ヤーデしかいない。
「エリア魔法ですか。ではエリアから出てしまえば、効果はないのですね?」
「ん?何?ヤーデ、僕と戦うつもり?」
「い、いえっ!滅相もありません!魔王陛下を敵に回せば、レライエ様やオール様まで出てきかねませんので………」
へー、どうやら真大陸にもオールの名は轟いているようだ。中身はただの変態なのにな。
「言ってる間に次だな」
「はい。大丈夫ですか?
今度はかなり多いようですが」
ヤーデの言うように、目の前には十数匹の竜が羽ばたいていた。体つきも、先ほどの者より大きく、10mにとどこうかという者もいる。
だが、そんなものはこのエリア魔法の前では物の数ではないのだ。
「『マスターキラー』」
瞬間、広がる空間に囚われた竜共が地上に降りてくる。いや―――落ちてくる。
ズゥゥゥン!という轟音をあげ、一番巨大だった10mクラスの竜が動けなくなる。当然だ。こいつが一番、ダメージがでかいんだから。
『マスターキラー』
攻撃力、防御力、素早さ、魔法能力、それら全てを100に固定してしまうだけの効果。だが、この場合僕は素早さが少し下がるくらいで、他の能力は急激に上昇する。逆に、相手が強ければ強いほど一気に弱体化し、能力が下がった状態では上手く動くことすら難しい。
種族も、才能も、努力も、この魔法の前では認められない。不公平なまでに公平を科し、不平等な平等を強いる。それがこのエリア魔法のルールなのである。
「『パゴノ・アリスィダ』」
しかもこの条件下であれば、僕でもそこそこの魔法が使えるようになる!
中級水魔法、氷の鎖が竜達に巻き付き、その体を凍らせていく。
何故かこれ以上のスペックを持たせることは出来なかったが、それでもこの場合、僕が多少なりとも魔法が使えるのはとても有利に働く。
そして、エリア魔法は相手に不利に、自分に有利に作るのが正しい使い方だ。
攻撃力、防御力、素早さ、魔法能力、これらが全て100に均されても、変わらないものがある。
「魔王陛下っ!?」
ヤーデの鋭い声に振り向けば、拘束された竜が悪あがきとばかりに火炎を吹く。僕をあっさりと呑み込むその炎も、しかしやはり威力が弱い。
炎が晴れても依然としてそこに立つ僕に、驚愕の瞳を向ける竜。ヤーデの方は、どこか安心したように息を吐いていた。
まぁ、僕に怪我なんてされたら、レライエに何されるかわかんないもんね。
だが、そんな心配は杞憂以外の何物でもない。
何故なら、例え攻撃力、防御力、素早さ、魔法能力が同じでも、
体力と魔力とスキルは元のままなのだから。
つまり、防御力が上がり、神の加護のスキルでダメージを軽減し、膨大な体力を持つ僕が、無属性魔法で結界を張れば、低下した能力では最早どうしようもないのである。
勿論、エリア魔法の弱点であるエリア外に逃走されるのと、外からエリア魔法の重ね掛けをされたらという弱点は残っているが、エリア内にいる内は、下がったステータスで逃走を図るのも、重ね掛けも出来ない。おまけに、前述の通り仲間が周囲にいると、そっちまで弱体化してしまうので使い所が難しい。
その他弱点も多いのだが、別にこれだけを頼りに戦闘を行うわけではない。
これで、もう一度偽勇者軍団が攻めてきても、僕にも対処が可能となったわけだ。




