表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/488

 とある王女様の初恋・2

 ―――恋とはここまで人を盲目にするのか。


 人生で2度目となる呆れは、今度は自分自身に向かっていた。




 足元の召喚陣とやらが消え、私は一歩歩み出た。


 魔王とオーガ、そして透き通った水色の髪の少女も、皆一様に驚いた表情で私を見ていた。


 それはそうだ。


 今、人間であり、一国の王女である私が、魔王の配下に加わったのだから。


 魔王に危害を加えることができないと明言され、魔王の命令に従わなくてはならない事を注意され、隷属に近い扱いを受けると知って、絶対にやってはならないと厳命されて尚、私はそれを了承した。


 魔王達からしてみれば、最早嫌がらせの類いにしか思えないだろう。


 私は、一応れっきとした王女である。


 そんな私が、魔王の傘下に加わることが、問題にならないわけがない。

 いや、直近の事を言うなら、遠征隊の者達にも何を言われることか。

 副長などは、今すぐ魔王を殺そうとするかもしれない。

 さらに、私が魔王の配下に加わることで、我が国と魔王との関係が悪化することだってあり得るのだ。運の悪いことに、ここには魔王の配下以外の目撃者がいない。最悪、私が洗脳されたと、勝手に邪推して動かれかねない。

 この話が広まれば、我が国にとっても不利益になる。




 ではなぜこんなことをしたのか。




 簡単だ。


 今の私は、まともではない。全く持ってまともではない。

 私には、恋をしたらその命すら捧げる、あの母の血が流れ、勇猛果敢と猪突猛進で知られた、あの父の血が流れているのだ。


 本当に、


 恋とは、ここまで人を盲目にするものだったのか。




 使者としても、王女としても落第点な今回の事に、女としての私だけが満点を付けている。


 なにより、全く後悔をしていない自分が、厳然とここにいるのだ。




 「な、何やってんですかぁーーーー!?」


 私の暴挙に、ようやく魔王が反応する。


 「ちょっ、これっ、あ、アンドレっ!解除、解除の手段はっ!?」


 慌てて駆け寄ってくるも、魔王はわたわたと慌てて私の周りを行ったり来たりするだけだ。まるで小動物のようで、実に愛らしい。


 『マスター、この術式の解除は不可能です。本来、マスターの身を守る為の機能ですので、解除法そのものが現存していません。なにより、神の作った術式ですので、地上の生物では解除法がわかったところで、実現は不可能でしょう』


 「どどどどどどーすんのっ!?っていうか、トリシャさん!何でやるなって言ったことやるのっ!?僕はリアクション芸人じゃないんだよ?そんな、人生を賭けたボケかまされたって、適切な処理なんて出来ないんだよ?」


 ああ………っ。


 慌てている魔王、可愛い。


 「陛下、今は私もあなたの配下です。どうかトリシャと、呼び捨てで呼んでください」


 「分かったっ!この人言葉が通じてない!」


 「陛下、どうかトリシャと」


 「助けて、アンドレ!」


 『もう諦めてください』


 「パイモン、お前なら!」


 「………」


 「うわーん!まだフリーズしてたよぉ!フルフル!どうか助けてください、精霊様!!」


 「キアス、もう喋ってもいいの?」


 「いい!いいから、この状況を何とかしてくれ!!」


 「初めまして、フルフルの名前はフルフルなの!」


 「うん!ちゃんと自己紹介できて偉いねってバカァ!受け入れちゃったよ!!一番スムーズに順応しちゃったよっ!!」


 うん。実に楽しそうだ。この魔王の配下ならば、私も楽しく過ごせそうだ。




 「えっと………、トリシャ、状況はわかってるよね?」


 しばらく騒ぎ続け、魔王はようやく落ち着いたようで、やや力なく私に問いかけてきた。


 「はい。我が国と陛下にとって、今回の事があまり好ましくない事だということは理解しています」


 「だったら何でこんなことするかなぁ………」


 「申し訳ありません」


 事態の悪さはわかっているし、それを引き起こしたのが私だということも、十二分に理解している。

 だから素直に頭を下げた。


 全く後悔はしていないけれど。


 「なんとかコションの首を手土産に、許してくれるといいなぁ………」


 確かに、第11魔王を倒した魔王と友好的な関係を築けるなら、庶子の王女の人身御供程度なら、むしろ行幸なのだろうが、問題はやはり国民がどう思うかである。


 「まあいいや。なっちゃったもんは仕方ないし、よろしくね、トリシャ」


 華奢な腕、剣も握ったことの無いような手が差し出され、私はその手と握手を交わした。


 「改めて、トリシャ・リリ・アムハムラです。どうぞ末長くよろしくお願い致します、陛下」


 「いや、仲間になったんだから、陛下はやめてくれ。キアスと呼んでほしい」


 「はい。キアス様」


 キアス様。略称で呼ぶだなんて、なんて素敵なのだろう。

 しばし、私とキアス様がそうして見詰め合っていたところに、横から割り込むようにオーガが口を出してきた。


 「私はパイモンです。キアス様に頂いた名なので、どうか間違えないでくださいね、人間の王女様」


 まるで自慢だ。


 お揃いの服だけでも羨ましいのに、名前を付けて貰っただとっ!?


 「まずは私の名をちゃんと呼んでから仰ってくださいね、先輩?」


 うん。このオーガは恐らく敵だ。恋敵だ。


 「トリシャ!フルフルもキアスに名前貰ったの!!」


 片手を上げた、純白のワンピースに身を包んだ、水色の髪の少女も、どうやらキアス様に名前をいただいたらしい。なんて羨ましいっ!


 『最後は私ですね。私はアンドレアルフスです。使えないマスターのサポートを主に行っています。

 このようなアホなマスターに仕えることになり、お互い大変ですが、気軽にアンドレと呼んでください』


 最後に、キアス様の服の中から、小さな板が取り出され、自己紹介をしてきた。

 あれは通信機かなにかだろうか?




 一通り自己紹介も終えて、今後の事について話し合おうとしていた時、唐突にそれは起きた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ