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 ぎうにうふぃばぁーっ!?

 「こちらから提示できるレートはこんなもんだ」


 「………本当にこんなに安いのか………?」


 ドワーフ王の懐疑的な視線に、僕は力強い肯定を示す。


 「勿論。今回の取引だけじゃない。お互いに友好的である内は、僕からはこのレートで構わない。そちらに異存がなければだが」


 有るわけがない、とタカを括って話してみた。いや、だって、利率を考えたらどう考えたって向こうに得しかない。


 「それはつまり、そちらが一方的に友好関係を壊せば、破綻する契約という事か?」


 「僕らがそれで何を得ると?貴国がそれで何を失う?」


 「乳製品の―――いや………」


 「乳製品の大暴落と、それに伴う失業者?

 確かに出るだろう。ただ、それなら最初から数を絞っておけばいい。当然のリスクコントロールだし、それは僕の仕事じゃない。


 僕の指先1つで国が傾くほど、この取引に依存するつもりはないんだろう?」


 「ああ………」


 「言ってしまえば、僕が契約を通してノーム連邦に干渉できるのはその程度しかないという事だ。

 逆にノーム連邦は、この契約で莫大な利益を得ても、失うリスクはほとんど持たないというわけだ」


 「しかし、話がうますぎるぜ………」


 「だから、最初から言っているだろ?『僕は君達の利益になる話をしに来た』と」


 「それは………、そうだが………」


 納得いかないような表情を浮かべ、書面に目を落とすドワーフ王。

 癖なのか手で口元を覆いながら、もっさりとした髭を撫でて考え込んでいる。


 「しかし………、………破格だな………」


 ほとんど呟くようにそう漏らすドワーフ王に、僕は笑みを浮かべたまま小首を傾げた。


 確かに破格だ。真大陸相場から考えれば、最早詐欺にあった方が安上がりな差額があるだろう。こんな、利益の吊り合わない条件を提示され、しかも利益を享受する側としては、勘ぐりたくなるのも頷ける。


 ………まぁ、裏が無いのかと聞かれれば、実を言えばちょっとしたカラクリがあるのだが。


 「さっき梅の木と交換したミスリルの短剣、頑張って有効活用してくれよ?」


 僕は含みを持たせてそう言うと、ドワーフ王は一層警戒を強めたようだった。安心しなって、僕の標的は君じゃないんだ。


 でもまぁ、言うほど美味しい取引にもならないんだけどね………。







 「さって、じゃあ用事も済んだし、フミさんちに行って梅干し貰ってこなきゃ!」


 「ああ、そういえばそんな話もあったな」


 「おいおい、つい昨日の話だよ。憶えといてよ」


 「ああ、すまん。どこかの魔王に引っ張り回され、挙げ句色々と付いていけない事態が多発してな」


 「んふふー、それは大変だったねぇ」


 「………この、魔王め!」


 ハイそうです、私が魔王です。


 「もう交渉は終わりでいいんだな?他には無いよな?

 いい加減、俺も心臓を休ませてやりたいんだが」


 ドワーフ王が疲れきったような顔で、僕の顔を窺ってくる。

 心配しなくても、もう何もないさ。他にこの町に用はないしね。


 あれ?なんか忘れているような………。




 ………なーんてフラグも立たないくらい、今日はもうここに用はない。強いて言えば、帰りがけの駄賃に牛乳や乳製品を食べてから帰りたいだけさ。


 「何食べようか。クリームシチューあるかな?あと、生クリームたっっっぷりのケーキもいいよね」


 「乳を使った菓子なら、専門はエルフだな。紅葉州にいい店がある。クリームシチューは、巨人族のものが私は好きだな。場所は巨木州だ。あそこは畜産に力を入れているから、新鮮な乳も手に入る。材料が欲しければ、ホビットの草花州は品揃えがいいぞ」


 「流石地元人!あー、どうしようかなぁ。迷うなぁ。いっそもう一泊していこうか?」


 いや、それだとかなり仕事が滞るな。僕とレライエが抜けたから、実務は完全にフォルネゥス任せになってる。負担が大きすぎるだろう。

 それでもあの子なら、呪詛の言葉を吐きつつも捌いてしまうのかもしれないけど、だからって僕やレライエがいなきゃ動かない仕事というのはあるんだ。


 となれば、シチューはともかく、お菓子は持ち帰りだな。


 よし。




 ………ん?あれ?なんか忘れているような………―――




 「ここに居られましたかキアス様」




 ―――あ。


 「少々融通の効かない小娘でしたが、翡翠龍山の長とは話をつけて参りました。キアス様の御行幸を賜り、先方も大いに喜んでおります」


 当然のように窓から入ってくるレライエ。普段見慣れていないローブ姿は、これはこれでミステリアスな魅力に溢れた姿だ。


 だが―――


 「レ、レライエ?」


 「はい、何でございましょう?」


 「ッ!!」


 ―――言えないっ!仕事はもう全部終わったなんて!帰りの土産の相談をしていたなんて!




 と、そこでレライエが手に持つソレに気がついた。




 「レライエ、それは?」


 「はい。キアス様に拝謁できる栄誉を賜りたいと、たっての願いで連れてきました」


 レライエは右手に持った、ボロボロな格好の何かを持ち上げてにこりと笑う。




 「翡翠龍山の長、翡翠龍ヤーデ・フェイツイ殿です」




 レライエがそう言うと、ボロボロな何かはブルブル震えながら音を出した。

 それはよく見ると―――


 「お、おはちゅにお目にかかりまひゅ………」


 12、3歳くらいの少女だった。




 取り敢えず、ドワーフ王の心臓は、もう少し休めないらしい。





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