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 ノーム連邦

 「はぁー………。とりあえずアオがアンタを連れてきた理由はわかった。

 確かに、これだけのモンは逆立ちしたって俺達には造れねぇ。素直に帽子を脱ぐぜ。でもよ、まさかこれの作り方を教えてくれるってわけじゃねぇんだろ?」


 ミスリルとオリハルコンを合金にする技術。過去オリハルコンを加工する技術があった時代にすら、そんな物があったなんて資料はねえ。つまり、今俺の手にするこの剣は、過去を超えた新しい一歩の証拠だ。


 生まれた瞬間から歴史的資料、文化遺産。これはそれくらいすごい存在だ。つまり、歴史を動かせるほどの代物。そんな知識をホイホイくれるわきゃあねえ。


 「ははは。流石にそりゃないさ」


 「だろうな」


 「だが、僕はそちらに利益をもたらしに来たんだ。そう警戒しなくてもいいじゃないか」


 「ハッ、抜かせ」


 俺が鼻で笑うと、魔王は気分を害すどころかその口端に笑みを浮かべた。深く、無邪気そうな、それでいて凄惨な笑みを。


 やはりな………。


 俺は確信する。こいつは真大陸に溢れ返る王族、皇族、貴族なんかとは、根本的に違う。

 気位の高さは、統治者としてある程度は必須の素養だ。軽んじられれば、それは自分が治める国、領地、民を侮辱されるに等しい。しかしこいつは、自らを軽んじられれば、むしろそれにつけこんで身ぐるみを剥ぐ類いの輩だ。しかも合法的に。

 そう、どちらかといえば商人に近いメンタリティを持っているのだ。


 これはやりづらい。


 古今東西、傾いた国の影には美女か商人、もしくはその両方がいるものだ。天敵と言ってもいい。


 「まぁまぁ、そんな怖い顔をしないでくれよドワーフ王。そちらに利益があるのは本当なんだ」


 「俺ぁ今は大統領だ」


 「おっと、そいつは失礼。旧ガガンドラド王国国王ダルタネス=アグリー=ザバルガン殿。しかし、それを言うならこの国は王権を返上せず、王家は未だに存続している。あなたは未だに国王さ」


 「どこまでウチの情報を掴んでやがんだ………」


 「正直、連邦ってより連合王国って雰囲気だよな。なんでそうしなかったの?」


 ノーム連邦は、亜人差別を逃れるために旧ガガンドラド王国を主体に周囲の亜人の集落を集めて出来た国だ。

 ドワーフは集団戦闘において他種族に劣る。しかし、竜人族やエルフ、巨人族は絶対数が少なく、まとまらなければいずれ滅ぼされかねない運命にあった。


 竜人族、エルフ、巨人族は先頭に立って戦ってもらい、ドワーフは彼等に上質な武具を配る。そうやって他国と対等以上に戦うすべを持つ為に建国されたのが、ここノーム連邦だ。


 魔王の言うように連合王国の体を取ろうとしたりもしたが、残念ながら国と呼べる程の人口があったのはエルフくらいで、他は街とも呼べない集落が点在していただけだった。そのまま連合王国になってしまえば、他の集落は属州扱いと捉えられかねない。内紛の憂いを排除するための連邦制。各州各々の自治を推進するため、王家は表だって動くわけにはいかなくなった。晴れてノーム連邦の建国である。


 ………という理由で引退を試みた俺は、しかし残念ながら選挙によって、再び祭り上げられたわけだ。


 全州が参加する選挙において、無効票扱いのガガンドラド王の名前が8割を超えれば、流石にそれを無視するわけにはいかなかったのだ。


 くそっ!何だって他の種族まで俺に面倒を押し付けやがんだ!!


 「そりゃそうだろ。あんたらからすりゃ、相手を利用し国防の防波堤にした極悪人だろうが、他の亜人連中からしたら迫害され、滅び行くかに見えた亜人を保護し、自分達のために王位まで捨てて大国を築いた建国の祖だ。

 民衆の心をガッチリ掴んじまったな」


 「いや、絶対面倒だったからだ。現に俺ぁ、面倒くささで死にそうだ。終いには魔王にまであっちまうし………」


 「酷い言われようだ。まるで死神扱いじゃないか?」


 「真大陸じゃ、魔王も死神も大差ねえさ。ってか、死神を知ってるってことは、竜人族の龍神信仰まで知ってやがんのか?」


 「いや、こっちは別口の神様」


 「へぇー、魔族にも宗教があんのかい。面倒くせぇな」


 黒岩州の宗教は精霊信仰だ。中でもノームを篤く信奉している。っても、ノームは大地の精霊。しょっちゅう国内に出没するので、ありがたみは真大陸全土に広まるオンディーヌには遠く及ばねえがな。


 「さて、じゃあ挨拶はこのくらいで、交渉を始めようか」


 「脅迫の間違いじゃねぇのか?」


 「まさか。

 さっきから言っているだろ?僕は君たちを害するつもりはない。

 フミさんから話を聞き、万が一真大陸が僕と敵対した場合、この国をその戦いで敵として参戦させるのは、僕の不利益となる。場合によっては、この国の参戦こそが魔大陸侵攻の契機になるやもしれない。


 つまり、そうならないようにこちらに取り込んでしまおう、というのが今回僕がこの国を訪ねた理由さ」


 「そいつは………、心配性なこって………」


 亜人、少なくともドワーフ、エルフ、竜人、巨人は、魔大陸との争いには不干渉だ。そもそも、人族と折り合いが良くないのは、今に始まった話ではない。魔大陸と真大陸の争いとは、魔族と人族の争いだ。今までがそうであったように、これからだってそのつもりだった。

 魔王の言う事は、『もしかしたら』以下の可能性に過ぎない。


 「おい、まさかそれは建前で、本命は別にあるんじゃねぇだろうな?」


 「うーん、まぁ心配もわからないでもないし、ここで僕がいかに言を尽くして説得しようと、あなたは僕を全面的に信頼したりはしないだろ?そしてそれは、一国を背負って立つ身としてはひどく正しい。

 だったら疑いはそのままに、まずは僕の提案から聞いてくれないかい?」


 まぁ、わからねえ話じゃねぇな。

 しかし、そうなるとこいつの提示する条件は、かなり厳しいものにならざるを得んな。仮にも魔王との取引だ、生半可な利益じゃ議会を納得させるのは難しい。それこそ、さっきの剣の製法を教えるくらいの物でなきゃ、俺はともかく他の議員は納得させられねぇ。


 さぁ、どうする?


 魔王は相変わらず、貼り付けたかのように笑っている。笑顔というのは、種族を問わず相手の警戒心を薄れさせるものだというのに、この圧迫されるような、むしろ圧搾されているような気分は何なのだろうか。


 魔王は両手を開き、まるで見えない商品を陳列したかのようなポーズをすると、口を開いた。




 「ミスリルとチーズ―――おっと、醍醐との直接取引をしましょう」





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