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 ノーム連邦とドワーフ王

 「やっほー」


 目の前で暢気に手を振る少年。ただの子供にしか見えないその人物は、本人と水の勇者アオ殿の言によれば、魔王らしい。


 魔王。

 絶大な力を持ち、有史以来真大陸に恐怖をもたらし続けた厄災。力と欲の権化であり、真大陸の民にとって勇者以外の対抗策を持たぬ存在。

 それが今、俺の目の前にいると言うのか?


 「わざわざ足労いただきかたじけない、アムドゥスキアス殿」


 「いえいえー、僕の方こそ突然来てしまい申し訳ない。こちらに貴国、及び真大陸に対して攻撃の意思はない。今のところは、と注釈を付けさせていただくが」


 おざなりな挨拶を交わしながら、俺は第13魔王についての資料を思い起こす。


 第13魔王アムドゥスキアス。

 第11魔王コションとは違い、好戦的な魔王ではない。しかし、挑発にはきっちりと報復を返すだけに、扱いは慎重にせざるを得ない。ここ200年真大陸を悩ませ続けた魔王コションを討った事、ガナッシュ公国を攻め落とした手腕から、その実力はコション等より遥かに高いと推察される。

 さらに、ガナッシュ進攻時に第10魔王と共闘していたという報告と、先日起こった魔王の街襲撃の翌日に、聖教国大聖堂に第2、第4魔王からの警告を受けた事例からも、アムドゥスキアスと敵対する場合は他に最低3名の魔王と敵対する可能性がある。

 アムドゥスキアスの住む『魔王の血涙』に建造された、ダンジョンへの進入は容易い。しかし、その最奥と目される空に浮かぶ城への侵入を果たした者はいない。踏破には時間と人員の大損害を覚悟しなければならない。


 また、このダンジョンでは食料、玩具、武具、マジックアイテムを入手する事ができる。この内、注目すべきは武具とマジックアイテムである。


 真大陸の技術では再現の不可能な小型のマジックアイテム。中には時空間魔法の『転移』や『収納』を付与されたマジックアイテムもあり、高い技術力と生産能力、及び魔法知識があると推察される。ただ、アムドゥスキアスが、それを真大陸に与えている意図は依然として不明である。


 そして刀剣である。

 ダンジョンで手に入る刀剣は魔王コレクションと呼ばれ、忸怩たる思いではあるが、我らノーム連邦のドワーフが造れる刀剣より質が良い。

 現在、魔王コレクションの収集と研究を重ねているが、職人達からの強い要望により、研究は政府ではなく民間の手で進められている。


 備考。また、この研究に従事する職人の中に、魔王に対して敬意を持ち始める者が数名確認された。今のところ危険はないが、要注意である。




 よし。


 緊張から飲み込みたくなる唾を我慢し、引き吊らないように笑みを浮かべる。


 「して、魔王であらせられるアムドゥスキアス殿が、一体何故我が国に?

 我が国は魔大陸侵攻には中立、というより不干渉の立場を堅守しておりますし、貴殿への敵対的な行動もとった覚えがありません。

 当方にはアムドゥスキアス殿がわざわざ赴かれるような理由に、とんと見当がつきません。もしよろしければ―――」


 「―――あー、そういう堅苦しい話し方、しなくていいよ」


 「は?」


 俺は、一瞬何を言われたのかを考え、それでもわからずに首を傾げた。


 相手は魔王。しかも、敵対するには強大すぎる力を持った、第13魔王アムドゥスキアスだ。その気になれば、この黒岩州ごと―――いや、ノーム連邦全てを火の海に変える事すら可能だと思われる存在。

 いくらへりくだろうと、国民のためには目の前の少年の機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。


 しかし、当の魔王はクスクスと笑いながら言うのだ。まるでただのいたずら小僧のように。


 「だって苦手でしょ?

 『ドワーフ王はなぁ、堅っ苦しい話とかが何より苦手でな、しょっちゅう王宮を抜け出して町に降りてくるんだぜ!

 一度会ったときに丁寧に接したら、嫌そうな顔で町でくらい息を吐かせろ、ってさ!』

 まぁ、同じような立場にいる者として、わからなくもないな」


 この口調ッ!

 まさか町のドワーフ達に聞き込みでもしたのか!?しかし、ここ黒岩州は滅多に他国の者は訪れないノーム連峰奥地。関所などはないので出入り自由ではあるが、そんな不審なことをすれば悪目立ちする。俺の耳に入らないわけがないはずなのだ。


 「だからさ、別にタメ口でいいよ。僕もその方が楽だ」


 「………そうか」


 そう返すのがやっとだった。

 いつからだ?一体いつから、この魔王は我が国に入り込んでいた?


 だいたい!なぜ水の勇者は魔王などを連れてきたのだ!?

 俺は少々きつい眼光を、意図して水の勇者アオへと送る。俺の視線に気づいたアオは、細身の剣を右手にもったまま胸を張った。


 「久しぶりだな、ドワーフ王。いや、今は大統領だったな」


 相変わらず偉そうだが、それなりに付き合いもあるのでこいつのこんな態度にも慣れたものだ。


 「ああ、アオも元気そうだな。で?勿論色々と説明してくれんだろうな。こっちはわけがわかんねーんだが?」


 「無論だ。

 しかし、まずはこれを見てくれ」


 そう言ってアオは、部下に持っていた剣を渡す。部下から受け取った剣を改めて見て、その美しさに感嘆の声をあげなかったのは、単に絶句していたからだろう。




 美しい。




 鞘に描かれた龍の紋様。あえて光の反射を抑えた鍔。それとは逆に、柄に巻かれた真っ赤な紐は鮮烈なまでにしっかりとした色合いだ。


 俺も伊達にドワーフの頭張ってるわけじゃない。未だ抜いていないにも関わらず、これは芸術性だけでも天下に轟く逸品だとわかった。


 ゆっくりと鞘から剣を抜く。


 「お、おい!こりゃぁまさか、オリハルコンか!?」


 赤金に煌めく刀身は、黒い鞘に収まっていた時とは全く別の顔をしていた。鞘に収まっているときは武骨で荒々しい印象だったのに、一度抜けば赤い柄と刀身は、まるで自分こそが戦の花形だと言わんばかりに猛々しく輝く。


 ただ、この刀身の色、ウチにあるオリハルコンよりかなり赤みが強い。まさか、オリハルコン剣のレプリカか?


 「それは、オリハルコンとミスリルの合金で造った刀だそうだ。

 私が魔王をここに連れてきたのは、色々と止事無き事情があったとはいえ、魔王と接触する事はノーム連邦にとって悪い事ばかりではないと思ったからだ。無論、何かあれば全力を持って魔王を止める。

 わかってくれるか?」




 ああっ、くそったれ!!

 一目見てわかっちまったよ!!





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