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 理解不能

 「一番!キアス、歌います!」


 「いよっ、待ってましたぁ!!」


 「何が一番だ、もう何回も歌ってるじゃねぇか!!だがテメェの歌はいい肴にならぁ。歌え歌え!!」


 「ガハハハハ!!」


 私は今、あっという間に馴染んでしまった魔王を目の前に、戦慄している。


 私がこの地に馴染むのに、一体何年かかったと思っているっ!?


 文化も風土も、まして世界が違うこの土地で、何の違和感もなく溶け込むのにかかった歳月と努力は、並々ならぬ物だったと自負している。

 それは、決して酒を奢っただけで解決するような代物ではなく、その土地土地によって違う人々が作る空気のようなものに馴染む事が必要なのだ。


 「あー………、魔王の護衛殿?あの魔王はいつもあのように、人間の町で情報収集をするのか?」


 それは神出鬼没と言われる筈だ。こうも見事に溶け込まれては、見つけるのは難しい。


 「私の名前はパイモンです。

 うーん、そうですねぇ………」


 酒場で騒ぐ魔王を、やや難しそうな表情で見やるパイモン殿は、やがて頷いてから言った。


 「私には難しいことはわかりませんが、




 いつもならお金を稼ぎながら情報を集めます。




 今回みたいにお金を使って集めるのは、むしろ稀だと思います」


 ………………。ああ、そういえば時間がないだとか、今回は多少の出費には目を瞑るだとかは、私に刀を売ってくれた時から頻繁に口にしていたな。

 いや、これ以上考えるのはよそう………。今の私には、ノーム連邦に対して責任がある。魔王の興味を引いてしまった責任が。無駄な思考で消耗している暇はない。


 私は話題を変えるため、少し前から気になっていたことを口にする。


 「ところで………」


 私は辺りを見回し、パイモン殿に尋ねた。


 「もう1人の護衛はどこに行ったのだ?」







 「なんだよキアス、もうけーんのか?」


 「うっせえな、宿とらなきゃ野宿なんだよ!」


 「ならウチに泊まらせてやんぞ!だからもっと付き合え!」


 「酔っぱらったおっさん宅に、美人を2人も連れていけるか!」


 「お、なんだよ隅に置けねえじゃねえか!こいつぁ野暮だった!」


 「なんだよキアス、もう帰んのか?まだ宵の口じゃねぇか?」


 「だーかーらー!」


 馴染みすぎだろ、にしたって!


 戻ってきた魔王に連れられて、私たちも酒場から出る。魔王を引き留めようとするドワーフ達に、やや苦労させられた。どれだけ心を掴んだのだ。


 「ふぅ、酒を飲まずにあしらうのに苦労したな。やはり性に合わん。商人相手の方が利益と確実さと労力の面で、遥かにいいな。出来ればもう二度と使いたくない手法だ」


 これは、軍事機密など一般に流れていない情報以外では、この魔王にとって真大陸は丸裸も同然だ………。今更ながら、勇者としてこれ程やりづらい魔王も他にいないだろうと実感する。着ぶくれするほど恩も着せられたし、いざ対立した時に、私はこの魔王と戦えるのだろうか………。


 「と言うかだな、どうやったらあの状況で酒も飲まずにやり過ごせるのだ?」


 「は?シラフじゃなきゃ集められる情報も集まらないだろ?

 っていうか、僕酒飲めないし」


 それでよく、ああも堂々と酒場に乗り込んでいけたものだ。きっとあの酒場にいたドワーフ達の誰もが、貴様が一滴も酒を飲まなかった事に気付いていないぞ?


 「それよりキアス様、レライエが見当たらないのですが………」


 パイモン殿が魔王に対して、少し申し訳なさそうに進言する。


 「ああ、レライエには別口で情報収集を任せている」


 「大丈夫なのでしょうか?レライエには独断専行の悪癖がありますよ?」


 「あー………、まぁ、ね」


 苦い、というよりはお転婆な娘を見る父親のような、ちょっと困った表情になる魔王。しかし、馴れ合いが過ぎて指揮系統が脆弱なのはいただけない。そういった軍隊は、いつの世でも問題を起こすのだ。この町で問題を起こされるのは私としても困るし、魔王にとっても快い事態ではないだろう。

 刃傷沙汰だけは勘弁してほしいが、あのレライエとか呼ばれていた魔族は、沸点が低そうであったからな………。


 「大丈夫なのでしょうか。レライエは真大陸に来るのは初めてですし、急場でしたので変装用の幻術の魔道具もありませんよ?」


 そういえばと、今更ながらに目の前のパイモン殿を見上げる。彼女は見事に人間に化けているが、もう1人のレライエはローブを着込んでフードを目深に被った出で立ちだった。角が隠せなかったのだろうが、だとすればパイモン殿の変装は見事の一言に尽きる。

 改めて、第13魔王は人間をも凌駕する技術を有する化け物なのだと実感する。


 「大丈夫なのか?

 彼女が魔族だとバレれば、この町は厳戒体制になるぞ?私とて、そんな状況で政府重鎮と話をつけるのは無理だ」


 「ああ、大丈夫大丈夫。別にドワーフ達から情報収集を行おうってんじゃないから」


 「「は?」」


 期せずしてパイモン殿と揃って声を出してしまった私に、魔王は事も無げに、あっさりと言ってのけたのだった。




 「レライエは翡翠龍山の龍の所へ向かわせたんだよ。情報収集と挨拶も兼ねて」





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