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 勘違いスパイラルっ!?

 「うん、じゃあもういいよ。ハイ、戦闘再開!」


 僕の掛け声と同時に、パイモン、フルフル、ミュル、マルコが水の勇者に対して構えた。


 「待て、だから私は貴様に剣を打ってもらう為に来ただけで、戦う意思はない」


 「えー………」


 正直面倒くさい………。ぶっちゃけ面倒くさい。何を隠そう面倒くさい。


 刀ったって種類があるのだ。『刀』という刀剣は、本来『直剣』に対する『曲刀』。つまり、反りを持つ刀剣は全てが『刀』。


 シュタールの持っている剣で例えるなら、メル・パッター・ベモーやマン・ゴーシュは『剣』で、コピス&コピシュは『刀』だ。


 「一口に刀って言われてもな。

 中華圏の朴刀、青竜刀、倭刀。北アフリカからインドにかけて広く分布する曲刀群、シャムシール、プルワー、タルワール、キリジ等を総称する『シミター』。直剣が主流だった西洋でも、カットラスやサーベルがあるし………」


 つってもこの世界の人間に対して、名前を出しただけじゃ剣の種類なんてわからないだろ。イチイチ相手と意見を擦り合わせながら作刀するくらいなら、僕は好き勝手に打って気に入った奴に売っ払うほうが性に合っている。


 「印度!!やはり!!やはりかっ!?」


 あ?


 今こいつ、インドに食い付いた?

 そういえば、どことなく顔立ちや雰囲気が、親近感を覚えるような………。


 唐突に彼女は、何やらゴソゴソと懐を探り、取り出した物を『これが目に入らぬか!?』とでも言いたげに掲げる。


 「ここに描かれた『魔』の文字、これを見た時にもしやと思ったのだ。

 私は西海道は薩摩、島津斉彬様直参、大久保家の禄を食む青木家三女、フミと申す者。

 父不在の折り賊に襲われ、剣の覚えがあった私が賊共を切り捨てたのだが、相応の傷を負ってしまい、死を覚悟したその時にこの地に呼ばれたのだ。おかげで今なおこうして健在でいる。

 貴殿はいかな出身か?」


 えーっと………。いきなり饒舌で話し始めたよ、この人………。

 今まではかなり寡黙な感じだったのに、心なしかさっきまでの高圧的な態度も鳴りを潜めている気がする。


 「いずれ名のある刀匠とお見受けした。あるいはその倅か?

 刀匠の掟は聞いたことがある。女は刀の穢れになるというのも分かるが、これでも私は武人の端くれ。私がこの地に来る前、薩摩は富国強兵の最中で、私も武家の子女として恥ずかしくないだけの修行は積んでいる。幼い時分には、女だてらに武士になる事を夢想した事もある。この地に来てからも、修行と実戦は欠かしていない。


 厳格なる刀匠の掟は重々承知の上だが、そこを曲げて是非にとお頼み申す。

 正直なところ、こちらの世界の剣は、私には扱いづらくて難儀していたのだ」


 「あー………、ちょっと待って。えーっと、まず話を整理しようか。




 もしかして君、日本人?」




 「いかにも!日ノ本の民である!」


 おおっ!日本人!

 そういえば日本人顔だ。

 聞く限りじゃ、転生者じゃなく異世界転移ってヤツか?まぁいい、僕もこの人に聞きたい事が出来た。この場での戦闘は無しだ。


 「やっぱりそうなんだ!薩摩ってつまり鹿児島だよね。なんでわざわざ古い言い回し?」


 「私の出身は鹿児島ではない、伊佐だ」


 ん?


 「伊佐って伊佐市ってこと?つまり鹿児島県でいいんだよな?」


 「鹿児島剣?済まない、我が身の不明を恥じるばかりだが、鹿児島に有名な刀工でもいたのだろうか?寡聞にして知らぬ。伊佐紙というものにも心当たりはない。申し訳ない」


 んん?


 「あれー?なんかまるで話が通じないぞ?」


 同じ日本人と、日本について話しているのに、全然話が通じない。こいつ本当に日本人か?

 日本語で話すか?


 「あー、僕の言葉、わかります?」


 「おおっ、おはんながっつぃ日ノ本のおのこじゃったか。こどんがそげんかたくうしかちゅうこつばづかい、すうもんほいならんよ。くせらしか」


 「すみません!!真大陸共通言語で話してもらえませんか!?」


 ダメだ、全然わからん。いや、ニュアンスは何となくわかるよ?たぶん日本語なんだろうけど、正直英語で話してくれたほうが分かりやすいくらいだ。


 僕は1つため息を吐くと、真大陸共通言語で話しかけた。


 「今のって鹿児島弁?」


 「いや、だから私は鹿児島ではなく伊佐の出だ。薩摩藩だ。わからんか?」


 「………藩?」


 あぁ………。そういうことか………。


 僕はガラスで出来た天空迷宮を指差すと、


 「あれは『びぃどろ』で出来ているんだよ」


 半ば確信に似た失望を抱きながら、僕は彼女に伝えた。


 「なんと!?あのような大きな物がびぃどろとは!割れんのか?」


 「薩摩びぃどろとも違う味わいがあるでしょ?」


 「薩摩びぃどろも美しかが、こんもまた品がよか」


 ああ、ハッキリした。

 日本の廃藩置県は19世紀末期。薩摩びぃどろは、一度明治維新の後に技術が断絶し、現代になってようやく『薩摩切子』として復活したガラス工芸。つまり彼女は―――




 「しかし、薩摩びぃどろを知っているとは、貴殿ももしや西海道の出か?いや、それにしては訛りが妙だ。もしや大名の子息か?薩摩びぃどろは贈答用によく使われるからな。

 ん?いや、貴殿は刀工ではなかったか?はて………」




 100年以上前の日本から来たということだ。





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