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 初めての授業参観。勇者編っ!?

 「ここが学校かいな?ゴテゴテしてへんシンプルな外観がええな」


 「ホント。貴族の子弟達が通うものとは大違いね。でも、これはこれでかなり立派なものよ?本当に無料で通えるの?」


 三階層に案内してきたサージュさん一行は、物珍しそうに周囲を見渡していた。

 白い校舎とグラウンド以外に、特に見るべき物などないのだが、それでもやはり『庶民が通うための学校』という存在に興味津々のようだ。


 「経営そのものは、商人や住民がこの街に納めた税で賄っていますので、住民であれば基本的に入学、受講は無料です。

 ただ、この街に住む人以外、つまり商店を出している商人や、家を持っている住人以外は、入学金が必要です。因みに、宿住まいは住人に数えられないので悪しからず」


 「無料やないやん!たっかい入学金を払うんなら、教育はウチが自前でやるっちゅうねん!」


 「ご心配なく。入学金そのものはそんなに高額ではありませんし、今回は皆さんにそれを支払ってもらうつもりはありません。

 教職員は教職員用の住まいが提供されています。これは、本来なら格安での提供となっていますが、今回は僕が負担しましょう。サージュさん程の魔法研究家に教師となっていただけるのですから、当然です。これで、入学金免除です」


 「えっ!?いいんですか!?」


 ラトルゥールさんは、心底驚いたような顔で聞いてきた。


 「ええ。

 その代わり、といってはなんですが、お貸しできる住居は1つだけです。

 残念ながら、この住居は独身者や一世帯くらいならば普通に住めますが、子供たち全員を住まわせるには狭すぎるでしょう」


 僕がそう言うと、サージュさんはくりくりとしたつぶらな目を細めて、値踏みするような視線を僕に投げ掛けてくる。


 「キアス君、ウチは子供を投げ出したりはせぇへんよ?もし、子供をダシにつこて、たっかいモン買わせよゆうなら、今回の話はチャラやで?」


 「そんな安い商人だと思われるのは心外ですね。


 子供たちの住まいもちゃんとありますし、そちらは最初から無料です。おまけに、教職員用のアパートメントとも隣接しています。というか、その施設の運営は、そこに住む教職員の中からボランティアを募って行っていますので、離ればなれで暮らす、なんて事にはなりませんよ。


 今行っても教職員も児童も学校ですので、後で見学しましょうか」


 僕の答えに満足したのか、サージュさんは元の愛らしい表情で頷いた。


 「そかそか。いやぁ、キアス君は商人やさかい、ちょっと疑ってしもたわ。堪忍な」


 「いえいえ。では行きましょうか」


 僕とサージュさん達は、こうして授業参観に出向いたのだった。







 「なんや………、えらいゴツいセンセもおるんやねぇ………」


 丁度野外で行われていた、体育の授業。そこで教師をしているのは、以前教師にスカウトした元冒険者、ゲイルだった。


 「何だよ、キアスの旦那じゃねぇか。また冷やかしに来たのか?

 ん?そっちの連中は?」


 ボサボサで伸びっぱなしだった髪は頭の後ろに結わえられ、無精髭が生えて不衛生に見えた顔も、今は顎髭を残してスッキリとしている。顔に走っている古傷も相まって、なんだかワイルド系イケメンに変貌してしまっているゲイルに、軽く嫉妬を覚える。


 「前みたいに、また子供に泣かれて弱ってるんじゃないかと思ってな。

 こっちの人達は、今度ゲイルの同僚になるかもしれない人たちだ。聞いて驚け、内1人はなんと勇者だ」


 「はぁぁあ!?勇者が教師になるってかい!?」


 おおっ!『聞いて驚け』何て言われて本当に驚くとは。


 「キアスのにーちゃん、俺、にーちゃんみてーなよわっちい奴ならもう負けねぇぞ!」


 「パム!ごめんなさい、キアス様。パム、キアス様は商人なんだから、戦えなくて当たり前なの!」


 「そーだぞ!それにゲイルせんせーが言ってただろ!『冒険者が戦うのは、誰かを守るため。戦えない人を守るためなんだ』って!」


 「うっせー!だからキアスのにーちゃんも、俺が守ってやるんだっての!」


 僕たちの登場で授業が中断してしまい、子供たちがわらわらと寄ってきた。


 「そしたらこの前みたいに変なヤツらが来ても、にーちゃんにケガさせずに―――」


 「パム!!」


 パムと呼ばれた男の子の口を、さっき謝ってくれた女の子が慌てて塞ぐ。

 うん、頼むよ。今ここには、正真正銘の勇者もいるんだから。


 「お前らー!授業に戻るぞ!」


 ゲイルが辺り一杯に響き渡るような大声を出すと、散っていた子供たちも「はーい」と揃って返事を返し、整列する。


 「旦那、見学すんのは構わねぇが、邪魔だけはしねぇでくれよ?」


 苦笑ぎみにそう言うと、ゲイルは子供たちに向き直って授業を再開した。


 今日はどうやら、戦斧の使い方を勉強するらしい。


 「いいかお前ら?

 俺は斧は専門外だったから、実体験を踏まえた説明はできねぇが、良く聞けよ?」


 「「「はーい」」」


 うん、素直ないい返事だ。


 「斧の使い方は、大きく分けて2つだけだ。


 直接振るうか、投げる。この2つだ。

 でも、どっちもかなり力がいる。今のお前らじゃ、本物の戦斧を使うのは無理だな」


 「せんせー、僕はドワーフですけど、それでも無理ですか?」


 「うーん………。俺はドワーフの子供がどれくれぇ力が強えのか、ってのはイマイチわからねぇからな。だったら、後で皆の前でやってみてもらうか。俺も気になるしな」


 「言わなきゃよかった………」


 ドワーフの少年が俯くと、周囲からクスクスと笑い声が漏れた。ゲイルはそれを、手を叩いて制止すると話を続けた。


 「おら、話にもどんぞ。

 戦斧の利点は、威力が高いことだ。投げ斧にしても、普通の投擲用の武器よりも威力が高い。


 手斧のような片手で扱う戦斧も、片手剣やナイフなんかより遥かに威力が高いので、硬い魔物なんかに有効な武器だ。………へぇ、そうだったんだ。

 あーっと、ただし。おら、注意点もあるぞ、ちゃんと聞けよ?

 ただし、剣のような多彩な取り回しには向かず、防御として使うには不向きである。また、切断面が狭く、叩きつけるように使うために刃が潰れやすい。刃物と打撃武器の、丁度中間に位置する物だと認識して間違いではない。

 また、刀剣にも叩き斬る用途で使われるものがあり、コラやククリと呼ばれる剣に代表される、先端が幅広になっている刀剣は、そういった戦斧の特徴も併せ持つものである。


 えーっと………、投げ斧には、刃が真っ直ぐついてる物より、斜めになっている物が適している。

 トマホークと呼ばれる斧は、投擲にはあまり向かない。フ、フランキスカ?と呼ばれる物の方が、投げ斧には適している、だそうだ」


 そう、トマホークは投げ斧として有名だが、刃が平らになっているため、本来投げ斧に適しているとは言いがたい。無論、それなりの手練れであれば使えるのだが、やはり投げ斧としての性能はフランキスカに遥かに劣る。何せ、その昔は成人以外は所持が禁じられていたほど、凶悪な武器だったのだ。

 にも関わらず、ミサイルの名前なんかにしちゃっている事実に、武器マニアとしては笑いが止まらない。

 いや、まぁ、クレイモアが地雷の名前になる世界だしな、あっちは。


 教科書をチラ見しながらも、ゲイルはしっかりと先生をやっていた。子供たちも、もうゲイルの強面に怯えている様子はない。


 「因みに、手斧のような小型の斧は、弓や槍などの間合いの広い武器を使う時のサブウェポンとして用いられるのが一般的だ。


 また、手斧は基本的に斧の形をしており、幅広な刃のついた鉞のようなものはほとんど見せかけの飾り物だ。

 皆、将来武器を選ぶときは、気を付けろよ?」


 「えぇぇぇえ!?」




 ゲイルの問いかけに答えたのは、何故か狼狽するゴンちゃんの声だった。





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