サージュさん達の身の振り方っ!?
ソドムの街の心臓部である、商品の搬入口の見学を終え、僕らは『ホテル・ラフレシア』へと戻る道を歩いていた。
観光もかねて、色んなお店を冷やかしながら。
「ほぉ、ホンマにマジックアイテムが売っとる」
「どれも生活用品みたいね。あら、この携帯用の暖房機は野宿に便利そうね」
「こっちの火を使わない鍋もいいですよ」
「有名な『転移の指輪』や『通信イヤリング』なんかはあまり見かけませんね。
あ、この『ライター』というマジックアイテムは便利そうです。火打ち石が要らなくなりますね。お値段もお手頃です」
マジックアイテムショップ。
ファンタジーではありがちなお店だが、このファンタジーの世界では今まで無かったものだ。
何故なら、マジックアイテムというのは、どれも高級で、おまけに大きな物がほとんどだったのだ。とても店頭に陳列できるような代物ではなかったのである。
しかし!僕のマジックアイテムは違う!
身に付けるもの、荷物の邪魔にならない大きさ、それでいてリーズナブル。
この商品のターゲットは、決して金持ち貴族ではない。もっと大きな市場、一般庶民なのだから。
「うーん………、目移りしてまうわ………。でもこれって、迷宮に潜ればウチらでも取ってこれるんよなぁ?」
目の前に並ぶマジックアイテムの数々に、かなり購買意欲を刺激されたらしいサージュさんが聞いてくる。
うん。正直、舐めんなと言いたい。
「これらのマジックアイテムは、一番最初の迷宮、信頼の迷宮を踏破しなければ、ほとんど手に入りません。運がよければ信頼の迷宮でも見つかりますが、やはり絶対量で次の困惑の迷宮に劣ります。
現在迷宮に入っているトップランカーは、ほとんどがこの困惑の迷宮で探索を行っています。何人かは更に次の迷宮、地下迷宮への入り口を見つけたようですが、その中で死にかけて、今は困惑の迷宮で精進しているようですね」
ホント、人間の冒険者は慎重だね。これが魔族だと、平然と再チャレンジしに行くのだから、無謀の謗りは免れまい。
まぁ、やっぱり種族の差として、地力の違いはあるんだけどね。
「だから、迷宮に潜ったからといって、誰でもすぐにお金が稼げるわけではありません。この街の冒険者も、ほとんどが副業をこなしつつ攻略を進めていますから」
『迷宮に入れば、楽に儲けられるー』なんて気概でこの街に訪れた冒険者の大半は、以前は浮浪者同然の生活を送り、今や歓楽街の従業員だ。
「「………………」」
ん?なんだかゴンちゃんとラトルゥールさんが、白い目でサージュさんを睨んでる。
どうしたんだろう?
「ア、アハハハ………、まぁ、誰でも楽に稼げる、なんて上手い話はないわなぁ………」
「ええ、金は努力ではなく、成果の対価です。誰にでもできる事への対価が、普遍的な金額以上の値で支払われる事などありません。
それは、労働ではなくギャンブルの概念です」
「し、辛辣やなぁ………」
「商人ですので」
ぶっちゃけ、信頼の迷宮にザクザクマジックアイテムが落ちていたら、冒険者じゃなくてもダンジョンに潜るだろう。あそこは、素人でも、命の危険はそんなにないのだ。
防衛用に使わない限りは。
「シュタール達でも、信頼の迷宮を踏破するのには、潜りっぱなしで数週間はかかったと思いますよ」
「数週間………」
あ、なんだかサージュさんが青い顔してる。
「どないしょう………。
子供達もおるし、ウチらは潜りっぱなしっちゅうわけにもいかん。そこから更に、次の迷宮に潜らんと、キアス君の言う普遍的でない対価は得られないっちゅーこっちゃ」
「師匠、あの高級宿に宿泊している内にそれらをやり遂げるのは、結構骨ですよ………」
ゴンちゃんが呆れ混じりに言うと、ラトルゥールさんが名案とばかりに手を打った。
「そうだ!いっそ、宿ではなくお家を買ってしまった方が、安上がりになるのではないでしょうか?」
「この街の家に住むには、白金貨10枚必要ですよ?」
「へ………?」
僕の忠告に、ラトルゥールさんは半笑いのような、半泣きのような表情で、間の抜けた声を出す。
ぶっちゃけ、地価としては破格以上にバカ高いのだが、税を取らない以上は地価で回収しないと学校が運営できない。
他にも、出来れば病院も運営したいので、もっと商人と冒険者には住み着いてもらいたいのだが………。
あの人数では、最低でも家は3軒は欲しいだろうな。この街の家は、どれも同じ大きさ同じ造りだし。
「どうする、師匠?」
「うーん………」
「皆さんは、お金に困っているのですか?」
4人揃って、何やら難しい顔をし始めたので、僕は首を傾げる思いで尋ねた。
「いや、別にスカンピンなわけやないんやけど、子供たちには不自由させたないし、勉強もさせたい。
ウチら、そう時間も取れんねん。
せやけどそうなると、半年後にはホンマにスカンピンや」
「いっそ、2人ずつ交代で潜りましょうか?時間的には、結構な節約になるわ」
「いや、それやと子供たちの世話がおざなりになりかねん。ちゅうか、いつ寝んねん?」
「では、冒険者のどなたかから困惑の迷宮とやらにマーキング済みの指輪を買い取れば………」
「それですゴンちゃん!既にマーキングされている指輪があれば、私たちもすぐに困惑の迷宮に入れます!」
「残念ながら、その方法はこの街の冒険者にはタブー視されている行為ですね。
『実力のわからない者を、無闇に迷宮の奥に送り込むのは、危険でしかない』と。例え実力が保証されていても、迷宮の罠に慣れるためにも、普通は信頼の迷宮から攻略する事が暗黙の了解です。まぁ、攻略の進んでいたパーティーが、アクシデントで指輪を無くしてしまった場合は、例外的にそのやり方も認められていますが、その分かなり値段は高くなるそうです。とはいえ、余分な指輪を持っているパーティーは少ないでしょうけどね。
まぁ、裏ではそういう取引もあるかもしれませんが、非合法的な取引ですので、どれだけの値段になるのかは本当に未知数です。
むしろ、余計な出費が増えるだけかと」
「「「「………………」」」」
全員が暗い顔で沈黙を始めたので、僕はここでようやく、救いの糸を垂らすことにした。
「ところで、子供たちの教育やお世話は、学校に任せてみてはどうでしょう?
ついでに皆さん、学校の教師という副業に興味はありませんか?」




