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 とある王女様の初恋・1

 私には、間違いなくあの母の血が流れている。

 今日私はそう確信した。




 漆黒の上等な衣服に身を包み、腰に曲剣を携えた黒髪の少年。


 柔和な表情も、折れてしまいそうな華奢な四肢も、幼い顔も、黒髪のくせっ毛も、




 全てが愛らしい。




 なんだこの生き物はっ!?

 なんだこれはっ!?

 あれかっ!?

 可愛いは最強なのかっ!?


 鍛え抜かれた私の精神を、ズタズタに切り裂くように私を魅了するこの少年。


 魔王アムドゥスキアス。


 これはダメだ!!ダメになる気がするっ!!




 「あ、あの、トリシャさん?」


 何も言わない私を不信に思ったのか、魔王が声をかけてくる。

 変声期を迎えていないようなアルトボイスに、精神を揺さぶられながら、私はなんとか言葉を返す。


 「失礼しました。私が、トリシャ・リリ・アムハムラです」


 私は、考えていることを表情に出さないことに長けている。


 この時ばかりは、この特技に心の底から感謝した。


 なにせ、これが私達の初めての出会いだ。


 赤面したり、相手の顔や体を眺めて悦に入るような、そんな無様は晒したくない。

 王女としてとかよりも、女として。


 「うん。それじゃあ、話を聞きましょうか」


 ああ………。


 可愛い………。




 なんとか私は、アムハムラと『魔王の血涙』の現状と、もし魔大陸侵攻が起きれば我が国が被る不利益を説明した。


 本当に、なんとか、説明した。


 私の話に、一々可愛く頷いたり、首を傾げるのはやめて欲しい。


 「大体はわかりました。

 僕は国を攻めたり、人間の敵になることは望んでいません。

 ここにダンジョンを築いたのも、真大陸と魔大陸を分断して、もう戦争が起きないようにと思っての事ですから」


 魔王の言葉に、私は湯だった頭に氷をぶちこむ思いで、冷静さを保つ。


 これは、そうしなければならない程、重要な事柄だからだ。


 「では陛下は、そのような理由で、あの城壁を築かれたのですか?

 しかしという事は、陛下は魔大陸側にも同じ様に城壁を築いたということですか?」


 「ええ。まぁ、それだけで争いが収まるとは思えないし、今度は両方から僕が狙われる羽目になっちゃっいましたけどね」


 愛らしく苦笑する魔王。それは、あまりにも過酷な自らの運命を語るには、不釣り合いな程可愛らしかった。




 人間と魔族の軋轢は深い。

 人間は、魔族の脅威に曝される事に耐えられないし、魔族にだって、恨み辛みくらいあるだろう。


 両者は争い、争いは新たな悲しみ、恐怖、憎悪を生み出し、また争う。


 仕方のないことだ。




 我々は戦争をしてきたのだから。




 しかし、その戦争の悪循環に囚われない、無垢なる魔王が話す。


 「実際、他の魔王にも苦言を呈されちゃいましたよ。荊の道だってね」


 カラカラと笑いながら、とても聞き流せない事を言う魔王。


 「ちょっとお待ちください。陛下はすでに他の魔王と接触があるのですか!?」


 やや詰問するような口調になってしまったのは、仕方のないことだ。


 だから魔王の側に控えているオーガ、そんなに魔王に近づくな。


 お揃いの服とか。羨ましい!


 「ええ。エレファンとタイルって魔王が遊びに来ました」


 「なんと………。第1魔王と第2魔王と接触が。


 その、戦闘などにはならなかったのですか?」


 第2魔王はともかく、第1魔王は世界最強の魔王だ。

 勿論、目にしたことはないが『悲劇の花』の逸話などは有名すぎるほど有名だ。


 「いいえ。ちょっと見に来ただけだったそうです。一緒にご飯を食べて、お風呂に入って帰って行きました。気の良い連中でしたよ?」


 それを聞いて、私はひとまず安堵する。


 だが、気の良い奴というのは、大地を拳で割り、大陸の一部を粉々の諸島に変えたりはしないと言っておきたい。


 しかし良かった。


 戦闘にならなかったのなら、この儚げなほど華奢な魔王も、無事だったのだろう。第1魔王と第2魔王なら思想的にも彼と近い。

 これが、第11魔王だったら、彼とは決定的にソリが合わない。最悪殺し合いに発展しただろう。


 しかし、そんな事を考えていた私に、この魔王は更なる爆弾を投下した。




 「ああ、そういえば、コションとかいう魔王も来てたっけ」




 もうどうしてくれようか、この魔王は。

 可愛いを通り越して、小憎らしい。


 「だ、大丈夫だったのですか?伝え聞く彼の第11魔王の性格では、おそらく陛下の理想とは合いませんよ?」


 さりげなく、第11魔王とは手を組めないぞ、と忠告しておく。


 さて、これは使者としての判断か、私個人の私情なのか。




 「ああ、うん、大丈夫。だって―――」




 次の魔王の言葉に、今度こそ私は驚愕の表情を浮かべてしまった。




 「―――コション、もう死んじゃったし」





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