ヒーロー。そして友情っ!?
「うふふ。………うふふふふふふふふふ………」
お姉さん、サージュさんの呼ぶところのイルちゃんは、膝の上に乗せたミュルにご満悦だ。
「可愛いわぁ………。本当に、本当に本当に可愛い。まるでお伽噺から抜け出てきた妖精のよう………」
いや、どちらかというと小悪魔よりだよ、そいつ。魔人だしね。
「イルちゃんは、可愛い子ォに目がないんよ。ウチと同じで」
「そうみたいですね………」
確かにミュルは可愛い。ドピンクなツインテールとか、小柄な外見とか、甘え上手なとことか、あざといまでに可愛らしい。
でも気を付けてねイルちゃんさん。そいつ、毒持ちだから。
「ほな―――おっと、また方言が」
「構いませんよ。聞き取れないわけじゃありませんし、無理をして話すのも面倒でしょ?」
「ええの?」
「ええ」
実際のところ、僕らの中で真大陸共通言語を完璧に理解できるのなんて、僕くらいだ。
魔大陸北部では、そこそこ伝わっている言語だし、パイモンもある程度は理解できているのだが、常用されていない言語を解するのは結構骨なのだ。だから、シュタール達との交流も少ない。
「ほな、改めまして久しぶり、キアス君」
「ええ、サージュさんも相変わらずお元気そうで」
「ナハハ〜、キアス君は何やら体調崩しとったみたいやね。いっぺんお店訪ねよ思たんやけど、えらい人だかりで諦めたんよ。で、途方に暮れとったウチらに声かけてくれたったセン君に、助けを借りたっちゅーわけ」
「成る程」
「あ、紹介すんで。イルちゃんはもうええな?そこの綺麗でドレスな美人さんや。で、こっちのかーいー女の子がラルたん。可愛い男の子がゴンちゃんや」
「えっと、ラトルゥールと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「キアスです。こちらこそ、よろしく」
「僕はゴンザレスです。よろしくお願いいたします」
ゴンザレス?
それ、ファミリーネーム?いや、でも『ゴンちゃん』とか呼ばれてたし………。
「………。ああ、よろしくゴンちゃん!僕の事はキアスでいいよ!」
「何ですか、今の一瞬の沈黙はっ!?そして僕の名前はゴンザレスですよぉ!!なんで、一度も僕の名前を呼ばずに、愛称で呼ぼうとしてるんですかっ!?」
いや、だって………、ねぇ?
ゴン・ゴンザレスって名前かもしれないし、何よりこの紅顔の美少年にゴンザレスと呼び掛けるのは、ほんの少し違和感を感じてしまう。
いや、別にスペイン系の姓を持つ美少年がいないなんて言わないけどさ、いくらなんでも、これだけ愛らしい少年に『よう、ゴンザレス』とは声をかけれないんだよ………。ならせめて、ファーストネームを教えてもらえないだろうか?
「ゴンちゃんはファーストネームがゴンザレスなんよ。ゆーか、ファミリーネームは持っとらん」
「えっ、でもゴンザレスって真大陸中部辺りの姓じゃないですか?ガナッシュ公国あたりの」
「そうやけど、ゴンちゃんの生まれは中部やないよ。山脈国家のドワーフや」
ドワーフの山脈国家、ノーム連邦か。ノーム連峰に点在する亜人族を纏めてそう呼ぶけど、僕はあまり実態を知らないんだよな。ノーム連邦には、ほとんど商業組合が進出してないんだ。それはつまり、商売を行う上で、あまり安全とは言いがたいんだよね。
でも、だったらノーム連邦では、中部の姓が名前に使われてるって事か?
でも、街に住むドワーフ達の名前は、そんな感じでもないぞ?
「ドワーフ達って、結構中部の姓が好きなんよ。『ゴンザレス』や『ロドリゲス』、『オルテガ』なんて名前は結構ポピュラーやで?」
「それを名前にしてるんですか?」
「たぶん、力強い名前が好きなんやろなぁ………」
「ああ、成る程………」
確かに中部の姓って、力強い響きが多い気がする。元奴隷のドワーフ達も、そういえばそんな名前だった。女性以外。
僕は一度天井を見て、それからゴンちゃんを見る。
「なんでそんな、哀れむような視線を向けるんですかっ!?」
「気にするな、ゴンちゃん。君はどうやら僕と同じ悩みを抱えてるようだな?」
「え?」
「大丈夫。体つきが男らしくなくったって、生き方に、心に、魂に男気さえあれば、気付いてくれる奴は気付いてくれる」
「っ!!キアスさん!」
「キアスでいいって言っただろ、ゴン」
「はい!」
ガシッ、と固い握手を交わし、僕とゴンはお互いのコンプレックスを糧に厚い友情を築いた。
「声が高いのがなんだー!!」
僕が叫ぶと、
「腕が細くて悪いかー!!」
ゴンも続く。
お互いにニヤリと笑うと、さらに叫ぶ。
「女装似合うとか言うな!!こっちは結構恥ずかしいんだ!!」
「半ズボンばっか穿かせるな!!この時期は本当に寒いんだ!!」
「やたらと可愛いって言うな!!カッコいいって言われたいんだ僕達は!!」
「そうだそうだ!!師匠もイルさんも分かってない!!」
「力が弱いからって、過保護に守ろうとするな!!僕だって女の子を背後に庇って戦うヒーローになりたいんだ!!」
「あ、僕、力は結構強いので………」
………………。
「………あ?」
「ピィッ!」
変な声で怯えるゴンちゃんに、僕は笑顔で笑いかける。
「そっか、ゴンちゃんも結局女の子を守れる側か。そっかそっか」
「キ、キアス?あの、ゴンって………」
「え?何ですか、ゴンちゃん?」
「よそよそしい上に、ゴンちゃんに戻ってますよぉ!!」
僕たちの友情は決裂した。ヒーローに用はない。僕は魔王だ。………ケッ!
「さぁて、ゴンちゃん?」
「さっきの発言について、少し聞かせてもらえないかしら?」
あ、なんだかサージュさんとイルちゃんさんが、笑顔でゴンちゃんに迫ってる。
どーしたんだろ?




