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 とある宰相の幸運・1

 私は、運のいい男だ。


 元々、辺境伯の家の出だったのだが、武門の習いとして王都の道場で修行をする事になっていた。そこに、同期として入門したのが、次期アムハムラ王と目されていたアルベールだ。


 アルベール・ポポ・アムハムラ。


 今では生ける伝説とまで呼ばれ、賢君として名を馳せるアイツは、




 ぶっちゃけるとただのバカだ。




 昔から、あいつは猪突猛進で頑固、そのわりにヤンチャでイタズラ好きだった。道場でも、よく2人で悪さをしたものだ。

 ああ無論、私は王子に無理強いされて、渋々付き合っていただけだ。悪いのは全部アルベールである。


 城での勉強を抜け出す手伝いをさせられたり、どころかその計画を私に丸投げしたり、オンディーヌのいる泉を探すのだと山へと向かい、本気で遭難しかけたり………。あぁ………あの時は、今は亡き親父に本気で殺されかけた………。『王子の身に何かあったらどうするのだ!?』と。


 30を待たずして、アルベールは王となった。


 前王が病の床に伏し、戦えなくなってしまえば、アムハムラ王国という国の特性状、仕方の無い事だった。

 私は、軍務大臣の地位を手に入れていた。言わばただのコネなのだが、アムハムラ王国の軍務大臣ともなれば、王国だけでなく真大陸にとっても重大な役職。信用の無い者には、いくら能力があろうとも任せられないポジションだった。


 しばらくして、前王が崩御し、そして第11魔王、コションが真大陸へと侵攻してきた。


 アルベールはしきりに前線で戦いたがったが、そんな事が許されるはずもなく、大抵が砦に詰めていた。勇者も投入され、周辺国の援軍ももうすぐ到着しようかという時、それまで一進一退の膠着状態だった戦線が破られた。


 最前線に現れた、醜悪な姿の魔王。


 コション・カンゼィール・グルニが、単騎で戦線を押し込んできたのである。

 幾人もの兵が襲いかかろうと、それをものともしないコションに、着実に押され始めた我が軍。


 そもそも、コションは数日前に光の勇者が倒したはずで、しかし『不死身の魔王』の異名の通りに復活し、襲い来る魔王に、軍の士気は低下しつつあった。


 そこで私は、幾人かの魔法使いを率いて飛び出し、コションを止めるべく前線へと赴いた。


 魔法を使えない兵に命じ、コションへと水をかけた。命がけで水をかける兵士達。実際、その作業で命を落とした兵も少なくなかった。

 頃合いを見て、水魔法で吹雪を作り出し、コションを氷漬けにする事に成功した。残念ながら、所々に氷柱を生やしたコションの死体は、魔族によって回収されてしまったが、このアムハムラでこの時季にあんな状態になれば、まず間違いなく命は助からない。仮に助かったとしても、しばらくは動けないだろう。


 私はコションを退却させる事に成功した。


 しかし、犠牲も大きかった。アルベールにも、コションと剣で戦いたかったと文句を言われたので、とりあえずぶん殴っておいた。


 次の日、平然と前線に現れたコションに、私は目眩を覚えた。


 猛威を振るうコションに、士気が払底しかけ、あわや敗走の危機かと思いかけたが、一条の光がコションの腹を貫き、地に伏させた。


 光の勇者、シュタール・ゲレティヒカイトだった。


 お陰でなんとか士気を保ち、前線を支える事ができた。前日と同じ作戦が通じるとも思えなく、例え犠牲を払ってそれを成したとしても、コションは死なないのだ。

 光の勇者には、感謝してもしきれなかった。


 さらに次の日、またも平然と現れたコションに、いよいよ兵達は怯えたが、周辺国の援軍も到着し、その日ようやくコションの軍勢は引き上げていった。


 多大な犠牲を払い、真大陸は魔王を退ける事に成功した。


 これで終わっていれば、と思わない日は、私の人生の後半では一度もなかった。


 ただでさえ、先の戦で疲弊した我が国に、教会の主導する『魔大陸侵攻軍』からの支援要請、及び派兵要請。


 当時の我が国に、そんな余裕はなかったにも関わらず、その要請は受諾せざるを得なかった。


 しかし、ぐだぐだと指揮官で揉めたり、功績の皮算用で対立したり、進軍する先々で問題行動を起こしたりと、烏合の衆と化した『魔大陸侵攻軍』は、4年で集まる予定が倍の8年もかかる体たらく。


 ただでさえ、漁師や農民を徴兵したせいで生産力が落ち込んだ我が国は、このあまりにも遅い集合に鬱憤を溜め込んでいた。


 そしてアムハムラの食料を、群れたイナゴのごとく食らい尽くした軍は、僅か1年で戦闘の継続を断念して撤退した。


 この時の、アムハムラ王国の国民の気持ちを言葉にするのは難しい。

 呆れ、失望、怒り、絶望、侮蔑、諦念。どれもが正解であり、全てがない交ぜとなった。


 アルベールは、それでも怒りを抑えて、撤退する『魔大陸侵攻軍』を支援した。一緒に国へ戻れという私の言葉にも、頑として首を縦に振らなかった。


 ようやく『魔大陸侵攻軍』を追い返し、アルベールが撤退する段になっても、アルベールは少数の兵だけを連れ、下がっていった。前線に残った私は、追撃するコションの兵をあしらいながら、多大な、あまりに多大な犠牲を経て、アムハムラ王国の最北端の砦へと戻ったのだった。


 が、


 そこで聞かされた『アムハムラ王行方不明』の報に、今度こそ深く絶望しかけた。


 兵士の遺体が見つかり、どうやら魔物に襲われたらしいこともわかったが、アムハムラ王の行方は、ようとして掴めなかった。

 もしかすれば、傷が元で………。

 なぜ私は、あの時アルベールにもっと兵をつけなかったのかっ!?あのバカが何を言おうと、例え殿に必要な兵が足りなくなろうと、あそこで強弁できなくて、何が軍務大臣だ!?


 一月も経たずに、平然とした顔で現れたアルベールに、私は本気の拳を喰らわせたのだった。


 それからは、ただひたすら内政を続けた。大飢饉が発生し、それでも出来るだけ飢え死にする人間が減るように。


 アムハムラ王、アルベールと、出世し宰相となった私は、10年の時を一瞬に感じられる程に奔走した。




 そして、ある少女に出会った。





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