作戦会議
「さて、ほなこれからの話でもしよか」
食事が一段落し、何人かの子供たちは眠ってしまいました。色々あったので疲れたのでしょう。
ようやく子供達のお守りから解放された僕ですが、ラルはしばらく使い物にならないので、ここからは僕がしっかりしないと。
「これからの話と言うと、教会への報復ですか?」
「いや、どないしてウェパルちゃんやミュルちゃん、マルちゃんに会いに行くかや」
「ゴン、ふざけているの?今はそれ以外に優先すべき事なんてないでしょう?」
「なんで僕が怒られてるんですかっ!?」
ああ、早く復活してくださいラル。僕では2人の相手は無理です。
「キアス君は元気やけど、何らかの事情で外へ出られへんくなっとる。何とかしてキアス君と連絡さえできれば、会うことも不可能では無いと思うんやけど………」
「さっきのセン君はどうかしら?キアス君に連絡がつくようなことをいっていたけど?」
「ふむぅ………。やけどそれは、恐らくこの街のマジックアイテムありきの連絡や。緊急時でもないのに、余所様にそないな高級なものは使わせられへんやろ?」
「それもそうね。光の勇者はどうかしら?この街についてから、確認はしていないけど、もしかしたら暇をしてるかもしれないし」
「アニーから借りたイヤリングならある。連絡そのものは不可能やない。
ただなぁ、アニーは真面目さんやさかい、こないな内容の頼み、聞いてくれるかどうか」
「融通がきかないわねぇ」
ああ………。本当に始めてしまいました………。
「そんな事より!僕たちのこれからについて話をしましょうよ!!」
「「そんな事………?」」
「ピィ………!!」
怖いですよぉ………。誰か助けて………。
「ふむ。ゴンちゃんの可愛い顔に免じて、話題変えよか」
「そうね。ゴン、今の涙目はナイスよ」
もうやだこの人たち………。
「まぁ、詳しい事はわからんけど、この街を襲ったんとウチらを襲った奴らは、同じ組織やろな。つまり教会や」
「え?この街を襲撃したのもあの偽勇者部隊なんですか?」
「なんでそんな事がわかるのかしら?」
師匠の断定に、僕とイルさんは疑問を投げ掛けます。言ってはなんですが、魔族は敵が多いですから、全くの別口という線も捨てきれないのでは?
「ここが普通の街やったら、ウチも断定はでけんかった。せやけど、この街は魔王の街やで?」
「だから魔王を敵視する教会が攻めてきたって事?」
「ちゃうちゃう。もっと単純や。
言うたやろ?この街には『非殺傷結界』が張られてるて」
「そうか!
そんな街に襲撃があって、なおかつ1人の犠牲者が出たとなれば、襲撃者は『非殺傷結界』を無効化したという事ですね?」
「『エリア魔法』は現代ではほぼ失伝しかけている魔法………。そんな使い手があっちにもこっちにもいると考える方が不自然、ね」
「そういうこっちゃ。目的は恐らく、以前ガナッシュがやったのと同じ、魔王の挑発。ただわからんのが、そないな事すればアドルヴェルド聖教国に魔王が攻めてくるっちゅーこっちゃ。なぜわざわざそないな事すんのか」
そうですね。
第13魔王は比較的大人しい魔王ですが、それでも挑発を受けて軍勢をガナッシュに差し向けている。
その武力は到底侮れるものではなく、電撃作戦で援軍が間に合わなかったとはいえ、僅か20分でガナッシュ大公の城を落とした。
こんな驚異的な速さを誇る軍勢に、アドルヴェルドは対抗策なんて打てたのかな?
「いえ師匠、それは前提条件が間違ってるわ」
「「前提条件?」」
あ、師匠とハモってしまいました。
「私たちは既に敵と接触し、言葉を交わし、相手が教会の者だと判断した。ここで私たちに、自分は教会関係者だという虚偽の情報を与える意味は少ない。何せ、私たちを殺そうとしたんだもの。次善の策として教会との離間を謀ったのだとしても、私たちは既に教会とは距離を置いていたし、意味は少ない。
でも、この街を襲った者達が自分の素性に繋がる話をしなかったら?あるいは、魔王に伝わらなかったら?」
僕はほんの少し考えて、おぞましい答えにたどり着く。
「魔王の怒りは、人間全体に向く………?」
恐る恐る口にするが、神妙な表情の2人は何も答えない。答えない代わりに、師匠は別の事を口にする。
「あの偽勇者は、勇者としては二流やったけど、人間としてみたらかなりの戦力や。
この街がどないして攻められて、何人の敵がいて、何人で防衛に成功したったかは知らんが、死者1人っちゅうんは快挙と言ってええ戦果や。この街を守ったんが正規の騎士でも、攻めてきた人数の倍は死んどってもおかしくない実力やった。
もしそんな数の死者がでとったら、街の雰囲気は一変しとったやろな」
そう………ですね。
亡くなったのが冒険者1名のみだからこそ、街はその者を称えて盛り上がっていられますが、これが住民も含めて被害が多数出ていれば、街の雰囲気はお祭りではなく葬式と見間違えたことでしょう。
こんな暴挙を許していては、魔王の沽券に関わりますし、挑発の方法もエスカレートしていきかねません。
魔王は真大陸に攻め入って来たことでしょう。
「今教会は、アムハムラ王国を筆頭に、北側各国と対立の姿勢を強めているわ。そこに『魔王の血涙』からアムハムラ王国に魔王が攻めてくれば、アムハムラ王国軍の疲弊は必至よ。
運が良ければ、アムハムラ王国の航空戦力と魔王の航空戦力が潰し合いをしてくれるわ。教会としては、願ったり叶ったりでしょうね」
「そんな馬鹿なっ!」
僕は、思わず立ち上がり叫びました。
「魔王を利用して、北側の国の国力を削ぐつもりなんですかっ!?れっきとした真大陸の一国家を、魔王に襲わせるつもりなんですかっ!?」
何を考えているんだ、教会はっ!?それが、それがどれだけの人間を裏切る行為か、本当にわかっているのかっ!?
「落ち着き、ゴンちゃん。皆ビックリしとるで?」
「あ………。………すみません………」
子供達が驚いた顔で、僕の方を見てきます。寝ていた子も、何人か起こしてしまったみたいで、ばつが悪くてそっちを見れません。
「あくまで推測やけどな。もしこれが本当やったら、教会が何をしたいかは想像に難くないで」
僕は師匠の次の言葉を、半ば予想していた。それは古今東西の愚王の野望。
「真大陸一の覇権やろな」




