表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/488

 魔王の………街?

 お師匠様の転移魔法で皆を『魔王の街』に連れてきたのです。


 広場と呼ばれる場所に転移した私たちは、その場に溢れる活気に気圧されてしまいました。


 お祭りでしょうか?


 「シュタール達は宿住まいの上、ダンジョンに潜ってるかもしれんし、まずは知り合いの商人のとこ行こか?」


 「そんな事より師匠!!可愛い子はどこなの!?」


 あはは………。

 イル姉は相変わらずです。


 「安心し、イルちゃん。その商人、キアス君とこにいるんが、ウチの言ってたカワイ子ちゃんやねん」


 「ならば早く行きましょう!!」


 「しかも、キアス君自身もかわええで。ちょっと生意気そうで、お兄さんぶっとる姿がキュンキュンくるんや」


 「じゅるり………」


 残念ながら、お2人のこういう所は中々ついていけません。ゴンちゃんは、諦めているのか、我関せずで子供達の引率をしています。


 それにしても、ここが魔王の街ですか。


 こう言ってはなんですが、全然イメージと違います。


 明るい街です。

 室内にあるのに白い壁がぼんやりと光っていて、全然暗い雰囲気はありません。建物自体は光っていませんが、白い外観は清潔感のある印象をうけます。


 街は一本道の大通りのような造りですが、決して狭くはありません。建物が片側に寄せられているお陰か、馬車だって3台は余裕ですれ違える広さがあります。そういえば、馬車が全く見当たりませんね。この街は確か、『商人と冒険者の街ソドム』と呼ばれていたはずですが、商人はどうやって仕入れをしているのでしょうか?


 それにしても、活気があるのは良い事なのでしょうが、些か過剰ではないでしょうか?それに、あちこちの屋台から、えもいわれぬ美味しそうな香りが漂ってきています。


 まずいです。お腹が鳴りそうです。







 「なんやこれ?」


 「師匠、目的地はここなの?」


 私たちの目的地である『パイモン商会』の前には、黒山の人だかりができていました。


 随分盛況な商会なんですねぇ。と思っていたら「キアス様はご無事なのでしょうか!?」「キアス様は寝込んでおられるのですか!?」「キアスお兄ちゃん、怪我したの?」と、先程聞いた名前が連呼されているのが耳に入りました。


 どうやら商売繁盛、というわけではないようです。


 「お師匠様、キアスさんという方はどのようなご仁なのですか?」


 「いや、普通の商人やったはずなんやけど………」


 「普通の商人が集められる信奉じゃないわよ、これ………」


 「まぁ、教会に捕まったシュタールを助けに行くような子やし、人望はあるんやないの?」


 「それは『普通の商人』の領分を越えてますよ………」


 ゴンちゃんが、ちょっと引いちゃってます。


 「随分と徳の高い方なのですねぇ」


 この集まっている人々が全員、そのキアスさんを心配して集まっているなんて。


 「でも、話を聞いてる限り、キアス君は体調を崩しちゃってるみたいよ、師匠?」


 「せやなぁ。色々便宜図ってもらお思とったんやけど、今押し掛けるんはどう考えても迷惑やなぁ」


 そうですねぇ。しかし、伝手のない街で、無闇に歩き回るのは得策ではありません。

 こういう場合は、冒険者組合に行くべきなのでしょうが、さっきいた広場に『冒険者組合予定施設』なるものがあったので、まだ進出してきていないのでしょう。


 どうしましょうか?




 「何かお困りですか?」



 そこには狐の獣人さんがいました。どうでも良い事ですが、とてもツヤツヤの毛並みです。モフモフしたいです。


 「冒険者の方………、というわけではなさそうですね」


 私たちの連れていた子供を見て、獣人さんは首を傾げています。確かに、少しおかしな集団かもしれませんね、私たちは。


 「これはこれで………」


 「アリやな………」


 獣人さん逃げて!ここに肉食獣が2人いる!


 「もしかしてキアスさんにご用でしたか?」


 「君は、キアス君のお知り合いなのかい?」


 お師匠様がよそ行きの言葉遣いで話しかけます。私としましては、戦々恐々の光景です。


 「はい。この街で商人をしている、セン・ザチャーミンと申します。キアスさんとは、この街に来る前からの付き合いで。

 まぁ、キアスさんはこの街じゃ色んな意味で有名人ですから、知り合いでない者、という方が珍しいかもしれないですが」


 獣人さんは、『パイモン商会』の方を見てから、苦笑します。多分苦笑だと思います。お顔が狐なので、わかりづらいですが。


 「キアス君、体調崩してるの?」


 「ああ、あれは………。まぁ、ちょっとした事情がありまして。キアスさんの体については、大丈夫だと聞いていますよ。今出てきたら揉みくちゃにされそうで、出るに出れないんだとか………」


 「ふぅん。よーわからんなぁ」


 そうですね。まぁ、揉みくちゃにされそうというのは良くわかりますが、ならばなぜこんなに人が集まっているのでしょう?


 「まぁ、ええか。

 セン君、でいいのかな?」


 「はい、キアスさんにもそう呼ばれています」


 「そっか。じゃあ、セン君、ウチらこの街にしばらく滞在したいんだけど、どこかいい宿は無いかな?」


 センさんは私たちを一度見回してから、鼻先のお髭を撫でながら何やら考えています。


 「そうですね、この街の名物宿は『かぷせるほてる』ですが、あそこは子供連れには向きませんし、安さで選べばいくつか候補はありますが、お子様と別々の部屋をとるとなると、結構割高ですしねぇ」


 「あ、お金の心配はしなくても平気だよ?出来れば皆で泊まりたいんだけど」


 「そうですか。では高級宿ですが、一部屋で皆さんが入れる宿にご案内しましょう」


 「おおきに」


 「いえいえ。キアスさんのお知り合いともなれば、僕もおざなりな対応は出来ませんから」


 ふぅ、なんとか宿の手配は出来るようです。助かりました。

 これもセンさんと、キアスさんの人徳のお陰でしょうか?


 センさんに先導されて街を歩いていると、再びあのいい匂いがしてきました。うぅ………お腹減りましたぁ。

 そういえば、この機会に少し気になっていた事を聞いてみましょう。


 「あの、センさん?」


 「はい?」


 「あ、私はラトルゥールと申します」


 「あ、はい、セン・ザチャーミンです」


 「よろしくお願いします」


 「いえ、こちらこそ」


 いい人そうだなぁ。見た感じ子供みたいだけど、しっかりしていますし、私なんかよりよっぽど大人っぽいです。


 「それで、何かご用でしたか?」


 「え、あ、す、すみません。ちょっと気になったのですが、この街はお祭りの最中なのですか?」


 街中に溢れる屋台から香ってくる、お腹の虫を刺激する匂い。そしてその屋台に集う人々。


 「ああ、これはお祭りとはちょっと違うんですよ。この街は昨日、人間の襲撃を受けまして、その時1人の冒険者が命を落としてしまったんです」


 「それは………、あの、えっと………」


 上手く言葉が紡げません。御愁傷様はおかしいですし、何と言えばいいのでしょう?


 「じゃあこれは、その冒険者を称えるお祭りですか?」


 しどろもどろになった私を、ゴンちゃんがフォローしてくれました。ナイス、ゴンちゃん!

 しかし、襲撃ですか。私たちも襲撃で焼け出されてきたので、なんだか親近感を覚えます。


 「いえ、その冒険者のお墓は後日大々的に造ると、魔王自ら街に放送されましたから、葬儀はまだです。

 これは………」


 センさんの言葉に、私達は揃って首を傾げます。

 どういうことでしょうか?


 「魔王はこの街に敵対勢力の侵入を許したお詫びにと、世にも珍しいご馳走を用意してくれたんですよ」


 センさんは屋台を指差し、少しいたずらっぽく笑って見せました。




 「あれらの屋台で振る舞われているのは、何を隠そう、魔大陸の食べ物なんです。


 お客さん、いいタイミングで来ましたね」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ