表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
341/488

 大戦力の参入

 「これからどうしましょうか?」


 私は、最後の襲撃者にとどめを刺した師匠に問いかけた。

 師匠が、彼が少しでも苦しまないように、1人の人間に対して使うには過剰とも思える威力の魔法を使った事には言及しない。


 リアリストを気取っていても、彼女は根本のところで非情にはなれない事など、私たちにとっては自明の理だ。


 いくら師匠と言えど、今回の戦闘で消費した魔力は馬鹿にできない量だ。にも関わらず、とどめを魔法で刺した。彼を殺すだけなら、頭にメイスを叩き込むだけで事は済んだ筈だ。偽善だろう。殺された彼は、そんな事に感謝などしないというのに。


 諭すように語って聞かせた言葉も、無意味である以前に彼をより長い時間苦しめ、逆襲を企てた事でさらに痛め付ける結果となった。それは師匠のせいではなく、相手が愚かであっただけなのに、それでも自らを偽善者と悔いる師匠。

 私は話題を逸らす事で、その後悔を過去の物とする。


 「せやなぁ………」


 師匠は振り返り、私たちの家があった残骸を見渡す。

 豪邸と言うべきかはともかく、広大な敷地に建っていた御殿は、その姿をただの木屑と石くれに変えている。再建には時間がかかることだろう。


 「どこかの国に身を寄せますか?」


 ラルがそう問いかけるが、師匠はそれに首を振る。


 「情勢がわからん以上、今どこかの国に所属するんは得策やない。最悪、ウチ等は兵器として利用される」


 私も師匠に同意見ね。

 ただ―――


 「でも、僕たちは野宿もできますし、いざとなれば何年もサバイバルくらいできますが、子供たちには………」


 そう、私たちだけならなんとかなるけど、家にいる子供たちにそれを強いるのは酷よね。

 師匠は別に、自分の仲間を育てるために子供を拾ってきてるわけじゃない。戦闘技能や、魔法を教えているのは、将来一人立ちした時に自分で自分の身を守れるようにだ。それ相応の実力しかない子供たちを、いきなり野生の猛獣や、魔物のいる山中に連れていくのは不安でしかない。


 かといって、どこかの国に頼りたくもない。


 「一応、候補は無いでもないんよ。ただなぁ、皆がどう思うか」


 「あら、こんな難問にもう答えが出ているの?」


 私は意外という感情も隠さず、師匠に問いかけた。

 私の問いに、そして同じように疑問を表情に浮かべた2人に、師匠は少し気まずげに答えた。


 「えっと………、魔王の街なんやけど………。どう思う?」


 ………………。


 魔王の街!?

 最近色々な場所で聞く、あの魔王の街!?


 確かに今まで実害のあるような悪い噂は聞かないけど(誹謗中傷や、単なる偏見にまみれた悪い噂なら、いくらでも聞いたことがある。)、でもいくらなんでも魔王の街なんて。


 「師匠、師匠は紛れもなく風の勇者なんですよっ!?確かに第13魔王は、必ずしも人間に敵対的な魔王ではありませんが、師匠がその街に行く事で下手に刺激したら、どうなるかわからないじゃないですかっ!?実際、ガナッシュ公国は滅ぼされないまでも、進攻を受け、歴史的大敗を喫しました!真大陸の歴史が揺れますよ!!」


 ゴンが捲し立てるように言い募る。その内容には私も同意見。流石に危険すぎはしないかしら。


 「それなら多分やけど、大丈夫やと思う。ウチは一回行ったし、シュタールがあの街に住んどんねん」


 「ひ、光の勇者様が、魔王の街にですかっ!?」


 ラルは大袈裟なくらいに驚いているが、程度の差こそあれ、私も驚いた。


 魔王に対する切り札とも呼べる勇者を、そのお膝元の街に放置しておくなんて、なんて豪胆な魔王なのかしら。


 「で、でも、流石に魔王は勇者がいる事に気付いていないだけなんじゃ………」


 そんなわけはないと、自分で思いつつも口にせざるを得なかった。だから、それを否定する師匠の言葉で受けた衝撃は、驚きよりも呆れの成分が多かった。


 「いや、シュタールが勇者やって気付いていてなお、何もせぇへんゆう話や。何でも『迷宮レーコード』っちゅうモンに、シュタール達を『光の勇者(笑)と愉快な仲間たち』っちゅーけったいな名前で記録したんが、魔王本人としか考えられんって話やった」


 「「「(笑)って何?」」」


 それは師匠にも意味がわからなかったらしい。何なのかしら?


 「それに組合の情報では、近々冒険者、商業、両組合が進出するゆーし、安全面ではそこまで心配ないで?街全体に『非殺傷結界』張っておったし、そこらの街より余程安全や」


 非殺傷結界!?

 魔王はそこまでして人間を保護していると言うの!?


 「あ、あの、お師匠様、『非殺傷結界』ってお師匠様が昔に作り上げた魔法ですよね?術法そのものは真大陸に広まってはいますが、魔族には無い魔法のはずですよ?魔王はどこで『非殺傷結界』の術法を知ったのでしょう?」


 そう。『非殺傷結界』は100年くらい前に師匠が作った魔法。


 『エリア魔法』をマジックアイテムにしようとしたのに、術式があまりにも複雑で、小国の1つが丸々収まるようなサイズになるからと、無属性魔法の結界術として新たに作り上げた魔法。魔法の名称が真大陸共通言語である理由も、その魔法が出来たのが新しいからに他ならない。名称そのものにも、師匠の特色が見える。


 師匠が『真大陸歴代最高の魔法使い』の1人に数えられる由縁となった、偉業の1つ。


 普通は実現不可能と諦めるような事なのに、それを別の魔法にしてやってのけてしまう師匠に、同じ魔法使いとして尊敬どころか、崇拝すら禁じ得ないような逸話だ。


 でも確かに、一体どうやって知ったのかしら?


 術法そのものを知っている人は限られてるし、魔王に教えるような人間はそうそういないだろう。いえ、人間でも、無理に知ろうとすれば、悪目立ちする事この上ない。


 「さぁ?

 まぁ、そんな事別にええやないの」


 「良くないですよ!アムハムラ王国なんて、魔族にその術法を知られないように、王城にすら『非殺傷結界』を張っていないんですよ!?

 魔族が使えるなんて、大事件じゃないですか!?」


 「いや、まぁ、そうなんやけど………、技術なんてモンはいつかは広まるやさかい、しゃーないて」


 ゴンの追求にも、師匠の反応は冷めたものだった。


 「それに、ウチがあの街を推す理由は他にもあんねん」


 「他の理由って?」


 これ以上冬の寒空の下で無駄話を続けるわけにもいかず、魔王の『非殺傷結界』の入手ルートについての話を打ち切る。どうせ憶測しかできないのだから、それは時間の無駄以外の何でもない。


 しかし、私はこの時の自分の判断を褒める。むしろ誇る。




 「めっさ可愛い子ォがおんねん」




 「今すぐ行きましょう!!」




 私が師匠の元に残った最大の理由。それは、師匠への感謝も多分にあるけれど、一番はやはりこれなのだ。


 「しかも驚くなかれ、全部で4人おる!!」


 「なんと!?師匠の審美眼にかなう妖精が4人も!?」




 師匠と私は同好の士。あまねく全ての可愛い子は、私と師匠で愛でるのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ