はじめての人間は王女様っ!?
『マスター、侵入者です』
「またか!」
本当に千客万来だな。
『今度は真大陸側からですね。人間が76名です』
「あー、そりゃそうか。魔王が来たってことは、人間も来るよな」
しかしそうなると大変だ。なにせ、コションの軍団の内いくつかは、まだダンジョンをさ迷ってるんだから。同時に2方向に注意を払わなければならない。
できればこっちは、穏便に終わってほしいものだ。
「とりあえず確認してみる。えーと、確認、人間」
すると、長城迷宮の入り口を、慎重に進む鎧の一団が見えた。
随分警戒してるな。
「なんとなく声かけづらいんだけど………」
『あなたの仕事です、マスター』
「コションみたいに、短気でバカじゃなきゃいいけど」
『私も、精神衛生上バカの発言は聞きたくありませんね。ですからマスターもなるべく喋らないでくださいね』
「さらっと僕がバカだと言わないように。自覚はしてるから」
『自覚できても直せない。愚者は愚者であることが罪であり、愚者であり続けることが罰なのですね』
「お前の毒舌も、いよいよもって危険度が上がってきたなあ!?」
もういい。無視してやる。
僕はマイクを取って、鎧の人間達に話しかける。
「あー、テステス。本日は晴天なり。あかぱじゃまきぱままあおままま。
どうもこんにちは、魔王のアムドゥウスキアスです」
前にコションを怒らせちゃったからな。ちょっと礼儀正しく僕は話始めた。
「ようこそ僕のダンジョンへ。
せっかくお出でいただいて申し訳ないのですが、現在このダンジョンには脱出法が存在しません。1度中に侵入してしまうと、戻る事が不可能になってしまいます。皆様の命の保証もできかねます。
侵入はお勧めできかねます。どうぞお帰りください」
こんなもんか。ふふん、僕だってちゃんとしようとすればできるのだ。
『マスター、なぜ相手の神経を逆撫でするような、そんな馬鹿な喋り方をしているのですか?』
「えっ!?」
いや、できてたよね?
ちゃんと僕、敬語で喋ってたよねっ!?
『ご丁寧な挨拶と忠告、痛み入る』
人間の中の、女騎士さんがスピーカーに向かって頭を下げた。
どぉーだアンドレ!僕の喋り方はまともだ!
続けて女騎士さんが、話し出した。
『私はアムハムラ王国の騎士団長を勤める、トリシャ・リリ・アムハムラと申します。
名前の通り、一応アムハムラ王国の王室の末席を汚しております。
この度、第13魔王、アムドゥスキアス陛下の元に、使者として罷り越しました。願わくは、どうかお姿を見せてはいただけないでしょうか?』
「えっ!?王女様なのっ!?」
あ。
『早速化けの皮が剥がれましたね』
アンドレの嫌味に耐えながら、僕はトリシャと名乗った王女様を、もう一度確認する。
成る程。
銀色の鎧と、ここまで来るのに付いたであろう汚れで、すぐには気付かなかったが、金色のショートカットも、その奥の顔にも、どこか気品のようなものを感じる。歳は20そこそこと言ったところか。
『あの………?』
おっと、ついつい黙ったまま見入ってしまった。
「んん。ちょっと仲間と相談していた。もしそちらに不都合がなければ、君をこちらに呼び出す形をとりたい。
僕がそちらに行くのは、さすがに不用意なのでね」
本当は誰にも相談していないけど、まぁ直接行くのはナシだよな。
『召喚』で呼べば、召喚陣からは出られないし、あとは僕の仲間になるのを拒否してもらって、帰せばいい。
『………わかりました。
ただ、私が戻らなかった場合は、我が国だけでなく真大陸全土が、陛下の敵となることをご了承ください』
「そんな心配は要らないさ。僕は君を害すつもりはないし、できることなら友好的な関係を持ちたいとも思っている」
僕はそう言って、スマホを操作し始めた。
あ、でもパイモンを呼んでからにしよ。
僕ってこっちの世界に疎いしね。
フルフルは、うるさそうだからいいか。
でも仲間外れはなぁ………。
こうして僕の、初めての人間関係は始まった。