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 エリア魔法概論

 戦場は、おかしな空気に包まれていた。


 我々は全力をもって彼女等を攻撃しているのに、今目の前で彼女等はお茶会を開いている。


 この意味のわからない状況に、呑まれてしまっている自分がいる。


 「別に、おどれ等が弱いんとちがうよ」


 ティーカップを口元へ運び、ソーサーへ戻すついでとばかりにサージュが言った。


 「なんやおどれ等、やたら『エリア魔法』つことるけど、それ、魔力消費の割に、弱点が多いねん」


 彼女が『奥義』の正式な名称を知っていることに、驚きはない。彼女は現在いる勇者の中で、最も古くからいる勇者なのだ。むしろ意表をつかれたのは、彼女があっさりとこちらの『奥義』を看破したことだ。


 「弱点その1。

 『エリア魔法』は『エリア魔法』で上書きが出来る。これは、さっきおどれ等がやっとったから、知っとったやろうな」


 「………ああ」


 この妙な雰囲気を何とかしようと口を開くも、上手く言葉はでなかった。


 呑まれてるな………。


 「弱点その2。

 エリア外に逃げられた場合、魔法そのものが無駄になるっちゅー、簡単な対処法があることやな。


 さっきつことった、『魔法の使えん空間』も、エリア外から『エリア魔法』上書きされたら、何の意味もあらへんかったやろ?」


 「何?」


 私の作った『狂戦士達の戦場』が、いつの間にか上書きされていたのか?

 しかし、もしそうなら急激に高まった身体能力が戻って行く感覚でわかった筈だ。


 「ああ、1つ教えとくと、さっき外からイルちゃんが上書きした空間は『乗っ取りの美学』っちゅー名前でな。それまでの空間内の条件を利用したまま、その条件のどれかを無効化するっちゅー『エリア魔法』やってん。


 気付かんかったやろ?

 それがこの魔法の嫌らしいトコやねん。さっきの空間、ウチら普通に『身体強化魔法』つこうてたんよ。おどれ等のお仲間が弱ないいうんは、そーゆーこっちゃ」


 それは………。

 つまり彼女と彼女の仲間は、対『エリア魔法』用の『エリア魔法』すら、用意してある、という事か。


 我々の攻撃の主軸は『奥義』ありきの戦術だ。


 しかし、相手が『エリア魔法』を使い、尚且つこちらより長けているとなれば、これは難儀するぞ。


 「師匠、私の作った魔法を嫌らしいってどういう事?」


 「せやけどイルちゃん、『エリア魔法』は研究と実験を重ねてようやっと実戦で使えるっちゅー、この魔法の不文律に、イルちゃんの『乗っ取りの美学』は真っ向から喧嘩売っとるやないの?ある意味、即興で空間作っとるやないの」


 「だからそこが美学なのでしょう?

 『エリア魔法』は大抵の場合、それまでの空間に何らかの条件を付随させるもの。つまりは足し算の空間。そこから0に戻らないように引き算する空間なら、構築可能なのよ」


 「いや、『エリア魔法』はそない単純な構造ちゃうよ?

 なんでそんな単純な認識で、あないな空間が顕現できるん?」


 「さぁ?難しいことは私にはわかりかねます」


 いきなり魔法談義を始めた2人に、今まで萎えかけていた戦意が沸き上がってくる。怒りという燃料をもって。


 「舐めるなぁぁぁあ!!」


 どうやらそれは私だけではなかったらしい。兄弟の1人が、その茶会を終わらせるべく、剣を振りかぶって躍りかかる。

 それに触発されたのか、他の兄弟も足を動かしかけるが、その足は一歩目で揃って止まることになった。


 暢気な茶会に乱入した兄弟は、剣を振りかぶった姿勢のまま、ピタリと止まって動かなくなってしまった。


 まるで石像のように動かなくなった兄弟の姿に、驚きと共にたたらを踏まされ、再び士気が下がり始める。


 「これは正真正銘、ウチの『エリア魔法』やよ。その名も『排他的茶会』。


 この空間の中では『お茶をする』ゆー行為以外、全てが否定される。まぁ、いわゆる『魔法も武器も使えん空間』や。

 元々王族なんかの会談用に作った空間やったんやけど、さっきもゆうたように『エリア魔法』自体が弱点多くて、使えん失敗作の空間やね」


 「ちょ、ちょっと待て!」


 つい口をついて出た静止の言葉は、しかし私の意思に反して発されたものだった。こんな、これ以上こちらの士気を下げるような言葉、口に出すべきではないのは十二分に理解していた。

 私は、というか私たちは、兄弟も、教会の者たちも、サージュの『真大陸最強の魔法使い』という肩書きばかりを注視しすぎて、『真大陸最高の魔法研究者』という肩書きを忘れていたのだ。


 それでも口にしてしまった。


 「お前らは、一体いくつの空間を使えるんだ?」


 聞くべきではなかった。

 聞く前もそう思ったし、聞いている最中もそう思った。

 そして、その予想は残念ながらと言うべきか、正鵠を射ていて、私は聞いた後も思ったのだった。




 「んなモン、数えられる内は数やないやろ?」




 聞かなければ良かった。




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