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 笑顔

 ふん。

 魔王の街と言えど、他愛ない。


 街に侵入し、まず思ったのはそれだった。


 相手も結局、意思のある生き物。どれだけ巨大なダンジョンを築こうと、それを完璧に支配はできない。

 どこかで必ずミスをする。手が行き届かない場所がある。

 こちらの侵入に気付いたのは流石だが、その思惑までは気付かなかったようだ。

 自ら造ったマジックアイテムに、足を掬われるがいい、魔王。


 入り口の扉から入った連中と、腕輪を使って侵入した俺たちが合流し、いよいよ作戦開始だ。


 「ディス、頼む」


 「ああ」


 俺は兄弟からかけられた声に返事をすると、魔力を集中させる。


 莫大な魔力を込め、集中し、魔法を発動させる。


 「『魔法使いの狂乱』」


 新たな世界を作る魔法。仮初めの世界を作る魔法。自分だけの世界を作る魔法。


 例えこの場が魔王の魔法に支配されていても、俺の魔法には関係がない。


 「………くぅっ………!!」


 突然襲い来る疲労感と、眠気。魔力を使い果たした証拠だ。自然と落ちる膝に、そばにいた兄弟が気付いて支えられる。


 「無理をするなディス。後は俺達が」


 「………あ、ああ………。………頼む」


 兄弟の肩を借り、支えられたまま立ち上がる。

 白いローブを着た集団である俺達に、周囲の注目が集まっていた。


 「お、おい、あんたら、今魔法を―――」


 声をかけてきた冒険者に向かって、兄弟は間髪入れずに魔法を放つ。


 「え?」


 石の杭に胸を貫かれた冒険者は、とっさの事にポカンとした表情を浮かべ、その表情のまま地面に倒れた。


 「ゴンドー!?な、なんで、ここには『非殺傷結界』が………」


 「パーシバルっ!危ない!!」


 死んだ冒険者の仲間らしき男が、愕然とした表情で死体に見いっている所を狙って魔法を放ったのだが、魔法使いらしき仲間に防がれた。


 「何、これ?」


 チッ、気付かれる前に片付けるか。


 「『ギ・ツェクリ』」


 巨大な岩の斧を作り出し、無造作に落とす。


 それだけで大きな衝撃が、まるで爆発のような衝撃が伝播する。他の兄弟も思い思いの魔法を使って、攻撃を開始した。

 それまで事態についていけていなかった住民も、悲鳴と怒号をあげて逃げ惑う。


 「パーシバル!下がって!!こいつら、強い!!」


 「待てっ、俺も―――くそっ、何だ?体が重い………」


 クソ。思ったよりも魔法使いの腕がいい。今ので殺しきれなかったか。


 それ以外にも、周囲にいた冒険者が集まってきている。

 ある事情から、俺達はこの場を離れられない。まぁ、絶対ではないので全員逃げても追うだけなのだが。

 しかし、ここにいる冒険者は、総じて技量が高いようだ。


 「動きが阻害される!戦士は防御に集中!」


 「魔法はむしろ威力が高くなるぞ!魔法使いを集めろ!」


 「怪我人の治療は私達『風の癒し手』に任せて!」


 「我ら『泥仕合の勝者』が守る!お前ら、絶対後ろに逸らすなよ!!」


 「これ以上誰も殺させるな!!」


 まるで、どこぞの国の騎士だと見紛う連携だ。こんな場合を想定していたわけもなかろうに。


 「この時間なら、近くにパイモン商会の自警団がいるはずだ!戦力になる!誰か呼んでこい!!」


 「シーフの私が行くわ!今回は役に立たなそうだもの。死なないでね!」


 「誰に言ってやがる!!」


 「ウチのシーフも伝令に出そう!ザチャーミンの巡回時間ならわかる」


 「ウチはドールエルド商会へ!」


 連携。

 烏合の衆とはとても呼べないほど、彼等は咄嗟に連携をとれるのだ。


 全くもって鬱陶しい。




 「お前ら………―――」




 ―――寒い。


 急に、周囲の温度が10℃は下がったかと思った。

 まるで、硝子を擦り合わせたような、不愉快で勘に障る声が響く。静かで、不気味で、異質な声。


 異様で、異質で、異端の声。




 「―――………僕の街で、何をした?」


 黒い。

 黒い子供。


 髪が黒く、瞳が黒く、服が黒く、ズボンが黒く、肌が黒く、角が黒く、




 何より、存在そのものが黒い。




 黒い子供がいた。


 自然と割れる冒険者の波の間を、さも当然のように歩く子供。


 魔王。


 その言葉が頭をよぎった。




 「―――この街は―――僕の街で、商人の街で、冒険者の街―――僕が―――この僕が、心を割いて造った街で―――ナニヲシタ?」


 違う。


 咄嗟にそう言いそうになった。弁明を、命乞いを、しそうになった。

 そうじゃない。

 例え目の前にいる魔族の子供が魔王でも、俺達のやる事は変わらない。



 街を破壊し、逃走する。逃走できなければ、自決する。それだけだ。


 「―――殺したのか―――?」


 なのに何故だ?


 「―――僕の街で―――殺したのか―――?」


 この感情はなんだ?


 恐怖?

 これが、もしかしてこれが、恐怖というものか?


 「――――――」


 この子供は、本当になんなのだ。


 違う。

 明確に違う。

 違いすぎる。

 何だこの生き物は?


 俺の中の根源的な恐怖を呼び起こす、この―――異常な存在は。


 怨嗟の言葉を吐き続けながら、しかしまるで嬉しそうに笑う子供。

 満面の笑み。

 優しげに笑み。

 幼さの象徴のような破顔。




 「―――コロス―――」




 しかし、実に美しい黒色(あくい)だ、と思った。





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