カーニバルナイト。第2の魔王っ!?
「聖人計画?」
いきなり聞きなれないながらも、創作物にありがちな仰々しい単語が飛び出したな。しかも『聖人』と来たもんだ。
できれば関わり合いになりたくないなぁ。
「いや、聞き覚えはないな」
「そっか、ならいいんだ。
ぶっちゃけ、こんな古くさくて廃れた危険思想、生まれたばかりのキミが知っていたら、正直どうしようかと思ってたよ。うん、良かった良かった。
何せ、魔王を生み出しちゃった計画だしね」
いや、ごめん。知りたくないんだけど?勝手にはなさいでくれないかな?
「っていうか、ボクが魔王になった原因でもある。
そもそもは、勇者を人工的に造ろうとした計画だったんだけど、どこをどう間違い、何を何で誤ったかわからないけど、ボクを魔王にしちゃったんだよね。ちなみにこの時まで、世界には魔王はエレファンしかいなかった。だけどボクが生まれた後には、ちょくちょく魔王が生まれ始めたっていう、世界の七不思議のひとつでもある。
あ、当然、計画に関わった奴は片っ端からボクが手ずからぶっ殺したし、研究施設どころか、その国ごと粉々にしちゃったよ。まぁ、大地を割ったのはエレファンだけどね。
今は昔の、もう誰も知らない真大陸の黒歴史ってやつさ。
だから、そんなものが現代まで残ってるわけもなく、もし残ってたところで第2の魔王を生んだ計画なんて誰も引き継いだりはしないだろう、とは思うんだけどねぇ………。
でもねぇ………。なぁんか、今回の話に似てると思うんだよねぇ………。
最後にもう一回聞くけど、本当に聞いたことない?キミのオトモダチとかからさ」
勇者ねぇ………。つーか、量産してどうするつもりだったんだよ。
僕は大量のシュタールの群れを思い浮かべて、心底ゲンナリする。
嫌すぎる………。
「いや、やっぱり聞いたことはないな」
「そっか。
まぁ、そうだよねぇ………。ボクの耳にも入ってないし、無関係と考えた方が妥当だね。アレは少なくとも、勇者を生みだす計画で、魔王を生む計画ではなかったからねぇ」
「だろうな」
確かに引っ掛かることはあるが、勇者を生む計画で勇者を魔王にしてしまう意味はない。
むしろデロベの存在は、下手をすれば真大陸側にも不利益を被りかねない話なのだ。魔王が生まれて困るのは、どちらかと言えば魔族より人間なのだから。
「お二方、そろそろ本題に戻っても良いだろうか?」
「ん?ああ、ごめんごめん。続けてくれていいよ」
僕ら2人のやり取りを静かに見守っていたクルーンが、仕切り直すようにそう言うと、タイルはにこやかに答えて手を振った。
「先程も申した通り、我々の目的は皆さま方の意思確認にございます。こちらに与するか、敵対するか、不干渉の中立か、できますればこの場でお教え願いたい。
無論、敵対であろうと中立であろうと、我々はそれを厳粛に受け止め、無粋に理由を追求したり、逆恨みなどはしないと約束しましょう。
もし敵対したとしても、その時は今宵の宴を戦の前の最後の語らいの場とし、後日魔族らしく正々堂々雌雄を決しましょうぞ」
なんか堂々としてんなー、クルーンの奴。以前の完璧に阿るような弁舌じゃなく、ある意味宣戦布告。下手をすれば恫喝紛いの弁論だ。
まぁ、これが人間だったら問題だろうけど、この魔大陸だと―――
「カッカッカ!!
面白い!!貴様がどの程度成長したか、とくと見てやろう!!我は貴様等に味方してやろう!!」
「あははは、ホント別人みたいだよね。あ、ボクとエレファンは中立で。で、いいよね?」
「ん」
―――中々に好印象で受け入れられたりするんだ。
「キアス、陣中では夜這いに気を付けよ!」
「なんで味方の癖に僕に宣戦布告してんだテメーはっ!?」
「男と女の仲はいついかなる時も戦ぞ!」
「いっそ敵対してろよ。その方が安心だから!僕の貞操的な意味で!!」
「その場合は、敵陣を突破してでも夜這いに向かう」
「安心できねー!!」
どこまでも色欲に生きる奴だ。
と、そこで僕とオール以外の視線が残りの2人へと向かう。
第5魔王、アベイユ。
第8魔王、エキドナ。
別にデロベの味方をしてもこの人達に得はないし、多分中立でいてくれるだろう。
魔王とは本来、よっぽどの理由がなければ他者の戦に介入したりはしない。
自分の力をアテにしなければ戦もできないような奴に、本来何の興味も抱かないからだ。
とはいえ、これは絶対ではない。
魔王とはひどく利己的で、自己中心的で、気まぐれで、ようするに自分勝手な存在なのだ。『なんとなく』で戦を起こすこともある、「こいつら勇者に滅ぼされても仕方ないだろ。だって人間からしたら、意味不明で迷惑だもん」思わせる存在なのだ。
ハンパじゃない力を持ち、それゆえに人望をもつ独裁者が、己の趣味嗜好を何よりも優先する。実にはた迷惑だと僕も思う。
だからこそ、クルーンはこの場で魔王達の意思を確認したかったのだろう。
真っ先に口を開いたのはアベイユさんだった。
「敵対する」




