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 カーニバルナイト。挨拶っ!?

 「カッカッカ!!今まで開かれた宴の中でも、間違いなく最高の街じゃな!!」


 「まぁ、娯楽だけを主眼に置いた街だからな」


 その分、落ちぶれる奴も多いんだけど。


 バベルの最上階に誂えた迎賓館。魔大陸の北側を一望できるのではないかと思える絶景と、黒光りする黒曜石の室内に、所々あしらわれた黄鉄鉱の装飾。バベルの街の景観を凝縮したかのような、重厚な趣の部屋である。


 「第4魔王オール・ザハブ・フリソス様!第13魔王アムドゥスキアス様!ご来場!」


 相変わらず僕の腕に絡み付くオールと僕がその迎賓館に訪れると、腹に響く大声と共に盛大なファンファーレが鳴り響いた。

 勿論、以前の宴の時のような耳を塞ぎたくなる音ではなく、ちゃんと調律された楽器で、確かな腕前を持った者の演奏である。僕直々の監修なのだ。まともな旋律でないわけがないのだ。


 「見事よな。まさか魔大陸で、ここまで見事な演奏を聞こうとは」


 「きちんとした楽器を作る技術さえあれば、魔族にだって音楽の文化はあったと思うね」


 「カッカッカッ!!それこそ無茶というものよ。魔族は力こそを尊び、技術や学問というのは、強者の遊興のようなものだからな」


 ああ、そりゃあ文明が育たんわけだ。場合によっちゃ、魔王しかそれの担い手がいなくなるかもしれないのだから。


 「しかし、貴様の街は本当に見事よな。洗練されているというか、センスが良いというか、魔族の街というより人間の街のようだな」


 「ふふふっ、人間の街なんかより上と言って貰いたいな。上下水道設備や文化の面では、他の追随を許さないぜ?」


 なめんな。

 アカディメイアやアレクサンドリアだって、真大陸にもない技術のオンパレードなのだ。


 僕とオールは迎賓館内の廊下を進み、大広間の中へ入ると席につく。小さなテーブルとソファが、部屋のあちこちに設えてある。その1つに、僕とオールは腰を下ろした。


 「おい、自分の席につけ」


 「いけずを言うでない。我の席は貴様と同じに決まっておろう」


 決まってねぇよ。


 「しかし、今回の議題も下らない事よな………。昨今の『宴』は、実につまらん。昔は宣戦布告のため、よく開かれていた宴だというに」


 「へぇ、そいつは初耳だ」


 だから一見そういう事に無頓着そうな魔王達の宴なのに、色々と制約があるのか。


 「おう、第13!久しいな!」


 昆虫のキメラのような姿で現れたアベイユさんは、そのマニュピレーターのような腕を上げで挨拶をしてくる。


 「ああ、アベイユさん。楽しんでいただけていますか?」


 「ああ。宴はともかく、この街は堪能させてもらっておる」


 「ああ………」


 そうらしいですねぇ………。

 あれから闘技場では、挑戦者と観戦者が押し寄せ、一時的にパニックになりかけていたらしい。アベイユさんはアベイユさんで、挑戦者がいなくなるまで連勝に連勝を重ね、その実力をバベルの住人達に披露したらしい。

 闘技場はその勝敗を賭けの対象にしていたのだが、最終的にアベイユさんが勝つという前提で試合時間が賭けの対象になったらしい。でないと対戦相手に賭ける人がいなくて、賭けが成立しなかったらしい。


 「闘技場か、実に面白い試みだ。兵士の訓練とは違う熱気があった」


 「金がかかってますからね。ファイトマネーもありますし、選手も必死なんですよ。アベイユさんも貰ったでしょう?」


 「いや、辞退した。流石に少々心苦しくてな」


 あー、僕にはわからない感覚だけど、圧倒的強者である魔王が魔族を倒してお金を稼ぐのは、ちょっと負い目を感じるのかもしれない。


 「それより、第6の組織を乗っ取ったそうだな?」


 今まで楽しそうだったアベイユさんの声音が、途端に真剣味を帯びる。表情は………、ちょっとわからない。


 「クックック。実に面白い戦をする男だ。面白い。実に面白い。


 ………一度、矛を交えてみたくなった………」


 「いや、やめてくださいよ。僕なんて全然弱いですからね!絶対勝てないですからね!」


 勘弁してほしい………。


 「ふふふ。まぁ、冗談だ。今のところはな。ではオール殿、俺は戻ろう。邪魔をした」


 「気にするでない。ではな」


 軽く頭を下げてから、アベイユさんは元の席に戻っていった。


 「あやつ………」


 「ん?どうしたオール?」


 去って行くアベイユさんの背を見つめながら、オールは思案するように顎を撫でていた。


 「いや………。実に楽しそうにしておったな」


 「ははは………、随分楽しんだみたいだからねぇ」


 そういえばアベイユさんは、オールに対しては結構丁寧に対応するよな。まぁ、アベイユさんがエキドナさんやエレファン、タイルと接してるのは見たことないし、僕はその他の魔王と同列に扱われるだけでも過大評価なんだけどね。


 「キアス」


 そんな事を考えていたら、クルーンが駆け寄ってきた。


 「クルーンか。本当に見違えたのう」


 「お久しぶりですオール殿」


 「うむ、どうやら我の名を呼べるくらいには、キアスに揉まれたようだの」


 「ははっ、元々人形の体ゆえに交換ができた、というだけでございます」


 「姿の話ではないのだがな。しかし、その堅苦しい話し方は相変わらずか」


 「流石にキアスのようには………」


 「おい、僕が異常みたいに言うな」


 抗議をしたらクルーンは、やれやれとでも言うかのように肩を竦める。


 「それより、そろそろ始めるぞ?」


 「流すな。僕は至って普通の魔王だ!」


 「ではオール殿、退屈でしょうがどうかご清聴いただきたい」


 「無視かよっ!?」


 くそっ、クルーンの癖に。





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