悪巧みっ!?
「ただいま戻りました」
「お、お帰りレライエ。どうなった?」
帰ってきたレライエに、僕は書類に落としていた視線を上げる。
「相手方は了承すると………。一応、誓約書と借用証書を書かせました」
「ん。どれどれ?って、どんだけ借金してんだよ、アイツ………」
今回、ソドムの乗っ取りを考えた商人には、僕の野望の手助けをしてもらうために、首輪をつけさせてもらった。
それが、借金の肩代わりと誓約書である。
「うわぁ………、信用貸しじゃないですか。やる事がエグいなぁ、キアスさんは」
「おいおい、無利子無催促で借金を肩代わりしてあげた僕に、なんて言い種だい?」
隣から誓約書と借用証書を覗き見たセン君が、まるで非難するかのように言うので、僕としてはたまったもんじゃない。結構な出費なんだぜ、コレ。
「信用貸しって、商人にとっては喉元にナイフ突きつけられてるようなものじゃないですか。怖いなぁ」
そう。商人は信用が第一。信用貸しをするような親しい相手を裏切った商人は、どんな大商人だろうと破滅しかねない。いや、そんな噂がたっただけでも、かなり信用問題になる。まして今回は借用証書まであるのだ。本人どころか、商会丸々潰れるかもしれない。
「商人には、商人のルールがありますからね。これを破って商人を続けるのは不可能です。全ての商人がその人の敵になりますから」
そう、それがこの世界の暗黙のルール。
信用を裏切った商人は、全ての商人の敵である。
とはいえ、結構抜け道があったり、全く関係ない人間が関係ない人間に信用貸しをしたと騒ぎ立てても、普通はその騒いでる奴の信用がなくなる。今回は証書があるので問題はない。
「例え微々たるものでも、利息をとってくれた方がありがたいって?」
「ええ。むしろ『利子を付けてください』と頭を下げますね、僕なら」
その暗黙のルールの抜け道として、低利息での借金はこの世界では信用貸しと呼ばないようだ。
「普通ならこれって、どれくらいの利息をつけるもんなの?」
「そうですねぇ、キアスさんとあの人にはさしたる接点もありませんし、月1割とかじゃないですか?」
「高っ!!」
年利120%じゃないか!?そんなの借金する意味ないだろ!!
「普通は接点の無い人に借金なんてしませんからね。それも大金を」
「ああ、まぁ少額なら月1割も出来なくはないか………」
ただ、アイツの借金は年利12%、月1%でも利子を返せるかどうか………。やっぱり、信用貸しでないとどうにもならなかったような気がする。
「それにしても、僕は魔族って初めて見ましたが、美人ですねー。ついつい見とれてしまいますよ」
「恐縮でございます」
「魔王様は、中々の審美眼をお持ちのようですね?」
「はぁ………、出来ればセン君には隠し通しておきたかったなぁ………」
そう。とうとうセン君にまで僕の正体がバレてしまったのだ。………というか、結構前からバレていたらしい。
アムドゥスキアスとキアスという名前の類似くらいなら意外とバレないのだが、それ以外が今回バレた原因だった。
例えば、第13魔王が現れた土地、ズヴェーリ帝国とガナッシュ公国、その両方に同時期に僕がいた事やその付近の情報提供。以前はアムハムラにいたと説明したのに、支店を出したアムハムラでパイモン商会の名が全く聞こえないこと。ついでに、パイモン商会の会頭が今まで1度も顔を出したことがないことなどを踏まえ、導き出した結論らしい。
まぁ、いずれバレるとは思っていたし、仕方ないんだけどね。
「セン君」
「なんでございましょう、魔王陛下?」
「………………それやめて、地味に傷つく………」
気の置けない間柄だったセン君にこうして恭しく接されると、すごくもの悲しい。まぁ、こちらをからかうようにニヤニヤと笑っているので、本気で僕を敬っているわけじゃないだろう。
「んん。セン君?」
「なんですか、キアスさん」
咳払いを1つして、改めて問いかけると、セン君もいつものように答えてくれる。
「僕は魔王だけど、ソドムの街には干渉しない。つまり、セン君にも便宜を図ったりはしないし、当然僕自身に有利な強権を使ったりもしないつもりだ」
そう、僕の思い描くソドムの街には、支配者というものは邪魔でしかない。
そういった権力の及ばない街を造りたいのだから、当然だ。
「いいですよ」
そしてこの子はとても頭がいい。僕の意図するこの『自由都市構想』にも、気付いて今まで協力してくれていたのだろう。
「むしろ大歓迎ですね。僕としても、名実共にこの街が『商人と冒険者の街』になる事を望みます。
ふふっ。もし実現したら、商人には夢のような街になりますね」
「ああ。きっと面白い街になる。どんな商売、どんな商人が現れるか、本当に楽しみだ」
「キアスさんの作った歓楽街に触発されて、同じものを作ろうとする商人もいますしね」
「それはいい。二番煎じだろうと、この街は広大だからな。南側の住人では歓楽街も遠すぎると思っていたんだ」
「ふふっ、流石にあの歌や劇を真似するのは無理でしょうけどね。いやぁ、実に素晴らしかったです」
「お褒めに預かり恐悦至極」
そうしてしばらくセン君と、ソドムの街の『自由都市構想』の話に花を咲かせていた。まるで秘密基地を作る子供のようにワクワクしながら話していると、「そういえば」と、セン君が思い出したように口を開いた。
「あの人、今回一番哀れな目に遭ったあの商人、キアスさんはどうするつもりなんですか?」
ああ、その事か。
あの人には、とっても大事な仕事を任せようと思ってるんだ。その仕事さえ完遂すれば、借用証書は返してあげてもいいと思っている。
だってそれは、僕の野望の1つ、
「あの人には、奴隷商人になってもらうつもりなんだ」
奴隷解放の重要な役割を担ってもらうつもりなのだから。




