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 新任っ!?

 「あんた、怪我したのか?」


 「………何でわかった………?」


 遊技場で僕とゲイルは、ビリヤードをしながら話す。一対一で話ながら遊べる遊戯、これを選んだのにはそれなりの理由がある。


 「優秀な冒険者。しかし、この街に来てから冒険者として活動したことはほとんどない。武器はある。金だって問題はないはず。病気の線もあったが、今こうして僕とビリヤードに興じている。となると怪我だ。冒険者が一番恐れる怪我、それは足だ。足を痛めれば走れない。戦闘にも支障が出る。隻腕の冒険者はいても、義足の冒険者という奴は聞いたことがない。ただ、見た感じでは足は普通にあるし、義足でもなさそうだ。歩行には少し違和感があるけどな。しかし、冒険者としての活動に支障が出る怪我。

 靭帯でもやったか?」


 ゲイルが苦笑しながら手玉を衝く。ラシャを滑るキューボールは、別の玉を打つも、ポケットには落ちなかった。


 「ジンタイってのがなんだかわからねぇが、怪我をしたってのはアタリだ。この街に来る途中請けた依頼でな、ちょっと強い魔物とのやりあったのさ。奴が最後の力を振り絞って突撃してきたのを、俺は盾で受け止めつつ引導を渡してやった。だが、受け止めた反動で背後の岩壁に、強かに膝をぶつけちまってな。激痛でしばらく動けなかったぜ。まぁ、膝んなかで溜まってた血を抜いて、なんとか近場の町まで行って治療したんだがな、足は前みてぇに動かなくなっちまった。まぁ、冒険者にはよくあるこった」


 医学知識は朧気にしか憶えていないが、それは恐らく靭帯断裂だろう。靭帯は断裂すると、自然治癒したりはしない。だから回復魔法でも回復できないのだ。まぁ、患部を切開して靭帯を繋げつつ回復魔法を使えばその限りじゃないだろうけど、この世界では魔法のせいで外科手術という概念がほとんど無いからな。


 「でもまぁ、これでも怪我した当初よりは動くようになったんだぜ?最初の3ヶ月なんて、マジでほとんど膝が曲がらなかったからな。少しずつ曲げ伸ばしできるようにして、やっと歩けるようにはなったんだが、戦闘となるとなぁ………」


 スポーツ選手の選手生命にも関わる場所だからな。リハビリを続ければ、それなりに動けるようにはなるだろうが、一線で戦える戦士には戻れまい。


 僕にも治せないしな。


 「まぁ、そろそろ働けるぐらいには動けるだろ。心配しなくても、俺ももう浮浪者の真似事なんざしないぜ」


 快活に笑うゲイルに、しかし僕は1つの提案をする。


 「なぁゲイル。お前、教師にならないか?」


 手玉を衝いて、ポケットに的玉を落とす。次は6番。その次の的玉の位置は………。


 「………………はぁ?」


 「あん?どうしたゲイル?」


 そんなに意外か?別に難しいショットじゃなかったぞ?


 「な、何で俺が教師なんだよっ!?」


 「ああ、そっちか。別に。ただ学校の方で、将来冒険者になりたいって子供が多いみたいでな、自衛にもなるし武器の扱いを教えることが出来る教師を探してたんだ。体育の一貫で運動はさせてるし、運動能力だけならそこそこあるんだがな。あそこで学べる知識さえあれば危ない橋を渡らなくても、十分に金は稼げるってのに、ったく」


 なんの為に僕が学校を造ったと思っているのやら………。


 「まぁ、仕方ないっか。どうしたってここは冒険者の街。冒険者に憧れる気持ちもわからないでもない」


 だからこそ、剣術の基礎や、冒険者のいろはなんかを教えてやってほしいのだ。


 「どうだ?やってみないか?」


 「むっ、無理に決まってんだろっ!?俺の顔見て泣かなかったガキなんていねーんだぞ!?お前以外は」


 「その点は気にするな。なんたって彼らは、魔王の街に住む子供たちだぞ?」


 「そういう問題じゃねぇだろっ!!」


 「大丈夫だって」


 「気休めでしかねー!!」


 僕は9番をポケットに落とすと、それを手に取る。我ながら、中々上手く再現できたと思う。ラシャの状態も上々だ。


 「………大丈夫さ。あの子達は元奴隷………。人間の本当の怖さってやつは、十二分に理解してる。

 多分、僕やあんたなんかより、ずっと」


 「………」


 人間の恐ろしさってやつは、顔や体の厳つさより内面にある。奴隷として生きてきた彼らは、身をもってそれを感じてきたはずだ。


 「あ゛ーーー!!くそっ!!わかったよ!やりゃあ良いんだろ、やりゃあ!!

 仕事を斡旋してくれんのは確かにありがてぇが、この俺が教師たぁ………。

 とりあえず、泣かれたら恨むからな!!」


 「それは勘弁。君とは仲良くやりたい」


 「ぶん殴るぞ!?」


 まぁ、これでスラム問題は一応の収束を見るだろう。無論、放っておけば同じような問題は出てくるだろうが、この街はこれからも発展を続けるだろう。そうなれば、スラムを作る場所が無くなる。ダンジョンの外は極寒の世界。迷宮で暮らそうにも、信頼の迷宮にはまともな食料すらない。困惑の迷宮まで行けるのなら、そもそも浮浪者になどならなくても食っていける。

 自然と居場所はなくなるだろう。


 「よろしくゲイル。今日から君は、この街の教師だ」


 「ああ、あんがとよ―――っと、そういえばお前の名前を聞いていなかったな」


 ああ、そういえばまだだったな。ゲイルの名を調べていたせいで、自己紹介の手順を踏んでいなかった。




 「僕はキアス。しがない普通の悪徳商人さ」





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