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 邪悪の胎動

 「くははっ!あははは!」


 俺様は降り下ろす。聖剣を降り下ろす。

 ドスッ、ドスッと重い響きが夜闇に断続的に辺りに響きわたる。

 周囲には荒れ果てた家々と死んだ村人。山賊の集団にでも襲われたような有り様だが、ところがどっこい襲ったのは俺様達である。


 「アン、もう行くぞ。それはもう死んでる」


 「えー、だって俺様、今正義をしてんだぜ?正義の鉄槌だぜ?

 剣だけど。くはははは!!」


 キャトルが一々口うるさい。こいつはいつもやかましい。俺様はこの世界を正す神の使徒だぜ?


 なんだか最近、神を信じねー愚か者や邪教徒が増えたとかで、ずぅーっとこんな地味仕事ばっか。俺様の寛容な心も、そろそろ限界だぜ?


 「きゃはははっ。別に良いじゃないのぉキャトル。こいつら邪教徒なんだし、殺すだけじゃ足りないってぇ」


 ドゥーが殺した邪教徒どもを吊るしながら笑う。


 「ぷっ!何だよそれ!?だっせぇ!!マジ爆笑だぜ!!」


 「でしょぉー?」


 吊るされた邪教徒共は、女も男も下半身の衣服を剥がれていた。全員項垂れているのが勿体ねぇが、死んでいるのだから当然か。


 「簡単に死なせるなんてぇ、やっぱり神が許さないと思うんだよねぇ、ドゥーは」


 「悪趣味な………」


 キャトルは相変わらずつまんねー奴。たぶんビビりなんだぜ。

 だから女や子供しか殺さねーんだ。


 「トロワ」


 ため息を吐いたキャトルは結局、もう1人のつまんねー奴に声をかけた。湿気た奴等でつるめやボケ。


 「………………」


 虚ろな瞳が俺様を見つめ、次にドゥーを見つめ、キャトルを見てから、


 「………………」


 何も言わずに空をみた。

 つっまんねぇーーー!!なんだこいつ!?

 俺様達は、正義を成す神の使徒だぜ?もっと元気溌剌殺そうぜ?


 トロワの周りには、何体かの邪教徒が倒れている。全員が喉を切られ、それ以外の外傷はない。


 やっぱ、つまんねー殺し方だぜ。


 「キャトル、次はどこで殺せばいいんだぜ?」


 「はぁ………、今朝説明しただろうが。聖教国内の粛清はこれで終わり。

 次は魔王とアムハムラ王国及び、北側各国の異端者共だ」


 「おっ!!」


 手遊びにキャトルに話を振ってみれば、なんつーおもしれぇ事言いやがんだこいつはっ!?そうだそうだ、そういえばこいつの話はおもしれーんだった!今朝もそうだった!!


 「魔王!!魔王行こうぜ!!

 なんつったって俺様神の使徒だし!!かっちょ良くこの聖剣で魔王ぶっ殺してぇ!!」


 「だから、今朝も言っただろう。魔王側の担当は俺達とは別だ。俺達は北側の国で仕事をする」


 「えー………」


 そうだ。そうだった。だからキャトルの話はつまんねーんだった。


 「魔王の街には、既に20人の兄弟が送り込まれた。今から行っても間に合わないよ」


 「はぁ?俺様達を差し置いて魔王とやり合うのか!?許せねーだろ、そんなん!?なぁドゥー?」


 男の死体を全裸にして、男同士で重ねてたドゥーは、しかしこっちの話もちゃんと聞いていたらしい。気の抜けたような半目で、ドゥーは言った。


 「別にぃー。どうでもいいよぉ、殺す相手なんて。それよりドゥーはぁ、寒いところより温かいところがいいなぁ。北より南に行こーよぉ」


 「馬鹿か。そっちはそっちで俺達以外の者が工作にあたっている。教会側の味方にしなくてはならないからな。お前らには無理だ」


 「だったらぁ、教会の敵を全部殺してぇ、ドゥー達が工作すればいいよぉ。そうしようよぉ」


 「間抜けが。お前らがまともな工作で何の役に立つ。殺して暴れてそれだけだろうが」


 「それじゃダメなのぉ?」


 あ、それ俺様も思った。教会に従わない糞は、全部ぶっ殺しちゃえばいいんだぜ。


 「殺しは必要だが、無闇に騒ぎを大きくしても意味がない。目的は反教会派の貴族を殺すことだけではない。その国を北側と対立させるため、金と女を使った誘導だ。具体的には、反教会派の粛清、及び不活性化。教会派派閥への利益供与、及び籠絡だ。

 お前らにできるか?」


 うへぇ………。なんだそれ、つまんねー。

 そんなつまんねぇ仕事とか、ホントにやる奴いんのかよ?


 「つまんなそぅー………」


 「その点北なら、お前らのような馬鹿にもできる破壊工作だ。適当に暴れて、適当なところで国外逃亡。簡単な仕事だ。


 と言うか、今朝も全く同じ話をしたんだがな」


 あー………。そういえばそうだったぜ。そんでむしゃくしゃして、この村で憂さ晴らしをしたんだった。くそっ、何思い出させてんだクソキャトル!!またイライラしてきたじゃねぇか!?


 ドスッ、ドスッ。


 「ほら、お前ら、いい加減に次へ向かうぞ。ったく、何で俺がこんな馬鹿共のお守りなんか………」


 「仕方ね。飽きたし、行こうぜ」


 「えぇー、まだ遊び足りないよぉ」


 「………………」


 東の空がやや明るくなってきた。もうすぐ朝が来る。

 日は登り、沈む。そして次の太陽が登って、新しい朝が来る。そうやって世界は回る。


 俺様の為に。


 俺様は、死体が散乱し、ドゥーが遊びで作ったオブジェ犇めく村を振り返り、ニヤリと笑う。


 だって見てみろよ、世界はこんなにも、俺様の為に回っているじゃねぇか。


 「忙しいったら無いぜ、全く」


 「仕方ないよぉ、ドゥー達は選ばれし者だし」


 「そうだな。神の使徒は光の神のご意志のままに、汚れた魔族と魔物と邪教徒を滅するのだ」


 「………………」


 そう、俺様達は神の使徒。光の神に選ばれた、新たな―――




 「仕方ねぇさ。なんたって俺様達、勇者だし」





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