交渉。勘違いの結末っ!?
この交渉、やはり僕の負けだな。
最後の悪あがきすら簡単にあしらわれてしまったのでは、最早打つ手もない。天帝国は、何か僕の知らない情報を持っているのだろう。
「最後に確認をしておきましょう。
僕らからの要求は、僕の造った貨幣と天帝国の通貨の等価交換。それと、正式な外交権」
『こちらは魔法技術の秘匿と悪用の禁止。さらにその技術を秘密裏に開示すること。………それと、交換する貨幣の鋳造を任せる、という条件になるのか?』
条件って言うか、ただの提案だけどね。僕としても、魔法を付与した銅貨を8000000枚用意するのは大変なんだけど、真大陸の通貨に影響を与えかねない量なので仕方がない。 魔大陸の最小額貨幣が半銀貨では、やっぱり使い勝手が悪すぎるからね。
『それらを魔法契約のもと約束してもらえるなら、私からの要望は他にない』
おっと、続きがあったか。
魔法契約ってあれだろ?奴隷紋にも使われている、無属性魔法の『アマルティア・ティモリア』。
つまり直接顔を合わせて、お互いに破れない誓約を交わすのか。となると、当然魔法使いが僕に魔法をかけるわけで、危険が伴う。
いや、『アマルティア・ティモリア』は契約の内容を相手が了承しないとかけれないんだけど、人質をとったり暴力で脅されたりしても『契約』として成り立つんだよなぁ。脅されても首を縦に振らない自信はあるけど、人質取られたりするとなぁ………。無論、そんなまだるっこしい事はせず、直接攻撃される危険も否めないし。
こっちの要求を唯々諾々と呑んだのは、もしかすれば魔法をかける際に裏切るためだったのか?
『ん?どうした?
………ああ、そうか。お主は真大陸国家間の条約の締結に、魔法契約を用いる事はしらなんだか』
「ええ。不幸にも真大陸の国々と親密な付き合いをする機会はありませんでしたから。
ガナッシュでも、そんな事はしませんでした」
『あれはな………。魔法契約は、対等な相手との交渉で用いられるものだ。あの状況ではむしろ不要なものだな』
えー………。超ヤダ。行きたくない………。どんなことされるか心配で仕方ないよ………。
でも、もうすぐ『逢魔が宴』もあるし、出来れば魔大陸の方に集中したい。真大陸のゴタゴタは、出来ればここでスッパリ片をつけておきたい所なんだよな。
「そうですね………。ではこういうのはどうですか?
魔法契約そのものは良いとして、その魔法は僕のマジックアイテムで行う、というのは?」
『む………。………しかしそうか、貴殿には魔法契約より術者とその場所の方が問題なわけだな?』
「理解が早くて助かります」
『そうなると、契約するのは我が国でない方がよいか。
ガナッシュではどうだ?術師もガナッシュで調達すれば、お互いに安心できよう』
やっぱり僕のマジックアイテムは信用できませんかそうですか。
「残念ながら、こちらはそこまでガナッシュを信頼できません。ついこの間戦争したんですよ?」
『ふむ………。それもそうか………。となるとどこで………』
いきなり暗礁に乗り上げたな。ここまではそれなりに順調と言って言えなくもない流れだったけど、直接会うとなると話は別だな。
やはり今までずっと争ってきた真大陸と魔大陸の溝は大きいみたいだ。
『そうだ!』
と、どうしようか悩んでいたら天帝がポンと手を打ちそうな勢いで声を発した。いや、もしかしたら本当にそうしていたかもしれない。
『アムハムラ王国はどうだろうか?』
「アムハムラですか?」
成る程、その発想はなかった。というか、出来れば僕とアムハムラの繋がりを隠しておきたい以上、今回の話に噛ませるつもりはなかったのだが。
アムハムラ王国なら、今回の仲介にはうってつけだ。
真大陸最北端のアムハムラ王国なら、今回の契約に余計な茶々を入れてきたりはしないだろう。真大陸と僕が争えば、その争乱の中心地は当然アムハムラになる。むしろ、厳格に天帝国へ公平な条件と契約の履行を強いるだろう。
というか、今回の件もアムハムラ王に相談しよう。この交渉で天帝が何を考えていたのか、アムハムラ王ならわかるかもしれない。まぁ、通貨についての見識は、アムハムラ王もあまり高くないだろうが。
「それならいいでしょう。アムハムラ王が用意した人材と、用意した場所を使用するのであれば、こちらもそれなりに信頼が置けます」
『うむ。アムハムラ王国なら人間側に寄りすぎない、公平な判断を下せるだろう』
だろうね。逆に、僕に寄りすぎたりもしない。何故ならあの国は真大陸の国家であり、人間の国だ。僕が天帝国に不利な状況にしてくれるよう頼んでも、あの人は絶対に首を縦には振らない。どんな利益をちらつかせても。
ふぅ………。危うく今回の交渉が破談になるところだった。
不明な部分は多いけど、今回の条件は僕にとって都合良くは進んだ。まぁ、商売だったら僕はこんな曖昧な状況で契約を結んだりはしないんだけど、これを逃して次を望めるほど、世の中甘くない。やっぱり外交となると、商売とは別なんだよな。
『ふむ。今決められるのはこの程度か?』
「はい。とりあえずは」
『まぁ、まだ正式には何も決まっておらんがな』
文書を交わしたわけじゃないし、僕か天帝が「そんなの知らん」と言えば、これまでの交渉なんて簡単に水泡に帰す状況だしね。
「そうですね。
ただまぁ、僕としても無闇に真大陸の人間を苦しめるやり方はとりたくないので、今回の話は渡りに船でした」
『絶対に取らない、という保証がほしいところだがな』
「それは無理です。そんな契約を結べば、人間はつけあがるでしょう?」
伊達にこちとら元人間じゃないんだよ。人間の愚かしさだって、それなりに知ってるっつの。
『確かにの』
「では以上で今回の会談はお開きということで。最後に何かありますか?」
『特にな―――あぁ、1つだけあった』
おや?
社交辞令的に聞いただけだったんだけどな。言っとくけど、僕だって無い袖は振れないぞ?
『ガナッシュを中心にした真大陸南北の対立が、激化の兆しを見せておる。
原因は貴殿にもあるのだから、力を貸してもらいたいのだが?』
は?




