戦意
『あ〜、テステス。聞こえてますか〜?』
我輩は、城壁内部に侵入を果たした。
開けた場所に階段があり、とても簡単だった。
簡単に内部に入れるなら、この城壁になんの意味があるのだ。
ここの魔王はバカなのかもしれん。
我輩がそんなことを考えていた時、そんな間の抜けた声が響いた。
『えー、ダンジョンの侵入者諸君、僕がこのダンジョンの主、アムドゥスキアスです』
どうやら声の主は、件の魔王のようだ。
丁度良い。たった今、宣戦を布告し、怯えさせてやろう。
新参の癖に我輩の気分を害した愚か者には、当然の末路である。
しかし、不躾にも魔王は、我輩が言葉を挟む隙もなく話し続けた。
『えー、只今このダンジョンには、脱出方法というものが設置されていません。
一度侵入してしまうと、帰ることができなくなります。
また、侵入者の方々の命の保証もできかねます。
侵入はお勧めできません。どうぞ、お帰りください』
なんだこの挑発は。
我輩に謝るならまだしも、何もせず尻尾を巻いて帰れだとっ!?
「ふざけるなっ!!!」
我輩は、腰に差していた斧を抜き放ち、声の発生元と思われる、黒い物体に叩きつけた。
ギィィィィン!!
鋭い金属音が響いたが、驚いたことに黒い物体には傷一つついて無かった。
『えっと、あなたは他所の魔王ですね。
あまり、他人の庭で暴れるのは品がありませんよ。
僕はただ、帰ってくださいと言っているだけです』
「馬鹿も休み休み言えっ!!
我輩は貴様を殺すっ!
わかったら今すぐここへ来いっ!」
我輩の宣戦布告に、周囲に居た軍団も、殺気を放ち始める。
しかし黒い物体は沈黙したままだ。
もしや怖じ気づいたのだろうか。フン、所詮は新参魔王という事か。
………ん?いや、微かにだが、声が聞こえてくる。
我輩は周囲の軍団を黙らせ、その声に耳を傾けた。
『おいアンドレ、どうしよう、相手が思っていた4倍バカだぞ?』
『そうですね。殺害宣言の後に、投降命令ですからね。これは、言語は通じないものとして、対処しなければならないでしょう』
『パイモンはどう思う?』
『えっと………、魔王コション様は、その武勇や勇猛さとは裏腹に、思考のほうが、ちょっと………』
『うはっ!パイモンも言うねえ』
『ええ、正に言い得て妙ですね』
『もぉー!さっきから皆うるさいのっ!暇ならお風呂掃除手伝ってなのっ!』
「………っ!………、………っっ!!」
怒りを抑えるために、もう一度黒い物体に、斧を叩きつける。
やはり甲高い音だけで、傷一つつかない。
本当に気にくわないっ!!
『あー、まぁそんなカッカしなさんなって。ちょっと黙ってただけだってのに、短気だなぁ。
どうしても中に入るってなら止めないけど、僕は本当に知らないよ?』
「………1つ、………質問がある」
怒りのこもった静かな声で、我輩は問う。
背後で配下の者が、震えているのがわかる。恐らく、我輩の怒りに当てられたのだろう。
「………この道を進んでいけば、………必ずお前が居るんだな?」
『ああ、うん。居るよ。そうだな、君がここまで来れたら、一発だけ無抵抗で攻撃させてあげるよ』
最後の挑発に我輩は、鬱陶しく背後で震えていた奴を切り捨てた。
「ギィャァァァアアア!!」
鋭い断末魔をあげ、その者が死に絶える。
血に濡れた斧を担ぎ、我輩は配下の者共に向き直った。
「この程度で怯えるような弱卒は要らん!!我輩が殺してやるから、今すぐ前に出ろ!!」
静まり返る軍勢に、我輩は頷いてから、宣言する。
「これより、無礼者を殺しに行く!!
アムドゥスキアスを討て!!
手段も方法も問わん!出来るだけ惨たらしく、生きたまま臓物を引きずり出せば良い!!
全軍、進軍再開!!」
雄叫びをあげて進軍を始める軍団。
しかし黒い物体からは、
『結局、殺す方法は指定付きなんだね』
『マスター、彼に論理的な言葉を期待するのは、魚に飛行を要求するような暴挙ですよ?』
『僕はトビウオって魚を知ってるけどね』
『おっと、では彼は魚以下ということになりますね』
間の抜けた声が流れていた。
お陰でまた1人、我が軍からは脱落者が出た。
アムドゥスキアス、決して許さん。