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 閑話・6

 「いざ!」


 「おうよ!」


 「あははは」


 「キアス、これ船?」


 僕とオールとタイルとエレファンは、これから旅に出る。


 海の旅。そう、セイレーンを探す旅だ。


 「我がセイレーンを見つけたのは、ここからかなり南の海じゃ」


 「あいよ、南ね。パイモン、レライエ、アンドレ、進路は任せた!」


 「「はい!」」


 『はぁ………。まぁ、悪い事ではありませんし、いいですけどね』


 3人が返事をすると、同時に船が出航する。


 潜水艦『ケルピー』。懐かしの、僕が造った潜水艦迷宮。全く使ってなかったが、この度ようやく処女航海と相成ったわけだ。


 いや、忘れてたわけじゃないんだけど、使い所が全くなくて………。


 だからこそ、試運転がてら以前話していたセイレーン探しに出ることを思い立ったのである。


 目撃者であるオールは当然として、タイルもセイレーンを仲間にしたがってたし、エレファンも歌が好きなようだったので、3人を呼び寄せたのだ。


 そんなわけで、三大魔王とおまけの弱小魔王が乗る潜水艦は、意気揚々と荒れる北の海に出航したのであった。







 「ぬぉお!?凄いの!絶景じゃ!!」


 「本当だね。こんな綺麗な光景、初めて見たよ」


 「魚、お水、太陽………」


 潜水艦『ケルピー』の上部はガラス張りで、水中が見えるようになっている。というか、レーダーなんか作れないので視認で進む潜水艦なのだ。ならば艦橋だけでなく、船の上部をほとんどガラス張りにしてしまおうと考えたのだ。因みに、あまり深い場所に潜りすぎると真っ暗で何も見えなくなる。一応光魔法のライトはあるが、そんな場所を見ても面白くないのであまり深い場所には行かない。座礁する危険はないんだけどね。


 あぁ、絶景かな絶景かな。


 「なんじゃキアス、我の体に見とれておるのか?」


 「できれば幼女モードじゃなく、お姉さんモードがいい」


 「請け負った!」


 すぐさまナイスバディのお姉さんに変身するオール。当然全裸。


 「あははは、こんな贅沢なお風呂、キアス君以外には造れないね」


 「ん、シャンプー、目に入った。………痛い………ぐすっ………」


 あぁ、本当に絶景だ。深海に沈む浴槽に、3人の美女。湯あみに興じる姿は当然全裸。


 素晴らしい。


 「どれ、キアス。我がその体、清めてやろうぞ?」


 「湯船に入る前に体は洗った。常識だ」


 「いやいや、別の意味で清めて穢れを払ってやろう」


 「やめろ。むしろ穢れる。むしろ汚れる」


 「ふはははは!!裸で我の前に現れた貴様の無策を呪うがいい!!」


 ザバッ、と水飛沫をあげて僕へと飛びかかってくるナイスバディなお姉さん姿のオール(全裸)。何て残念な姿だ。


 僕はそれを、冷めた目で見つめている。


 「ふごっ!」


 僕の目の前50㎝くらいで何かにぶつかったオールが、無様に呻く。


 「僕が何の準備もせずお前と風呂に入ると思っていた、自らの浅慮を反省するんだな」


 結界のマジックアイテムくらい用意してるっての。

 襲われてたまるかっ!


 「なんと無粋な!貴様、それでも男か!?」


 「責任も取れない行為はしない主義だ」


 「責任を持って子作りすれば良かろう!」


 「やだ!僕はまだ父親にはなりたくない!!」


 相変わらずの問答を繰り広げる僕とオール。そこにエレファンを介抱したタイルがやってくると、僕らを見て苦笑する。


 「相変わらず仲が良いなぁ。お姉さん、ちょっと妬けちゃうな」


 「タイル、もうこいつそっちで子供作ってくれよ。僕は疲れた………」


 「あははは………。ボク、こんな体だからね………」


 乾いた笑いを漏らし、平坦すぎるほどに平坦な自分の体を見下ろすタイル。

 少年のような体型のタイルは、もしかしたら自分の体にコンプレックスでも持っているのだろうか?


 だとすれば!!


 僕とオールは瞬時に視線を交わし、アイコンタクトでお互いの考えが同じである事を悟る。一回だけ頷き、2人でタイルの元へ。あ、僕は結界を消しておこう。


 「何を言っておるのじゃタイル。この滑らかな白磁の肌、実に美しいぞ?」


 「へ?」


 いきなり両隣を僕とオールに陣取られ、慌てるタイル。だがもう遅い。


 「柔らかく、瑞々しい肌じゃ。食べてしまいたいのぅ………」


 「ちょ!?オールっ!?」


 「僕ってさ、ちょっとだけ髪フェチなんだ。そんな僕から見て、タイルの金の癖っ毛はかなりそそられるぜ?

 ふちゃふちゃで、艶やかで、最高の指通りだよ?」


 「キ、キアス君もっ!何してんのさ!?」


 頭を撫でてます。というか、髪を撫でてます。リンスをしたばかりだからか、手櫛でも全然引っ掛からない滑らかな感触。


 「ひゃっ!?ちょっ、どこ触ってんのさ、オール!?」


 「なんじゃ?我はただ腹を撫でておるだけじゃ。見事なくびれじゃ、美しい」


 「ちょ、なんなんだよ2人ともさっきから―――あっ!」


 「あ、ごめん、ちょっと耳も撫でちゃったね?嫌だった?」


 「い、嫌じゃないけど………ふぁっ!?」


 「嫌じゃないならもうちょっと撫でてて良いかい?タイルの耳、すごく可愛い」


 「ちょ、も、やめっ」


 「腹に置いた手はどうしようかのう?上にやってほしいか?下にやってほしいか?」


 「だ、だめ………」


 「ダメじゃわからんぞ、愛い奴め。ならば我の独断で………」


 「やぁっ、ちょっ!?」


 「可愛いヘソじゃ。ほんにタイルは可愛いところばかりじゃのぅ」


 「や、やめぇえ………」


 「そうだぞ。タイルは可愛い。可愛いタイルを貶す奴は、例えタイル本人でも許さないんだからな。

 お仕置きしちゃうぞ?」


 「だ、だめぇ………」


 魔大陸1の遊び人と、口から生まれたと揶揄される魔王。2人の攻撃はまだ続く。


 「うなじにホクロみっけ。これも撫でて良い?」


 「次はどこを撫でてほしいのじゃ?ホレ、言うてみよ」


 「鎖骨も可愛いなぁ」


 「キアス、そこは我が狙っていた場所ぞ!?もう少しで胸ではないか!?」


 「早い者勝ちだよ。タイルの可愛いところは、全部僕の物だ!」


 「なんの!では太ももは我がもらうでの!あぁ、太ももなのにこんなに細い。たおやかで愛らしいぞ」




 「もうやめてぇぇぇーーー!!!!」




 海の魚たちが僕らを見て、その顔を赤くしていたかどうかは秘密だ。







 「青いなぁ!!南の海!!」


 踊る魚、煌めく水面、騒ぐ潮風。実に最高のロケーションだった。


 「うむっ!我がセイレーンを孕ませたのも、確かこんな海じゃった!!」


 元気な僕とオールを後目に、疲れたのかパイモンとレライエは休憩中。エレファンはいつも通りのマイペースだ。


 「もうお嫁に行けない………」


 そしてなぜか落ち込んでるタイル。っていうか、魔王が嫁入りなんてするの?婿をもらう方じゃね?


 「何の、責任ならば我がとる!安心せよタイル!」


 「………不安でしかないよ………。キアス君、キミはちゃんと責任取ってよね!?」


 「勿論!タイルも僕のハーレムに歓迎しよう!!」


 「ああ………、そうだった………。キアス君も何気にエッチだったんだ………」


 失礼な。僕はいつでも紳士だよ?さっきも一線を越えるような行為はしてなかっただろ?


 「さて、ではどうするかの?」


 「どうするって?」


 「セイレーンじゃ!」


 「ああ………」


 なんかもう、セイレーンとかどうでも良くなっちゃった。


 「………」


 「………」


 沈黙。

 セイレーンかぁ………。


 「よし!適当に遊びつつ、セイレーンがいなかったら諦めよう!」


 「うむっ!!それが良いの!!」


 「ちょっと待ってっ!?ボクがここまで来た意味はっ!?」




 「「ごちそうさまでした!!」」




 2人揃ってタイルに手を合わせる。


 「もうやだぁ!!」


 「タイル、ごはんにダゴン獲ってきた」


 マイペースに上級の魔物を狩ってきたエレファンが慰めるも、タイルはしばらく落ち込んだままだった。





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