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 魔王のスポークスマンっ!?

 「ぅ、ウェパルです………」


 可愛らしい女の子。サイドテールを揺らし、勢いよくお辞儀するウェパル。つぶらな瞳に怯えを浮かべ、人見知りモードで僕の学ランの裾を掴むウェパルを見て、ナモさんはクールな素振りを崩しきっていた。


 「お、女の子ですよ!?」


 「男の子には見えませんね」


 「人間ですよ!?」


 「人間以外には見えないですね。僕は魔族を見たことはありませんが」


 「こ、こんなにちっちゃくて、可愛らしいのにっ!?」


 「ええ、可愛いですよねぇ」


 「魔王の配下なのですかっ!?」


 「魔王の配下なのです」


 つつがなく応答をして、つづがなくウェパルの紹介を終える。可愛い女の子で、とっても可愛い女の子で、魔王の配下で、可愛い女の子。これ以上にウェパルを紹介し得る表現は他に無い。


 ここソドムにおいて、僕への窓口は彼女しかいない。


 本当は僕こそが魔王であり、その意味でセン君は間違っていて、それでいて図らずも直接のコンタクトをとれたというわけだ。


 「こほん」


 散々っぱら取り乱した後、ナモさんがわざとらしい咳払いで取り澄ます。最早白々しいといって何の過言も無い。


 「それでは、ウェパルさん、でよろしかったですか?」


 「は、はぃ………」


 「ではウェパルさん、こちらのお手紙を魔王陛下へと、必ず、お届けください」


 そんな『必ず』を強調しなくても、僕はここに居るしウェパルは仕事はちゃんとこなすよ。失礼だなぁ。ウェパルをただの子供だと思うなよ?ウェパルは一生懸命でとっても可愛いただの子供だぞ?


 「キアス殿、あなたは魔王と面識は無いのですか?」


 「ないですね。話したことはありますが。

 ウェパルは、僕らがここに出店したときに魔王から預かったのです」


 「そ、そうですか………」


 あ、なんか戦慄してる。僕も魔王の仲間だと疑ってるのかな?


 「ウェパル、返事は明日くらいにはもらってこれる?」


 「は、はいぃ!」


 「そか。んじゃあナモさん、お返事は明日ということで。あ、それと商業組合への出資の件、確かに承りましたよ」


 「よ、よろしくお願いします………」







 話が終わり、ナモさんが宿を探しに去っていき、セン君といくつか情報交換をしてから別れ、商会の接客を元奴隷の従業員に任せて、僕とウェパルはダンジョンに戻る。


 「お手紙、ねぇ」


 開封しなくても、手紙の内容は察しがつく。




 お金の話だ。




 僕の造るお金と、天帝国のお金。その2つについてだろう。


 今まで市場を独占していた天帝国貨幣。そこに介入を始めた僕の貨幣。

 普通に考えて手紙の内容は警告。次点の可能性は相談。この2つの可能性はやや前者に偏っているものの、後者の可能性だって前者にかなり肉薄する。つまり、どちらの可能性もあるということ。

 前者の場合、天帝国との敵対も予想されるので、僕としてはできれば後者が望ましい。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。


 罠の可能性も考え、僕は腕輪をつけ、魔王の間で封筒を開く。魔法でいきなりボン!とかも警戒しないとね。封筒に、紙以外の何かも入ってるみたいだし。


 「ご、ご主人様っ!」


 おっと、ウェパルが来ちゃった。罠の可能性もあるから、僕だけで開封したいので封筒から手を離す。


 「どうした?」


 「ゥ、ウェパルをご主人様の仲間として紹介してよかったんですか!?」


 ああ、その事か。いや、ウェパル以外に適任が居ないでしょ。これ以上コーロンさんを酷使したら、魔王でない彼女は倒れちゃうし、他に人間でありながら僕の仲間として窓口になり得る人物が居ないんだ。言っちゃ悪いが、フォルネゥスをこの程度の役割に置いとくつもりはない。


 「大丈夫だよ。ウェパルはソドムの街における僕の代理だからね。自覚なかった?」


 「な、無いですよぉ!ウェパルにそんな重責、無理ですよぉ!」


 まぁ、ウェパルの年齢から考えて、そんな重責を担う子供は他に居ないだろう。いや、真大陸側の魔王に対する窓口という事は、下手な王よりその責任は重いと言わざるを得ない。


 「フフフ。こういうのはね、公表していた方がウェパルの安全が確保できるのさ。何せ、ウェパルの存在は、ある程度知れ渡ってしまった。そうなれば、代えがなく掛け替えの無い存在にしてしまえば、害意をかわしやすい。

 下手にウェパルを害したりさらったりすれば僕の怒りを買うばかりか、即戦争。停戦交渉も降伏すら不可能。ま、非殺傷結界、転移、何か問題が起きてもウェパルの逃走手段は確保してるし、公表するとは言っても喧伝するわけではない。僕と交渉したい人間以外には、ほとんど知られる事はない」


 ソドム以外では。

 これはウェパルには秘密だが、いずれ住人が増えてウェパルに否定的な人間が現れれば、秘密裏に対処はしようと思っている。そうならないように、ウェパルの経歴を含めてソドムには噂を流しているが、例外が現れないなどと慢心するつもりはない。

 ウェパルを悲しませた奴には極刑と獄門、どちらか好きな方を選んでもらう。その前に、地獄というものがいかに現世で再現できるかも試そうか。えーと、針山と………あと知らね。オリジナルでいいか。


 え?当然だろ?


 「ご主人様のお役に………、………立てます?」


 「勿論」


 「じゃ、じゃあがんばりゅましゅ!!」


 うん、頑張ってくれ。サポートはするから。主に保身の面で。


 「さ、仕事に戻ってくれ。僕はこの手紙を読んでから戻るから」


 「はいっ!!」


 いいお返事です。

 駆けていくウェパルを見送り、扉が閉まるのを待って今度こそ手紙を開封する。

 封筒から出てきたのは手紙と、もう1つ。


 通信用イヤリング。




 そう来たか………。





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