天帝からの招待状っ!?
極々普通の日。
朝起きて、飯食って、歯を磨いて、ちょっと書類を片付けて、仕事に出る。そんな普通の日は、とあるビックニュースで普通ではない日になった。
「どうもキアスさん」
「やぁ、セン君!久しぶり」
店で品出しをしていたらセン君が訪ねてきた。久しぶりと言ったが、実は会合などで結構顔は合わせる。ここソドムでは、商人達が協力して商売を成り立たせているので、頻繁に会合が開かれるのだ。セン君とも5日ぶりくらいだ。
「景気はどうだい?」
「今回の材木の高騰は助かりました。キアスさんの情報がなければ、ウチも損するところでしたよ」
まぁ、今回の高騰は産地の1つがバハムートに襲われたために起こったものだ。実際は木材の産地なんて他にもあるのだし、そこまで大きな材木不足にはならないのだが、それでも不安から買い漁ってしまうのが商人の性。何より、木材は保存が効くので、ある程度手元に置いておいてもいいし、捌けやすいので不良在庫にもなりにくい。暖房や調理は、この世界では薪がなければ出来ないからね。
まぁ、今は僕のマジックアイテムは高額で貴族しか手を出せないが、その内値崩れするはずなので、それが庶民に出回る頃には木の需要は少しずつ減るだろう。
「おっと、今日はキアスさんにお客さんがいたんでした。いやぁ、いてくれて良かった」
「客?」
シャンプーとリンスの件か?だとすれば、店頭販売だからと買い占めに来たのかもしれない。まぁ、捌けたら捌けたで、新しいものを作ればいい。輸送費の分、注文販売は高いからな。
「あなたがキアス殿ですか。そしてここが幻のパイモン商会………。
あ、失礼いたしました。私は商業組合リュシュカ・バルドラ本部、副組合長を勤めております、ナモ・マクレガーと申します。以後お見知りおきを」
「商業組合!?」
これは朗報。ついにこのソドムにも商業組合が進出してきてくれるのか?助かるなぁ。ここの商人はほとんどが鎖袋を持っているので、お金を置いておくスペースには困らないのだが、やはり強盗や窃盗の不安は拭えない。いや、殺される心配はないので、強盗には強気で対応してくれと通達はしてるんだけどね。やっぱり刃物を向けられるのは怖いんだ。
商業組合が支部を出してくれれば、貯金ができる。その心配も軽減するだろう。
「初めまして、僕はキアスです。しがない専属の行商人です」
「初めまして。しかし、しがないなどとはご謙遜を、キアス殿の名は本部では有名ですよ?
今日はマルバス殿やハーゲンティー殿はおられないのですかな?」
30代くらいのマクレガーさんは、人族の女性。スーツとは違うが、ややかっちりした服装のキャリアウーマンって感じだ。
しかし、マルバスやハーゲンティーの名まで知られてるのか。流石、商人の財政状況を探るために天帝国が造った組織だな。僕のような木っ端商人の事まで詳しく調べられるなんて。
「マクレガーさんは、今日はどのようなご用件で?」
「ナモでよろしいですよ。1つはこの街に商業組合を出店するための出資をしていただきに、もう1つは天帝天下からのお手紙を預かっております」
「ええっ!?天帝様ご直筆でですかっ!?」
ちょっと大袈裟に驚いておく。まぁ、いずれ商業組合か天帝国からコンタクトがあるとは思っていたが、まさか両方同時にとは思っていなかったので、驚いたのも本当だ。
「あははは。キアスさんが驚くなんて、珍しいですね。まぁ、僕も驚きました。でも、内容を見たらもっと驚きますよ?」
それはどうかな。手紙の内容は十中八九想像がつく。
「こちらのザチャーミン商会様にお手紙を持っていったところ、その内容であればこちらの商会が適任だと伺いました。
あ、勿論私共は手紙の内容を一切知らないので、詳しくは何の事だかわからないのですが」
だろうね。僕の想像通りの内容であれば、セン君達より僕らの方が適任だ。適任と言うか、
「………マジですか?」
手紙の内容はほぼ予想通り。ただここは、ビビった演技をしないといけない。それくらい真大陸の常識的にはあり得ないことだった。
「僕も驚きました。あ、それと、これは内密な話なのであまり人に伝えたりはしちゃダメですよ。って、あなたには司教に神の愛を説くようなものですね、ごめんなさい」
「私共も、手紙の内容には関知いたしません。ただ、お返事は私共を通じていただけると、スムーズにやり取りができるかと愚考いたします」
まぁ、僕らが直接天帝に手紙を出しても、目を通してくれるかわかんないしね。商人からの手紙なんて、順番待ちだけで何年かかることやら。その点、商業組合を通せば話は早い。
「わかりました。ではナモさん、天帝様からのお手紙を預からせていただいてもいいですか?」
「?お手紙は先ほどあなたが読みましたが?」
「ああ、いえ、この手紙ではなく―――」
ナモさんは不思議そうに首を傾げ、セン君は苦笑している。
「―――もう一通の方、天帝様から、魔王様へのお手紙の方です」
「ッ!?」
隠していたのだろうが、だとしたらそもそもどうやって魔王と渡りをつけるつもりだったのだろうか、この人。
「大丈夫ですよ。ウチには魔王様直属の配下が従業員にいますから」
「なななななななな!?」
クール系なお姉さんの慌てる顔は、なんとも可愛らしいねぇ。
「おーい、ウェパル」
「はぁーい」
店の奥からトコトコ出てきたウェパルを見たときの彼女の顔に、流石の僕とセン君も吹き出してしまったのは仕方の無い事だと思う。




