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 さよならクルーンっ!?

 いい奴だった………。


 仕事はそこそこ出来るし、残業も山のようにやってくれて、何より泣き言を言いながらも律儀に全部の仕事をこなしてくれた。戦闘能力では僕らの中でも抜きん出ていて、いざという時には本当に頼りになった。


 あぁ、今となってはお前の良い所ばかりを思い出してしまうよ、クルーン。


 本当に惜しい奴を失った………。




 「生きてるぞ」


 「なんだ、まだいたのかクルーン」


 「レライエに仕事の引き継ぎがあるのだ。それに、領地に戻っても定期的にこっちに来なければならん。同盟の件もあるしな」


 そう、一応デロベの件が一段落したので、クルーンは元の支配地域に戻ることになった。放っておけば、遠からずコションの支配地域の二の舞だったからな。一応、そうはならないように対策は打っていたが、クルーンがいない状態ではやはり限界がある。


 僕のところでの経験が、クルーンのこれからの統治に役立ってくれれば言うことはない。さよならクルーン、また会う日まで。


 「だからまだ出ていかぬと言っているだろう!!それに定期的に戻ってくるとも!」


 「そうか。まぁ、僕は忙しい。お前との別れを惜しんでやる時間も、今だけだ。仕事があるからな」


 今日だってアムハムラ王に呼ばれてるんだ。きっと材木の件だな。今高騰してるし。


 「別に期待してはいない。ここでは私は厄介者だったからな」


 ん?厄介者?


 「それはどういう―――」


 「クルーン様!あぁ、良かった。まだいらっしゃったのですね!」


 僕の質問を遮って、パイモンが入室してきた。


 「出立はいつですか?」


 「明日か、早ければ今日の夕方になる」


 「そうですか………。私はキアス様の護衛で外に出なければなりませんので、恐らく見送りには間に合いません。

 ですから、今のうちにお別れとお礼を告げようと思って」


 「ふふ。律儀だな」


 「いえ!先達たるクルーン様に手解きしていただいたご恩、私は決して忘れません。どうかご領地に戻られてもご武運を」


 深々とクルーンに頭を下げ、そして僕にも一礼して部屋を出ていくパイモン。まぁ稽古に付き合ってもらっていたらしいし、パイモンらしいな。


 「棍の腕前はパイモンが遥かに上だ。この体がなければ、稽古風景は私とパイモンが逆転していただろうな」


 「あー………、なんか知らんが、最近のお前ネガティブ過ぎね?」


 別に前の自信過剰なクルーンが良いとは言わないが、今のこれはこれで鬱陶しい。


 「それにお前は―――」


 「クルーン様、ちょっとよろしいでしょうか?おや、キアス様。いらしていたのですか」


 またも僕の言葉は遮られ、レライエが入室してきた。レライエは僕に一礼すると、クルーンの前に進み出てパイモン同様に深々と頭を下げた。


 どうでも良い違いだけど、レライエのお辞儀はパイモンよりどこか優雅な所作に見える。パイモンは師に対する礼であり、レライエは目上の者に対する礼、といった感じだ。


 「妾の勝手な振る舞いで、クルーン様にもご迷惑をお掛け致しました。

 クルーン様のお陰でキアス様のご負担も軽減され、街も堅実に運営できております。このご恩、レライエは必ずお返しいたしますよし、どうかご記憶くださいまし。


 引き継ぎの資料に目を通さねばならぬので、これにて失礼いたします。ではキアス様、後ほど………」


 そう言って部屋を出るレライエ。残される僕とクルーン。


 うーん、なんか今のこいつ面倒くさいし、僕も帰ろうかな。何が悲しくて男なんか慰めなきゃならん。慰めるなら、男より女だ。


 「算術も、治世の手腕も、完全にあいつの方が上。私はあくまでそれを維持しただけにすぎん」


 「あのさー」


 僕はようやくクルーンに言う。


 「別にお前がどう思ってもいいけどさ、そうやって他人を羨んでばかりいて何が楽しいの?」


 上を見るのは良い。他者と自分の違いに嘆くのだって、たまには必要だろう。だけどさ、


 「あれもこれも全部1人で出来るようになりたいなら、お前には手足があと1000本ばかしたんねぇみたいだな。付けてやっても良いけど、そうなればお前は10000本の手足が欲しくなる。


 結局、魔王だなんだ言われても1人にできることなんてたかが知れてんだぜ?」


 だからこそ仲間が必要で、だからこそ仲間を頼るのだ。


 「お前はお前、他人は他人。お前にできることが僕にできなくて、僕にできることがお前にできなくても、お前と僕が組めばほら、



 何でもできる。




 だからいつまでも、そんな下らない事ばっか考えてんなよ。ウザったいから」


 僕はそう言って部屋を出る。ホント、調子狂うわー。最初の傲岸不遜なピエロの方が何倍もマシだ。


 あ、餞別渡すの忘れてた………。


 今から戻るのも格好悪いし、仕方がないので後でもう一度来よう。







 はぁ………、疲れた………。


 アムハムラ王も人使いが荒いんだもんなぁ。王国空運があれば、国内の各地に1日とかからず物資を配れるだろうに、僕にやらせるんだもん。参っちゃうよ。

 あの人、僕が魔王だって忘れてんじゃないの?


 まぁ、ここで寒さに凍えるアムハムラ国民を見捨てるのは寝覚めが悪いし、1日でも早く新しい家の建設に着工できるなら否はないけどさ。


 お陰でこっちは遅刻しそうだよ!別に後からでも良いは良いんだろうけど、やっぱり格好がつかないじゃん!


 「レライエ、状況は?」


 「なんとか押し止めていますが、不審を買っています。出来ますれば、お早く!」


 よし。


 出来ればパイモンも連れてってやりたいけど、そうなると飛行機の乗り手がいなくなる。今回は我慢してくれ。


 「悪いな」


 「いいえ。私はもう済ませましたから」


 僕は転移の指輪で一度神殿へと跳ぶと、今度は神殿の転移陣からゴモラへと跳ぶ。


 最初からゴモラに跳ぶ指輪もあったのだが、今回は使わない。なぜなら、それではあまり意味がないから。


 「お帰りなさいませ、キアス様」


 「ただいま。準備はできてる?」


 「万事つつがなく」


 「よし」




 じゃあ、行こうか。





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